今回は、「運営管理 ~R1-30 商品調達・取引条件(2)委託仕入~」について説明します。
目次
運営管理 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
仕入形態の分類(所有権・保管責任)
小売業者による仕入形態は、所有権や保管責任の観点から「買取仕入」「委託仕入」「消化仕入(売上仕入)」に分類されます。
「委託仕入」と「消化仕入(売上仕入)」は混同されやすく違いが分かりづらいですが、「委託仕入」は、小売業者は供給元から商品を預かって販売を委託されているだけと考えると分かりやすいと思います。
「所有権」については、「消化仕入(売上仕入)」は、商品が販売された時点で「所有権」が供給元から小売業者、そして購入者へと移転しますが、「委託仕入」は、小売業者に「所有権」が移転することがないという大きな違いがあります。
「買取仕入」「委託仕入」「消化仕入(売上仕入)」の特徴を以下に示します。
買取仕入 | 委託仕入 | 消化仕入 (売上仕入) |
|
小売業者の会計処理 (仕入) |
仕入時点で計上 | なし | 販売時点で計上 |
小売業者の会計処理 (売上) |
販売時点で計上 (商品販売価額) |
販売時点で計上 (販売手数料) |
販売時点で計上 (商品販売価額) |
店舗在庫の所有権 (売れ残りリスク) |
小売業者 | 供給元 | 供給元 |
店舗在庫の保管責任 (商品管理リスク) |
小売業者 | 小売業者 | 供給元 |
商品の価格設定 | 小売業者 | 供給元 | 供給元 |
小売業者の利益率 | 高 | 中 | 低 |
買取仕入
「買取仕入」は、小売業者が供給元から商品を買い取って仕入を行う形態であり、小売業者は、商品を買い取った時点で「仕入」を計上して、商品が販売された時点で「売上」を計上します。
小売業者が商品を買い取った時点で、商品の「所有権」は供給元から小売業者に移転するため、原則として売れ残った商品を供給元に返却することはできません。そのため、売れ残りリスクはすべて小売業者が負うこととなります。
また、商品の「保管責任」についても、商品を買い取った時点で小売業者に移転するため、万引き、紛失、欠損といった商品管理リスクは小売業者が負うことになります。
委託仕入
「委託仕入」は、小売業者と供給元の販売委託契約に基づき小売業者が商品を販売する形態であり、小売業者は、商品が販売された時点で、供給元から受け取る販売手数料を「売上」として計上します。
なお、「委託仕入」の場合、小売業者は供給元から商品を預かって販売を委託されているだけなので、会計処理上「仕入」は計上されません。
つまり、「委託仕入」では、小売業者に「所有権」が移転することはなく、売れ残った商品は供給元に返却することができるため、小売業者には売れ残りリスクがありません。
ただし、商品の「保管責任」は、商品が納入された時点で小売業者に移転するため、万引き、紛失、欠損といった商品管理リスクは小売業者が負うことになります。
「委託仕入」では、供給業者が商品の販売価格を設定します。
また、「委託仕入」では、供給元が「売れ残りリスク」を負うこととなるため、供給元から小売業者への仕入価格も「買取仕入」よりも高く設定されます。(小売業者の利益率が「買取仕入」よりも低く設定されます。)
委託仕入の会計処理
「委託仕入」の会計処理については、過去に説明しているページがあるので、リンクを紹介しておきます。
小売業者側の会計処理については、以下ページの中で「受託者による仕訳」を参考にしてください。
消化仕入(売上仕入)
「消化仕入(売上仕入)」は、供給元が商品を持ち込んで販売する形態であり、小売業者は、商品が販売された時点で「仕入」と「売上」を計上します。
商品が販売されるまで「所有権」は供給元にあり、売れ残った場合は供給元が商品を持ち帰るため、小売業者には売れ残りリスクがありません。
また、商品の「保管責任」も商品が販売されるまで供給元にあるため、万引き、紛失、欠損といった商品管理リスクも供給元が負うことになります。
「消化仕入(売上仕入)」では、供給業者が商品の販売価格を設定します。
また、「消化仕入(売上仕入)」では、供給元が「売れ残りリスク」や「商品管理リスク」を負うこととなるため、供給元から小売業者への仕入価格が「買取仕入」や「委託仕入」よりも高く設定されます。(小売業者の利益率が「買取仕入」や「委託仕入」よりも低く設定されます。)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第30問】
商品の仕入方法のうち、委託仕入に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 中小企業と大企業の間で委託仕入を取引条件とした契約を締結することは禁止されている。
b 委託仕入の場合、小売店に納入された時点で当該商品の所有権が小売店に移転する。
c 委託仕入の場合、小売店は粗利益ではなく販売手数料を得ることになる。
d 委託仕入をした商品の売れ行きが悪い場合、小売店は原則自由に値下げして販売することができる。
[解答群]
ア a:正 b:誤 c:正 d:誤
イ a:正 b:誤 c:誤 d:正
ウ a:誤 b:正 c:誤 d:正
エ a:誤 b:正 c:誤 d:誤
オ a:誤 b:誤 c:正 d:誤
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「委託仕入」に関する知識を問う問題です。
「委託仕入」は、小売業者と供給元の販売委託契約に基づき小売業者が商品を販売する形態であり、小売業者は、商品が販売された時点で、供給元から受け取る販売手数料を「売上」として計上します。
なお、「委託仕入」の場合、小売業者は供給元から商品を預かって販売を委託されているだけなので、会計処理上「仕入」は計上されません。
つまり、「委託仕入」では、小売業者に「所有権」が移転することはなく、売れ残った商品は供給元に返却することができるため、小売業者には売れ残りリスクがありません。
ただし、商品の「保管責任」は、商品が納入された時点で小売業者に移転するため、万引き、紛失、欠損といった商品管理リスクは小売業者が負うことになります。
「委託仕入」では、供給業者が商品の販売価格を設定します。
また、「委託仕入」では、供給元が「売れ残りリスク」を負うこととなるため、供給元から小売業者への仕入価格も「買取仕入」よりも高く設定されます。(小売業者の利益率が「買取仕入」よりも低く設定されます。)
(a) 不適切です。
中小企業と大企業の間で「委託仕入」を取引条件とした契約を締結することは禁止されていないため、選択肢の内容は不適切(誤)です。
なお、独占禁止法において、大規模小売業者が供給元に対して、正常な商慣習に照らして著しく不利益となるような条件で、委託仕入をさせることは禁止されています。
(b) 不適切です。
「委託仕入」では、小売業者は供給元から商品を預かって販売を委託されているだけなので、会計処理上「仕入」は計上されません。つまり、「委託仕入」では、小売業者に「所有権」が移転することはありません。
したがって、「委託仕入」の場合、小売店に納入されても当該商品の所有権が小売店に移転することはないため、選択肢の内容は不適切(誤)です。
(c) 適切です。
「委託仕入」は、小売業者と供給元の販売委託契約に基づき小売業者が商品を販売する形態であり、小売業者は、商品が販売された時点で、供給元から受け取る販売手数料を「売上」として計上します。
したがって、「委託仕入」の場合、小売店は粗利益ではなく販売手数料を得ることになるため、選択肢の内容は適切(正)です。
(d) 不適切です。
「委託仕入」では、小売業者は供給元から商品を預かって販売を委託されているだけであり、供給元が商品の販売価格を設定します。
したがって、委託仕入をした商品の売れ行きが悪くても、小売店が商品を値下げして販売することはできないため、選択肢の内容は不適切(誤)です。
「a:誤 b:誤 c:正 d:誤」であるため、答えは(オ)です。
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