事例Ⅳ ~令和2年度 解答例(10)(ROI:投下資本利益率)~

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令和2年度の事例Ⅳの「第4問(設問3)」に関する解答例(案)を説明していきます。

私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。

 

目次

事例Ⅳ ~令和2年度試験問題一覧~

令和2年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

第4問(設問3)

第4問(配点25点)

 

D社の報告セグメントに関する当期の情報(一部)は以下のとおりである。

 

(単位:百万円)
戸建住宅事業 飲食事業 その他 事業合計
売上高 4,330 182 43 4,555
セグメント利益 146 △23 △25 98
セグメント資産 3,385 394 65 3,844

※内部売上高および振替高はない。
※セグメント利益は営業利益ベースで計算されている。

 

D社では、戸建住宅事業における顧客満足度の向上に向けて、VR(仮想現実)を用い、設計した図面を基に、完成予定の様子を顧客が確認できる仕組みを次期期首に導入することが検討されている。ソフトウェアは400百万円で外部から購入し、5年間の定額法で減価償却する。必要な資金400百万円は銀行借り入れ(年利4%、期間5年)によって調達する予定である。このソフトウェア導入により、戸建住宅事業の売上高が毎年92百万円上昇することが見込まれている。以下の設問に答えよ。

 

(設問3)

取締役に対する業績評価の方法について、中小企業診断士として助言を求められた。現在の業績評価の方法における問題点を(a)欄に、その改善案を(b)欄に、それぞれ20字以内で述べよ。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方(第4問 設問3)

「取締役に対する業績評価の方法」の「問題点」と「改善案」について、中小企業診断士として助言するよう求められています。

 

「取締役に対する業績評価の方法」については、与件文において以下の通り記述されています。

 

戸建住宅事業および飲食事業については、それぞれ担当取締役がおり、取締役の業績は各事業セグメントの当期ROI(投下資本営業利益率)によって評価されている。なお、ROIの算定に用いる各事業セグメントの投下資本として、各セグメントに帰属する期末資産の金額を用いている。

 

「設問1/設問2」との関連性

「第4問」の「設問1」と「設問2」で求めた数値の意味から「取締役に対する業績評価の方法」の「問題点」を考えます。

 

  • 設問1
    当期の戸建住宅事業のROI:4.31%
    当期のD社全体のROI:2.55%
  • 設問2
    次期の戸建住宅事業のROI:4.02%(次期期首にソフトウェア導入した場合の想定)

 

この結果を見る限り、想定される取締役の判断は以下の通りです。

 

  • 戸建住宅事業の担当取締役は、戸建住宅事業の当期ROIによって業績を評価されています。
    次期期首にソフトウェアを導入すると、戸建住宅事業の次期ROIが「4.31%」から「4.02%」に悪化すると想定されているため、自分の評価が下がってしまうことを避け、「ソフトウェアの導入は実施しない」と判断します

 

果たして、この判断が本当に正しいのでしょうか。

 

  • 戸建住宅事業だけに限定した視点で判断すると、上述の通り「ソフトウェアの導入は実施しない」という結論になりますが、D社全体の当期ROIが「2.55%」であることを考えると、ソフトウェアを導入することで戸建住宅事業の次期ROIが悪化したとしても、D社全体の次期ROIは改善すると想定されます。(実際に計算はしていませんが。)
  • また、飲食事業やその他事業と比較すると戸建住宅事業は事業規模も大きいため、ソフトウェアを導入することにより、戸建住宅事業の利益率(ROI)は悪化するのかもしれませんが、D社全体の利益額は拡大すると想定されます。
  • これらを総合的に判断すると、「ソフトウェアの導入は実施すべき」ではないかと考えられます。

 

それでは、なぜ、戸建住宅事業の担当取締役は「ソフトウェアの導入は実施しない」と判断してしまったのでしょうか。

 

  • 最初に戻ってしまいますが、それは「取締役の業績は各事業セグメントの当期ROIによって評価されている」からです。つまり、取締役の判断が間違っているのではなく「当期ROI」だけで取締役の業績を評価していることが問題であると考えられます。
  • ここで、ちょっと厄介なのは、当期だけのROIで業績を評価していることが問題なのか、ROIだけで業績を評価していることが問題なのか、という点ですが、私のここまでの解釈では、戸建住宅事業の担当取締役が「ソフトウェアの導入は実施しない」と判断してしまうのは、利益率の指標であるROIだけで取締役の業績を評価しているためということが分かります。
  • したがって、ROIだけで取締役の業績を評価していることが問題であると特定することができます。

 

「投下資本利益率(ROI)」と「残余利益(RI)」

「投下資本利益率(ROI)」と「残余利益(RI)」について説明します。

「投下資本利益率(ROI)」は「利益率」を、「残余利益(RI)」は「利益額」を評価する指標ですが、それぞれの指標に長所と短所があるため、両方の指標を用いて相互に補完しながら評価する必要があります

 

投下資本利益率(ROI:return on investment)

「投下資本利益率(ROI)」は、投下資本に対する利益の割合を示す指標のことをいいます。

今回の問題においては、与件文において「ROIの算定に各事業セグメントの投下資本として、各セグメントに帰属する期末資産の金額を用いている」と記述されているため、「投下資本利益率(ROI)」は以下の計算式により算出することができます。

 

  • 投下資本利益率(ROI) = セグメント利益 ÷ セグメント資産 × 100%

 

残余利益(RI:residual income)

