今回は、「運営管理 ~R1-8 生産計画(3)需要予測~」について説明します。
目次
運営管理 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
需要予測 -リンク-
本ブログにて「需要予測」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
需要予測
「見込生産」の生産形態を採用している企業では、精度の高い「需要予測」に基づいて「生産計画」を策定することが非常に重要です。
「需要予測」の精度が低く、見込みよりも受注量が少なかった場合は、売れ残った製品が余剰在庫となってしまいます。また、見込みよりも受注量が多かった場合は、製品が品切れとなり、機会損失が発生します。
需要予測の方法
「需要予測」には「移動平均法」「指数平滑法」などの方法があります。
移動平均法
「移動平均法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値を平均して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
「移動平均法」には、過去の実績値から単純に平均値を算出して次期の需要の予測値を算出する「単純移動平均法」と、過去の実績値に重み付けをした数値から平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する「加重移動平均法」の2つの方法があります。
「移動平均法」により、需要の変動が激しい製品の需要を予測する場合は、直近の需要動向に重点を置くため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を短く設定します。また、需要が安定している製品の需要を予測する場合は、直近の例外的な実績値が次期の需要予測に与える影響を少なくするため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を長く設定します。
このように、「移動平均法」により次期の需要を予測する場合に用いる実績値の対象期間は、対象とする製品の特性に合わせて適切に設定する必要があります。
「移動平均法」の1つである「加重移動平均法」では、過去データに重み付けをして次期の需要を予測しますが、試験においては「移動平均法」は重み付けを行わない方法として出題されますので、注意が必要です。
試験問題で「移動平均法」と記載されている場合は「単純移動平均法」のことを示していると理解するようにした方が良いと思います。
単純移動平均法
「単純移動平均法」とは、過去の実績値から単純に平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
事例として、今月を含む過去4か月間の売上高から、来月の売上高を予測します。
過去の実績データ
売上高 | |
今月 | 1,000万円 |
先月 | 950万円 |
2ヶ月前 | 1,100万円 |
3ヶ月前 | 1,050万円 |
来月の予測売上高
( 1,000 + 950 + 1,100 + 1,050 )÷ 4 = 1,025 万円
加重移動平均法
「加重移動平均法」とは、過去の実績値に重み付けをした数値から平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
事例として、今月を含む過去4か月間の売上高から、来月の売上高を予測します。
なお、以下に示す数値例では直近の売上実績データの「重み」を大きくすることとします。
過去の実績データと重み付け
売上高 | 重み | |
今月 | 1,000万円 | 0.4 |
先月 | 950万円 | 0.3 |
2ヶ月前 | 1,100万円 | 0.2 |
3ヶ月前 | 1,050万円 | 0.1 |
来月の予測売上高
( 1,000 × 0.4 + 950 × 0.3 + 1,100 × 0.2 + 1,050 × 0.1 )÷( 0.4 + 0.3 + 0.2 + 0.1 )= 1,010 万円
指数平滑法
「指数平滑法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値のうち、現在に近いデータの「重み」を大きくして、データが古くなるにつれて指数関数的に「重み」を減少させて需要の予測値を算出する「加重移動平均法」のことをいいます。
次期の需要の予測値を算出する「単純指数平均法(1次式)」の公式は以下の通りです。
「単純指数平均法(1次式)」とは、今期の予測値と実績値から、次期の需要の予測値を算出する方法です。
平滑化定数
「単純指数平均法」の公式における「α」は「平滑化定数」といい「 0 < α < 1 の範囲」で設定します。
「平滑化定数(α)」が「1」に近ければ、「次期の予測値」が「今期の実績値」に近くなることから、直近のデータを重視した予測となり、逆に「平滑化定数(α)」が「0」 に近ければ、「次期の予測値」が「今期の予測値」に近くなることから、過去のデータを重視した予測ということになります。
少し分かりにくいですが、「今期の予測値」とは、前期のデータに基づき算出された数値であるため、過去のデータを重視した予測ということになります。
「平滑化定数(α)」の値は、蓄積された過去のデータをシミュレーションするなどの方法により、予測誤差が最小になるように設定していく必要があります。
例として、「平滑化定数(α)」を「0.2」「0.5」「0.8」として、今月の売上高の予測値と実績値を用いて来月の売上高の予測値を算出します。
過去の実績データ
例1 | 例2 | 例3 | |
今月売上高(予測値) | 800万円 | ||
今月売上高(実績値) | 1,000万円 | ||
平滑化定数(α) | 0.2 | 0.5 | 0.8 |
来月の予測売上高
- 例1:0.2 × 1,000 +(1-0.2)× 800 = 840 万円(今期予測値に近い)
- 例2:0.5 × 1,000 +(1-0.5)× 800 = 900 万円
- 例3:0.8 × 1,000 +(1-0.8)× 800 = 960 万円(今期実績値に近い)
「平滑化定数(α)」が「1」に近ければ来月の予測値が「今期の実績値」に近くなり、「平滑化定数(α)」が「0」 に近ければ来月の予測値が「今期の予測値」に近くなることが分かります。
