今回は、「経済学・経済政策 ~R1-15-2 利潤最大化仮説(2)費用最小化点~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
等費用線・等産出量曲線(等量曲線)・費用最小化点 -リンク-
本ブログにて「等費用線」「等産出量曲線(等量曲線)」「費用最小化点」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 等費用線・等産出量曲線(等量曲線)・費用最小化点のまとめ
- R4-16-1 利潤最大化仮説(6)等費用線
- R1-15-1 利潤最大化仮説(1)等費用線
- H30-18-1 利潤最大化仮説(3)費用最小化点
- H30-18-2 利潤最大化仮説(4)費用最小化点と技術的限界代替率
- H29-15 利潤最大化仮説(5)等費用線
等費用線
「等費用線」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「総費用が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
等費用線
等産出量曲線(等量曲線)
「等産出量曲線(等量曲線)」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「産出量が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「等産出量曲線(等量曲線)」では「同一の等産出量曲線(等量曲線)上においてはどの点を取っても産出量は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
等産出量曲線(等量曲線)
また、「等産出量曲線(等量曲線)」は以下の図のように「3本」しかないわけではなく無数に存在しており、右上にある「等産出量曲線(等量曲線)」ほど産出量が多いという特徴も理解しておくことが重要です。
技術的限界代替率(MRTS)
「技術的限界代替率」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「産出量が一定であるという条件において、労働投入量を1単位増加したときの資本投入量の減少分」のことをいい、「等産出量曲線(等量曲線)」の接線の傾きの絶対値として表されます。
「等産出量曲線(等量曲線)」は、原点に対して凸の形状をした曲線であり、労働投入量の増加に伴い「技術的限界代替率」が徐々に減少していきます(逓減する)。
費用最小化点
「費用最小化点」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「ある産出量を生産するための総費用を最小化する生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを示す点」のことをいい、「等費用線」と「等産出量曲線(等量曲線)」の接点として表されます。
費用最小化点
等費用線の変化に伴う費用最小化点のシフト
「等費用線」の変化によって「費用最小化点」がどのようにシフトするのかについて確認するため「賃金率が下落した場合」を例として以下に説明します。
- 「賃金率(w)」が下落すると、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」は変わりませんが「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」が大きくなるため「等費用線」も右方に拡大します。
- 右方に拡大した「等費用線」は「賃金率(w)」が下落する前の「等費用線」が接していた「等産出量曲線(等量曲線)」よりも産出量が多い、新たな「等産出量曲線(等量曲線)」と接します。(等産出量曲線(等量曲線)がシフトするわけではありません。もともと等産出量曲線(等量曲線)は無数に存在しています。)
- この新たな「等産出量曲線(等量曲線)」と右方に拡大した「等費用線」との接点が「総費用(TC)」が増加した場合の「費用最小化点」となります。
賃金率が下落した場合
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第15問】
下図は、産出と費用の関係を描いたものである。労働と資本の両方を可変的インプットとして、生産要素の投入と生産物の産出との関係を描いたものが等産出量曲線である。また、等費用線は、一定の費用のもとで労働と資本をどのくらい投入することが可能かを表している。
この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問2)
等費用線が右方に平行移動した場合の記述として、最も適切なものはどれか。
ア 新しい等費用線における費用最小化は、点Eと費用は同じであるが、賃金率と資本のレンタル価格がともに高い水準で達成される。
イ 新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも産出量が高い水準で達成される。
ウ 新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも産出量が低い水準で達成される。
エ 新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも労働と資本がともに少ない水準で達成される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問2)
等費用線が右方に平行移動した場合の費用最小化点に関する知識を問う問題です。
「設問2」では「等費用線」が変化したときに「費用最小化点」がどのように変化するのかについて問われています。
生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、「等費用線」とは「総費用が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいい、「等産出量曲線(等量曲線)」とは「産出量が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「費用最小化点」とは「ある産出量を生産するための総費用を最小化する生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを示す点」のことをいい、「等費用線」と「等産出量曲線(等量曲線)」の接点として表されます。
費用最小化点
問題文に記述されている「等費用線が右方に平行移動した場合」とは総費用が増加した場合のことを示していますが、総費用が増加した場合「等費用線」の変化によって「費用最小化点」がどのようにシフトするのかについて確認します。
- 「総費用(TC)」が増加すると「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」と「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」が大きくなるため「等費用線」は右方(右上方)に平行シフトします。
- 右方(右上方)に平行シフトした「等費用線」は「総費用(TC)」が増加する前の「等費用線」が接していた「等産出量曲線(等量曲線)」よりも産出量が多い、新たな「等産出量曲線(等量曲線)」と接します。(等産出量曲線(等量曲線)がシフトするわけではありません。もともと等産出量曲線(等量曲線)は無数に存在しています。)
- この新たな「等産出量曲線(等量曲線)」と右方(右上方)に平行シフトした「等費用線」との接点が「総費用(TC)」が増加した場合の「費用最小化点」となります。
総費用が増加した場合
(ア) 不適切です。
右方(右上方)に平行移動した後の「等費用線」は、平行移動する前の「等費用線」より総費用が増加しているため、平行移動した後の「等費用線」上に存在する「費用最小化点」は、平行移動する前の「等費用線」上に存在する「費用最小化点」よりも総費用が増加しています。
したがって、新しい等費用線における費用最小化は、点Eと費用は同じではなく高い水準であるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
右方(右上方)に平行移動した後の「等費用線」は、平行移動する前の「等費用線」より総費用が増加しているため、平行移動した後の「等費用線」と接する「等産出量曲線(等量曲線)」は、平行移動する前の「等費用線」と接する「等産出量曲線(等量曲線)」よりも産出量が増加しています。
つまり、平行移動した後の「等費用線」上に存在する「費用最小化点」は、平行移動する前の「等費用線」上に存在する「費用最小化点」よりも産出量が増加しています。
したがって、新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも産出量が高い水準で達成されるため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
「選択肢(ウ)」の内容は「選択肢(イ)」の内容と真逆の説明となっています。
したがって、新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも産出量が低い水準ではなく産出量が高い水準で達成されるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
一般的に、総費用が増加した場合、以下の図のように「等費用線」が右方(右上方)に平行移動するのに合わせて「資本投入量」と「労働投入量」も増加して「費用最小化点」が「右上方」に移動します。
しかし、以下の図のように「資本投入量」の大幅な増加(K0→K1)により飛躍的に効率性が高まり、「労働投入量」が減少(L0→L1)しても、産出量を増加させるというケースも考えられます。
また、「資本投入量」を減少させても「労働投入量」を大幅に増加させることで産出量を増加させるというケースも考えられます。(あまりない気もしますが。)
ただし、「資本投入量」と「労働投入量」の両方を減少させると総費用が必ず減少してしまうため、右方(右上方)に平行移動した後の「等費用線」に「資本投入量」と「労働投入量」の両方を減少させた点というものは存在しません。
したがって、新しい等費用線における費用最小化は、点Eよりも労働と資本がともに少ない水準では達成することはできないため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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