今回は、「財務・会計 ~R1-12 企業活動による財務指標の変化(2)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業活動による財務指標の変化 -リンク-
本ブログにて「企業活動による財務指標の変化」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
キャッシュ・フロー計算書(一次試験) -リンク-
一次試験に向けて「キャッシュ・フロー計算書」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- キャッシュ・フロー計算書(1)営業CF
- キャッシュ・フロー計算書(2)投資CF
- キャッシュ・フロー計算書(3)財務CF
- R3-9 キャッシュ・フロー計算書(12)
- R2-13 キャッシュ・フロー計算書(11)
- H30-12 キャッシュ・フロー計算書(10)
- H29-13/H27-9 キャッシュ・フロー計算書(4)営業CF
- H28-9-1 キャッシュ・フロー計算書(5)
- H25-4 キャッシュ・フロー計算書(8)資金の範囲
- H24-4 キャッシュ・フロー計算書(9)営業CF
- H24-13 キャッシュ・フロー計算書(6)営業CF
- H22-6 キャッシュ・フロー計算書(7)投資CF
キャッシュ・フロー計算書(二次試験) -リンク-
二次試験(事例Ⅳ)に向けた「キャッシュ・フロー計算書」の記事は、以下のページに整理していますので、アクセスしてみてください。
キャッシュ・フロー計算書
「キャッシュ・フロー」とは「キャッシュ(資金)」の「フロー(流れ)」であり「資金の収入・支出」を示しています。
「キャッシュ・フロー計算書」は、企業の一会計期間における「資金の収入・支出」の状況を報告する財務諸表であり、「貸借対照表」や「損益計算書」と同様に、株主を始めとした利害関係者が、企業の経営状況を知るために重要な情報源です。
「キャッシュ・フロー計算書」では「資金の収入・支出」を「営業活動」と「投資活動」と「財務活動」に区分して表示します。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
- 投資活動によるキャッシュ・フロー
- 財務活動によるキャッシュ・フロー
営業活動によるCFに区分される項目
営業活動によるキャッシュ・フローは、企業が本来の営業活動によってどれだけの現金を稼いだかを表しています。
営業活動によるキャッシュ・フローに区分される主な項目は以下の通りです。
- 商品及び役務の販売による収入
- 原材料、商品及び役務の購入による支出
- 人件費支出
- その他の営業支出
- 投資活動や財務活動に該当しないキャッシュフロー
(災害による保険金収入、損害賠償金の支払額、法人税等の支払額など)
営業活動によるキャッシュ・フロー(間接法)
投資活動によるCFに区分される項目
投資活動によるキャッシュ・フローは、企業がどれだけの現金を投資しているかを表しています。
投資活動によるキャッシュ・フローに区分される主な項目は以下の通りです。
- 固定資産の売却/取得による支出
- 有価証券の売却/取得による支出
- 貸付金の回収による収入
- 貸付けによる支出
投資活動によるキャッシュ・フロー
財務活動によるCFに区分される項目
財務活動によるキャッシュ・フローは、株式の発行や金融機関からの借入金による資金調達の状況を表しています。
財務活動によるキャッシュ・フローに区分される主な項目は以下の通りです。
- 株式の発行による収入
- 自己株式の取得による支出
- 配当金の支払い(中間配当の支払いを含む)
- 社債の発行または借入れによる収入
- 社債の償還または借入金の返済による支出
財務活動によるキャッシュ・フロー
貸借対照表
「貸借対照表」とは、ある時点(企業の決算時期など)における企業の財政状態を示す財務諸表であり、「左辺(借方)」には「資産の部」が、「右辺(貸方)」には「負債の部」と「純資産の部」が記載されています。
「貸借対照表」では「左辺(借方)」の合計と「右辺(貸方)」の合計が必ず一致するため、「バランスシート(BS)」とも呼ばれています。
貸借対照表フォーマット
安全性の財務指標
