令和2年度の事例Ⅳの「第1問」に関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
目次
事例Ⅳ ~令和2年度試験問題一覧~
令和2年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
経営分析
「経営分析」では、企業の財務諸表に基づき、その企業の経営状況を定量的に分析していきます。定量的に分析して企業の経営状況を正確に把握することによって、経営者が意思決定を行うための情報を提供することを目的としています。
第1問
与件文と財務諸表に基づき、経営分析を行う問題です。
第1問(配点25点)
(設問1)
D社および同業他社の当期の財務諸表を用いて比率分析を行い、同業他社と比較した場合のD社の財務指標のうち、①優れていると思われるものを1つ、②劣っていると思われるものを2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、計算した値を(b)欄に記入せよ。(b)欄については、最も適切と思われる単位をカッコ内に明記するとともに、小数点第3位を四捨五入した数値を示すこと。
(設問2)
D社の当期の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した場合の特徴を60字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
第1問(設問1)
Step1.条件の確認
経営分析を始める前に、問題の条件を確認しておきます。
- 比較対象:D社の同業他社の財務諸表と比較
- 財務指標:優れていると思われる財務指標を1つ、劣っていると思われる財務指標を2つ
- 有効数字:小数点第3位を四捨五入
「優れていると思われる財務指標」を「1つ」、「劣っていると思われる財務指標」を「2つ」、解答するよう求められていますので、「収益性」「効率性」「安全性」の3つの観点からそれぞれ1つずつ、「合計3つ」の財務指標を選択します。
Step2.問題で与えられたデータに基づく予想
与件文と財務諸表を読み込み、対象となる企業の状況を把握して、選択する財務指標をある程度予想します。
ここではあくまで選択する財務指標を予想するだけで「Step3」で予想が正しいかを検証する必要があります。
与件文で気になる点(定性情報)
-
販売状況
- 顧客志向を徹底しており、他社の一般的な条件よりも、多頻度、長期間にわたって引き渡し後のアフターケアを提供している。
- このような経営方針を持つ同社は、顧客を大切にする、地域に根差した企業として評判が高く、これまでに約2,000棟の販売実績がある。
- 一方、丁寧な顧客対応のための費用負担が重いことも事実であり、顧客対応の適正水準について模索を続けている。
- このほか、ステーキ店1店舗と、ファミリー向けのレストラン1店舗を運営している。これら2店舗については、いずれも当期の営業利益がマイナスである。
- 以上の戸建住宅事業および飲食事業のほか、将来の飲食店出店のために購入した土地のうち現時点では具体的な出店計画のない土地を駐車場として賃貸している。
-
今後の展開
- 特に、ステーキ店については、前期から2期連続で営業利益がマイナスとなったことから、業態転換や即時閉店も含めて対応策を検討している。
- リフォーム事業については、高齢化の進行とともに、バリアフリー化を主とするリフォームの依頼が増えている。同社は、これを事業の拡大を図る機会ととらえ、これまで構築してきた顧客との優良な関係を背景に、リフォーム事業の拡充を検討している。
連結財務諸表で気になる点(定量情報)
同業他社の財務諸表と比較した場合のD社の財務諸表の特徴を以下に示します。
-
連結貸借対照表
- 「現金及び預金」が非常に少ない。
- 「売上債権」が少ない。
- 「棚卸資産(販売用不動産)」の金額は大きいが、同業他社とあまり変わらない。
- 「有形固定資産」が非常に多い。
- 「短期借入金」が非常に多い。
- 「その他の流動負債」が多い。
- 「社債・長期借入金」が非常に多い。
- 「資本金」が少ない。
- 「利益剰余金」が非常に少ない。
- 「負債」が非常に多く「純資産」が非常に少ない。
-
連結損益計算書
- 「売上高」が非常に多い。
- 「売上総利益」が非常に多い。
- 「販売費及び一般管理費」が非常に多い。
- 「営業外費用」が多い。
- 「特別損失」が多い。
この時点での予想
ここまで見た段階で、ある程度予想してみます。
ただし、あくまで予想なので、実際に「財務指標」を算出して、自分の予想が正しいかを検証する必要があります。
-
収益性
- 顧客を大切にする、地域に根差した企業として評判が高く、これまでに約2,000棟の販売実績を有しているため「売上高」や「売上総利益」が非常に多く、収益性が高いことが予想される。(売上高総利益率:○/売上高売上原価比率:○)
- 丁寧な顧客対応による費用負担が重いため「販売費及び一般管理費」が非常に多く、収益性が低いことが予想される。(売上高営業利益率:×/売上高販管費比率:×)
- 「短期借入金」や「社債・長期借入金」が非常に多いため「営業外費用」が多く、収益性が低いことが予想される。(売上高経常利益率:×/売上高営業外費用比率:×)
-
効率性
- 「売上債権」が少ないため、効率性が高いことが予想される。(売上債権回転率:○)
