今回は、「経済学・経済政策 ~H28-15 予算制約と消費者の選択行動(3)予算制約線と無差別曲線~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
予算制約線・最適消費点 -リンク-
本ブログにて「予算制約線」「最適消費点」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 無差別曲線・予算制約線・最適消費点・代替効果と所得効果のまとめ
- R3-16 代替効果と所得効果(8)予算制約線・代替効果と所得効果
- R2-13 予算制約と消費者の選択行動(1)予算制約線
- H27-14 予算制約と消費者の選択行動(4)効用最大化
- H26-15 予算制約と消費者の選択行動(5)最適消費点
- H25-19 予算制約と消費者の選択行動(6)予算制約線
効用
消費者は、財を消費することによって「効用」を得ることができます。
「効用」とは「財の消費によって消費者が得られる満足度」のことをいいます。
無差別曲線
「無差別曲線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、縦軸に「Y財の消費量」を、横軸に「X財の消費量」を取ったグラフで表される「ある消費者が等しい効用水準を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
消費が増加すると効用が高まる一般的な2つの財の「無差別曲線」は以下の図のようになります。
「無差別曲線」では、「同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用水準は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
また、もう一つ、「無差別曲線」は以下の図のように「3本」しかないわけではなく無数に存在するという特徴も理解しておくことが重要です。
予算制約線
「予算制約線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、「X財の消費量X」と「Y財の消費量Y」のグラフで表される「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
予算制約線の求め方
「予算制約線」の求め方について説明します。
X財の価格が「PX」であり、Y財の価格が「PY」である場合、X財とY財を消費するときの「総支出」は以下の式により求めることができます。
「予算制約線」とは「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」であるため「予算(M)= 総支出」となる以下の条件式が成立します。
上記の式を「Y=」という形に変形した以下の式が「予算制約線」です。
したがって「予算制約線」は以下のように表すことができます。
「予算制約線」において、X財とY財を消費するときの「総支出」が予算内に収まっていることを表している「予算制約線」より左下の範囲を「入手可能領域」といいます。なお、「予算制約線」より右上の範囲は「予算オーバー」であることを示しています。
予算制約線のシフト
「予算制約線」は「X財の価格(PX)」「Y財の価格(PY)」「予算(M)」などの条件が変化するとシフトします。
X財の価格が変動する場合
X財の価格が下落する場合
「X財の価格(PX)」が下落する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」は変わりませんが「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」が大きくなり「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」が小さくなるため、「予算制約線」は以下の通り右方にシフトします。
X財の価格が上昇する場合
「X財の価格(PX)」が上昇する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」は変わりませんが「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」が小さくなり「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」が大きくなるため「予算制約線」は以下の通り左方にシフトします。
Y財の価格が変動する場合
Y財の価格が下落する場合
「Y財の価格(PY)」が下落する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」は変わりませんが「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」と「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」が大きくなるため、「予算制約線」は以下の通り上方にシフトします。
Y財の価格が上昇する場合
「Y財の価格(PY)」が上昇する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」は変わりませんが「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」と「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」が小さくなるため、「予算制約線」は以下の通り下方にシフトします。
予算が変動する場合
予算が増加する場合
「予算(M)」が増加する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」は変わりませんが「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」と「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」が大きくなるため、「予算制約線」は以下の通り平行に右上方にシフトします。
予算が減少する場合
「予算(M)」が減少する場合の「予算制約線」のシフトについて確認します。
「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」は変わりませんが「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」と「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」が小さくなるため、「予算制約線」は以下の通り平行に左下方にシフトします。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成28年度 第15問】
ある個人が限られた所得を有しており、財X1と財X2を購入することができる。下図には、同一の所得にもとづいて、実線の予算制約線Aと破線の予算制約線Bとが描かれている。また、予算制約線Aと点Eで接する無差別曲線と、予算制約線Bと点Fで接する無差別曲線も描かれている。下図に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 等しい所得の下で予算制約線が描かれているので、点Eと点Fから得られる効用水準は等しい。
イ 予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、予算制約線Bの方が、財X2の価格が高いことを示している。
ウ 予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、予算制約線Bの方が、実質所得が高いことを示している。
エ 予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、両財の相対価格が異なることが示されている。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
予算制約線と無差別曲線と最適消費点に関する知識を問う問題です。
「無差別曲線」とは「ある消費者が等しい効用を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいい、「予算制約線」とは「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
(ア) 不適切です。
「無差別曲線」とは「ある消費者が等しい効用を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「無差別曲線」では、「同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用は等しくなりますが、問題で与えられた図において、点Eと点Fは異なる無差別曲線上に存在するため、効用水準が異なります。
したがって、等しい所得の下で予算制約線が描かれていますが、予算制約線Aの方が予算制約線Bよりも実質所得が高く、点Eと点Fから得られる効用水準は等しくない(点Eの方が点Fよりも効用水準よりが高い)なるため、選択肢の内容は不適切です。
「等しい所得」の下で予算制約線が描かれているにもかかわらず、予算制約線Aと予算制約線Bで得られる効用水準が異なるのは「実質所得」が異なっているためです。
「実質所得」とは財を消費できる貨幣の価値であり、「等しい所得(=名目所得)」であったとしても、財X1の価格が高騰(または価格下落)すれば、「実質所得」が低く(または高く)なり、財X1を消費できる数量が減少(または増加)するため、効用水準が低下(または上昇)します。
(イ) 不適切です。
「予算制約線」とは「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「X財の価格(PX)」が下落する場合、「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)( M ÷ PY )」は変わりませんが「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量( M ÷ PX )」が大きくなり「予算制約線の傾きの絶対値( PX ÷ PY )」が小さくなるため、「予算制約線」は以下の通り右方にシフトします。
問題で与えられた図においては、財X1の価格は予算制約線Aの方が予算制約線Bよりも低いこと、および財X2の価格は予算制約線Aと予算制約線Bで同じであることを表しています。
したがって、予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、財X2の価格が同じであることを示しているため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「予算制約線」とは「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「予算制約線」において、X財とY財を消費するときの「総支出」が予算内に収まっていることを表している「予算制約線」より左下の範囲を「入手可能領域」といいます。なお、「予算制約線」より右上の範囲は「予算オーバー」であることを示しています。
「入手可能領域」の面積が大きい方が実質所得が高いことを示しているため、問題で与えられた図においては、予算制約線Aの方が予算制約線Bよりも実質所得が高いことを表しています。
したがって、予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、予算制約線Bの方が、実質所得が低いことを示しているため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
「予算制約線」とは「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
予算制約線を式で表すと以下の通りです。
「予算制約線の傾きの絶対値」が2財の相対価格を示しているため、問題で与えられた図において、予算制約線Aと予算制約線Bの傾きが異なるということは2財(財X1・財X2)の相対価格が異なっていることを表しています。
したがって、予算制約線Aと予算制約線Bを比較すると、両財の相対価格が異なることが示されているため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
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