「安全性」の財務指標を用いて、企業の自己資本(純資産)と他人資本(負債)のバランスが適正であるか、また債務を返済するための支払能力があるのかを分析することができます。
「安全性」は、さらに「短期安全性」「長期安全性」「資本調達構造」に分類されます。
なお、「安全性」の「財務指標」は「貸借対照表」の数値だけを使って計算される指標です。
安全性の財務指標一覧
「安全性」の財務指標一覧を以下に示します。
貸借対照表による安全性の評価
貸借対照表を見ると「安全性の高い企業」と「安全性の低い企業」を見分けることができます。
見分け方を以下の図(各項目の面積は金額の大きさを示す)に示しますが、「流動資産」と「純資産」の比率が高い企業が、安全性の高い企業であるということになります。
短期安全性
「短期安全性」では、「流動資産(または当座資産)」と「流動負債」の比率を見て短期(1年以内)の債務支払能力を評価します。
安全性の高い企業の貸借対照表をみると、1年以内に現金化する資産である「流動資産(または当座資産)」が多く、1年以内に返済すべき債務である「流動負債」を支払うためのキャッシュが準備できていることが分かります。
「流動資産(または当座資産)」よりも「流動負債」の方が金額が多い場合には、「短期安全性」の財務指標が100%を下回ります。その場合、1年以内に返済すべき債務である「流動負債」を返済するだけのキャッシュ「流動資産(または当座資産)」が足りないことを意味しています。
「短期安全性」の財務指標が100%を下回る場合には、短期借入金を長期借入金に借り換えて1年間の返済金額を抑えたり、売上債権の回収期間を改善して手許にある現金を増やしたり、棚卸資産の余剰在庫を減らして適正在庫を確保するなどの対策を提案することが可能です。
売上債権の回収遅れや余剰在庫が原因で「短期安全性」が低下している可能性があるため、効率性の財務指標である「売上債権回転率」や「棚卸資産回転率」の数値も悪化している可能性があります。
流動比率
「流動比率」とは、短期の安全性を分析するための指標であり「流動負債」に対する「流動資産」の比率を表しています。
「流動比率」は、その数値が高い方が優れていることを示しています。
流動比率が100%より低い場合は、1年以内に支払わなければならない負債(流動負債)を返済するだけのキャッシュ(流動資産)がないことを意味しており、短期的な支払能力がなく、資金繰りが厳しく、安全性に問題があると判断することができます。
「流動比率」を求める公式は以下の通りです。
当座比率
「当座比率」とは、短期の安全性を分析するための指標であり「流動負債」に対する「当座資産」の比率を表しています。
「当座比率」は、その数値が高い方が優れていることを示しています。
当座比率が100%より低い場合は、1年以内に支払わなければならない負債(流動負債)を返済するだけのキャッシュ(当座資産)がないことを意味しており、短期的な支払能力がなく、資金繰りが厳しく、安全性に問題があると判断することができます。
「当座比率」を求める公式は以下の通りです。
当座資産の計算方法は、結構忘れがちなのでしっかり覚えておきましょう。
当座資産 = 現金・預金 + 売上債権(受取手形・売掛金)+ 有価証券
(※)その他流動資産は含まれません。
長期安全性
「長期安全性」では、「固定資産」と「純資産(または純資産+固定負債)」の比率を見て調達した資金の運用バランスを評価します。
「固定比率」を例として、安全性の高い企業の貸借対照表をみると、将来の収益を生み出すために長期にわたって運用する固定資産を、返済が不要な資金である「純資産」で賄うことができていることが分かります。
「固定長期適合率」を例として、安全性の低い企業の貸借対照表をみると、将来の収益を生み出すために長期にわたって運用する固定資産を、返済が不要な資金である「純資産」と1年以上先に返済すべき債務である「固定負債」でも賄うことができておらず、1年以内に返済すべき債務である「流動負債」まで必要としていることを意味しています。
「長期安全性」が低下している(数値が高くなっている)場合は、新たな社屋を建てたり活用できていない遊休資産があるなど収益に貢献していない固定資産を多く保有していることが主な理由と考えられ、収益性の財務指標である「売上高販管費比率/売上高営業利益率」や効率性の財務指標である「固定資産回転率/有形固定資産回転率」の数値も悪化している可能性があります。