「残余利益(RI)」は、「事業部門(セグメント)」の責任者が自らの裁量で管理することができる「管理可能利益」から「事業部門(セグメント)」に割り当てられた「資本コスト」を控除して算出します。

「残余利益(RI)」がマイナスとなっている場合は、「事業部門(セグメント)」の「管理可能利益」では「事業部門(セグメント)」に割り当てられた「資本コスト」を獲得できていないことを示しているため、企業としては当該の「事業部門(セグメント)」を廃止するなどの判断を行います

 

今回の問題においては、「セグメント利益」が「管理可能利益」に、「セグメント資産 × 資本コスト率」が「事業部門(セグメント)」に割り当てられた「資本コスト」に該当するため、「残余利益(RI)」は以下の計算式により算出することができます。

なお、D社の「資本コスト率」が明らかになっていないため、「残余利益(RI)」を算出することはできません

 

  • 残余利益(RI) = セグメント利益 ー セグメント資産 × 資本コスト率

 

資本コスト

「資本コスト」とは、企業が存続する限り最低限発生するコストであり、企業が投資を実行するべきか判断する際に使用する重要な基準です。

投資をしても「資本コスト」以上の利益を生みだす成果が得られない限り、企業としては投資をやるべきではないと判断します。なぜなら、企業としては存続するだけで最低限発生するコスト(=資本コスト)以上の利益を生み出さないと徐々に資金が減少してしまうからです。

「資本コスト」は、「加重平均資本コスト(WACC)」により「負債コスト」と「株主資本コスト」の加重平均で算出します。

 

 

特徴

「投下資本利益率(ROI)」と「残余利益(RI)」の特徴は以下の通りです。
それぞれの指標に長所と短所があるため、両方の指標を用いて相互に補完しながら評価する必要があります

 

指標 長所 短所
投下資本利益率
(ROI)
  1. 利益の絶対額ではなく利益率で評価するため、事業規模や内容に関係なく事業部の業績を比較できる。
  1. 利益の絶対額ではなく利益率で評価する。(大規模の低利益率な投資案よりも、小規模の高利益率な投資案が採用されるなど)
  2. 企業として最低限確保すべき資本コストを考慮していない。(新たな投資案による利益率が現在の平均利益率よりも低ければ、資本コストを上回っていても採用されず、全社の利益を拡大する機会を逸する。また、新たな投資案による利益率が現在の平均利益率よりも高ければ、資本コストを下回っていても採用されてしまい、全社の利益は減少してしまう。)
  3. 新たな投資により分母(投下資本)が大きくなると利益率が悪化するため、新たな投資を回避して短期的な視点で利益率の改善を図るようになる。
残余利益
(RI)
  1. 企業として最低限確保すべき資本コストを考慮している。(資本コストを考慮した上で、全社の利益を拡大できるのであれば、新たな投資案は採用される。)
  2. 資本コストを考慮した上で、全社の利益を拡大できるのであれば、積極的に新たな投資を行うなど長期的な視点で全社の利益拡大を図るようになる。
  1. 利益率ではなく利益の絶対額で評価するため、事業規模や内容が異なる事業部の業績を比較できない。
  2. 利益率ではなく利益の絶対額で評価する。(小規模の高利益率な投資案よりも、大規模の低利益率な投資案が採用されるなど)

 

解答のまとめ

「取締役に対する業績評価の方法」の「問題点」と「改善案」について、解答をまとめていきます。

 

(a)問題点

「取締役に対する業績評価の方法」の「問題点」について、解答をまとめていきます。

 

  • 取締役の業績を担当する事業セグメントのROIだけで評価しているが、ROIは投下資本に対する利益の割合を示す指標であり、利益の絶対額や資本コストを考慮していないため、取締役は自分が担当する事業セグメントの利益率だけに着目してしまい、結果として全社の利益拡大に対して関心を持たなくなることが問題である。(147文字)

 

長すぎるため、文章を短くします。

  • 取締役の業績をROIだけで評価しているため、全社の利益拡大に対して関心を持たなくなる。(42文字)

 

まだ、長すぎるので、さらに文章を簡潔にします。

  • 取締役が全社利益拡大に関心を持たなくなる。(20文字)

 

こんな感じでしょうか。

 

(b)改善案

「取締役に対する業績評価の方法」の「改善案」について、解答をまとめていきます。

 

  • 取締役の業績を投下資本に対する利益の割合を示す指標であるROIだけで評価するのではなく、利益の絶対額や資本コストを考慮した残余利益(RI)も併用して評価することで、取締役が全社の利益拡大に対して関心を持つよう改善を図る。(108文字)

 

長すぎるため、文章を短くします。

  • 取締役の業績をROIだけで評価するのではなく、利益の絶対額や資本コストを考慮した残余利益(RI)も併用して評価する。(56文字)

 

まだ、長すぎるので、さらに文章を簡潔にします。
取締役が「全社」の利益拡大に関心を持ってもらうよう改善を図るため「利益の絶対額」ではなく「資本コスト」を残します

  • 資本コストを考慮したRIも併用して評価する。(20文字)

 

こんな感じでしょうか。

 

解答(第4問 設問3)

現在の業績評価の方法における「(a)問題点」と「(b)改善案」は以下の通りです。

 

(a) 取締役が全社利益拡大に関心を持たなくなる。(20文字)
(b) 資本コストを考慮したRIも併用して評価する。(20文字)

 


 

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