- 「棚卸資産(販売用不動産)」の金額は大きいが、その金額は同業他社とあまり変わらずに「売上高」が非常に多くなっているため、効率性が高いことが予想される。(棚卸資産回転率:○)
- 業績が不調な飲食事業の不採算店舗や具体的な出店計画のない土地の購入などにより「有形固定資産」が非常に多いため、効率性が低いことが予想される。(有形固定資産回転率:×)
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安全性
- 「現金及び預金」が非常に少なく「短期借入金」が非常に多いため、短期安全性が低いことが予想される。(当座比率:×/流動比率:×)
- 「有形固定資産」が非常に多いため、長期安全性が低いことが予想される。(固定比率:×/固定長期適合率:×)
- 「負債」が非常に多く「純資産」が非常に少ないため、資本調達構造の安全性が低いことが予想される。(自己資本比率:×/負債比率:×)
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
収益性
財務指標一覧(収益性)
収益性の財務指標を以下に示します。
財務指標(収益性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
売上高売上原価比率 | 73.61% | 83.68% | ○ |
売上高総利益率 | 26.39% | 16.32% | ○ |
売上高販管費比率 | 24.24% | 12.37% | × |
売上高営業利益率 | 2.15% | 3.95% | × |
売上高営業外費用比率 | 1.16% | 0.17% | × |
売上高経常利益率 | 1.65% | 4.53% | × |
売上高税引前当期純利益率 | 0.18% | 4.41% | × |
売上高当期純利益率 | 0.77% | 2.48% | × |
総資本経常利益率 | 1.95% | 4.49% | × |
考察
- 「売上高総利益率」と「売上高売上原価比率」が、同業他社より優れている。
与件文を見る限り、顧客を大切にする、地域に根差した企業として評判が高く、これまでに約2,000棟の販売実績を有していることがその要因と考えられる。
与件文を見ても「売上原価」が低いことに対して直接的な言及はされていないため、同業他社より優れていると思われる財務指標の候補として「売上高総利益率」を残す。 - 「売上高営業利益率」「売上高販管費比率」が、同業他社より劣っている。
与件文を見る限り、顧客志向を徹底しており、他社の一般的な条件よりも、多頻度、長期間にわたって引き渡し後のアフターケアを提供するなど、丁寧な顧客対応による費用負担が重いことがその要因として明確に記述されている。
ここでは、丁寧な顧客対応により「販売費」が多くなっていることを強調したいので、同業他社より劣っていると思われる財務指標の候補として「売上高販管費比率」を残す。 - 「売上高経常利益率」「売上高営業外費用比率」が、同業他社より劣っている。
貸借対照表を見る限り、「短期借入金」や「社債・長期借入金」が非常に多いことがその要因と考えられる。
ここでは、「負債」が非常に多いため「営業外費用(支払利息)」が多くなっていることを強調したいので、同業他社より劣っていると思われる財務指標の候補として「売上高営業外費用比率」を残す。 - 「売上高税引前当期純利益率」が同業他社より劣っている。
貸借対照表を見る限り、「特別損失」が多いことがその要因と考えられるが、与件文を見ても「特別損失」を計上した理由について直接的な言及はされていない。
一時的に計上される「特別損失」よりも、前述した「販売費及び一般管理費」と「営業外費用」が非常に多くなっていることの方が重要だと考えられるため、「売上高税引前当期純利益率」は候補に残さない。(経常利益に関する財務指標を選択するのは、売上総利益・営業利益・経常利益の全ての数値が悪く、財務諸表や与件文に収益性に関する特徴が見当たらない場合である。) - 「売上高当期純利益率」「総資本経常利益率」も同業他社より劣っているが、前述の「販売費及び一般管理費」と「営業外費用」が非常に多くなっていることの方が重要だと考えられるため、これらの財務指標は候補に残さない。(経常利益や当期純利益に関する財務指標を選択するのは、売上総利益・営業利益・経常利益の全ての数値が悪く、財務諸表や与件文に収益性に関する特徴が見当たらない場合である。)
- この時点においては、「売上高総利益率」「売上高販管費比率」「売上高営業外費用比率」のいずれが重要であるかを判断することができず、「効率性」や「安全性」の財務指標とバランスを取りながら選択する必要があるため、同業他社より優れていると思われる財務指標には「売上高総利益率」を、劣っていると思われる財務指標には「売上高販管費比率」「売上高営業外費用比率」を候補に残す。
検討結果
同業他社より優れていると思われる財務指標として「売上高総利益率」を、劣っていると思われる財務指標として「売上高販管費比率」「売上高営業外費用比率」を候補として残す
次回は引き続き、「事例Ⅳ ~令和2年度 解答例(2)(経営分析)~」として、「第1問」の続きを説明していきます。
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