基準日程計画
「基準日程計画」は「生産計画」とも呼ばれ、製品の需要予測や工場の生産能力に基づき策定する生産量と生産時期に関する計画のことをいいます。
「基準日程計画(生産計画)」は、大日程計画、中日程計画、小日程計画に区分され、「大日程計画」が「生産計画」のマスターとして策定された後、「大日程計画」→「中日程計画」→「小日程計画」へと、ブレイクダウンされていきます。
大日程計画
「大日程計画」は、「製品の需要予測」に基づき、「6ヶ月から2年程度先」までを対象として策定される「生産計画」です。
予測される製品の需要に基づき、「工場全体」における要員数や設備能力の過不足等を確認することを目的としており、必要に応じて「要員の採用や育成」「設備の追加導入」「設備のメンテナンス計画」などを計画します。
中日程計画
「中日程計画」は、「大日程計画」と「製品の需要予測」に基づき、「1ヶ月から6ヶ月程度先」までを対象として策定される「生産計画」です。
予測される製品の需要に基づき、「部門」における要員数や設備能力の過不足等を確認することを目的としています。
小日程計画
「小日程計画」は、「中日程計画」と「お客様からの注文」に基づき、「1日から1ヶ月程度先」までを対象として策定される「生産計画」であり、策定された「小日程計画」に基づき、日々の生産活動が行われます。
「小日程計画」において、全ての製品および全ての工程を対象にして、材料の調達、要員や設備の割り当て、納品といった詳細な計画を立案した後、一元的に生産統制(進捗管理、現品管理、余力管理)を行っていきます。
「生産統制」とは、作成された生産計画にしたがって生産活動を実施できるように、生産活動の状況を把握して、計画に対する差異が発生した場合には、即座に対策を行って差異を解消させていくことをいいます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第8問】
需要予測に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 過去の観測値から将来の需要量を予測するために移動平均法を利用した。
イ 過去の観測値ほど重みを指数的に増加させるために指数平滑法を利用した。
ウ 工場の新設に当たっての設備能力を決定するために短期予測を利用した。
エ 次週の生産計画を立案するために長期予測を利用した。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「需要予測」に関する知識を問う問題です。
(ア) 適切です。
「移動平均法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値を平均して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
「移動平均法」には、過去の実績値から単純に平均値を算出して次期の需要の予測値を算出する「単純移動平均法」と、過去の実績値に重み付けをした数値から平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する「加重移動平均法」の2つの方法があります。
「移動平均法」の1つである「加重移動平均法」では、過去データに重み付けをして次期の需要を予測しますが、試験においては「移動平均法」は重み付けを行わない方法として出題されますので、注意が必要です。
試験問題で「移動平均法」と記載されている場合は「単純移動平均法」のことを示していると理解するようにした方が良いと思います。
「単純移動平均法」とは、過去の実績値から単純に平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
したがって、「移動平均法」は、過去の観測値から将来の需要量を予測するためにを利用するため、選択肢の内容は適切です。
(イ) 不適切です。
「指数平滑法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値のうち、現在に近いデータの「重み」を大きくして、データが古くなるにつれて指数関数的に「重み」を減少させて需要の予測値を算出する「加重移動平均法」のことをいいます。
したがって、「指数平滑法」は、過去の観測値ほど重みを指数的に増加させるためではなく、現在に近い観測地ほど重みを指数的に増加させるために利用するため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「基準日程計画(生産計画)」は、大日程計画、中日程計画、小日程計画に区分され、「小日程計画」は、「1日から1ヶ月程度先」までを対象として策定される「生産計画」であり、策定された「小日程計画」に基づき、日々の生産活動が行われます。
「小日程計画」において、全ての製品および全ての工程を対象にして、材料の調達、要員や設備の割り当て、納品といった詳細な計画を立案した後、一元的に生産統制(進捗管理、現品管理、余力管理)を行っていきます。
したがって、「短期予測」は、工場の新設に当たっての設備能力を決定するためではなく、次週の生産計画を立案するため(選択肢(エ)の内容)に利用するため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「基準日程計画(生産計画)」は、大日程計画、中日程計画、小日程計画に区分され、「大日程計画」は、「製品の需要予測」に基づき、「6ヶ月から2年程度先」までを対象として策定される「生産計画」です。
「大日程計画」は、予測される製品の需要に基づき、「工場全体」における要員数や設備能力の過不足等を確認することを目的としており、必要に応じて「要員の採用や育成」「設備の追加導入」「設備のメンテナンス計画」などを計画します。
したがって、「長期予測」は、次週の生産計画を立案するためではなく、工場の新設に当たっての設備能力を決定するため(選択肢(ウ)の内容)に利用するため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ア)です。
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