固定比率
「固定比率」とは、長期の安全性を分析するための指標であり「自己資本(純資産)」に対する「固定資産」の比率を表しています。
「固定比率」は、その数値が低い方が優れていることを示しています。
固定比率が100%を上回っている場合は、固定資産への投資額を自己資本で賄えていないことを意味するため、資金繰りが厳しく、安全性に問題があると判断することができます。
「固定比率」を求める公式は以下の通りです。
固定長期適合率
「固定長期適合率」とは、長期の安全性を分析するための指標であり、返済期限が1年より長い「固定負債」と返済の必要がない「自己資本(純資産)」の合計に対する「固定資産」の比率を表しています。
「固定長期適合率」は、その数値が低い方が優れていることを示しています。
固定長期適合率が100%を超える場合は、固定資産の調達を返済期限が1年以内の借入金などの負債で賄っていることを意味するため、資金繰りが厳しく、安全性に問題があると判断することができます。
「固定長期適合率」を求める公式は以下の通りです。
資本調達構造
「資本調達構造」は自己資本と負債の比率を確認するための指標です。
安全性の高い企業の貸借対照表をみると、総資本における「純資産」の割合が高いことが分かります。
安全性の低い企業の貸借対照表をみると、総資本における「流動負債」と「固定負債」の割合が高いことが分かります。
事例Ⅳでは借入金が多く、負債比率が高い(自己資本比率が低い)という企業が非常に多く出題されます。負債比率が高いと「支払利息」も多額となり、収益性の財務指標である「売上高営業外費用比率/売上高経常利益率」の数値も悪化するため、内部留保を切り崩して借入金の早期返済を行うなどの対策を提案することが可能です。
自己資本比率
「自己資本比率」とは、会社の資本構成割合を分析する指標であり「総資本」に対する「自己資本(純資産)」の比率を表しています。
「自己資本比率」は、その数値が高い方が優れていることを示しています。
数値が低い場合は借入金等の返済が必要な負債の割合が高く、安全性に問題があると判断することができます。また、負債の割合が高いということは利息の支払額(営業外費用)も高くなるため、「売上高営業外費用比率/売上高経常利益率」の数値も悪化している可能性があります。
「自己資本比率」を求める公式は以下の通りです。
ただし、負債の割合が高いから悪いというわけではなく、「負債」を有効に活用することで企業の「収益性」を高めるという「財務レバレッジ」も考慮する必要があるため、ただ単に「負債比率」の数値を低くすればよいのではなく、「自己資本」と「負債」のバランスが重要となります。
「財務レバレッジ」について補足しておきます。
「レバレッジ」とは、日本語では「てこの原理」のことを示しており、少ない資金で大きな利益を手に入れるという意味で使われています。
「財務レバレッジ」は、自己資本比率の逆数(総資本÷自己資本)で求められ、数値が高いほど「借入金」の資本構成比率が高いことを示しています。
つまり、少ない資金(自己資本)でも借入金(他人資本)を活用することで、事業の効率性を高める(大きな利益を手に入れる)ことができます。
負債比率
「負債比率」とは、会社の資本構成割合を分析する指標であり「自己資本(純資産)」に対する「負債(流動負債+固定負債)」の比率を表しています。
「負債比率」は、その数値が低い方が優れていることを示しています。
数値が高い場合は借入金等の返済が必要な負債の割合が高く、安全性に問題があると判断することができます。また、負債の割合が高いということは利息の支払額(営業外費用)も高くなるため、「売上高営業外費用比率/売上高経常利益率」の数値も悪化している可能性があります。
「負債比率」を求める公式は以下の通りです。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第12問】
有形固定資産を売却することで得た資金の全額を、長期借入金の返済にあてたとする。他の条件を一定とすると、これによるキャッシュ・フロー計算書および財務比率への影響に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 財務活動によるキャッシュ・フローは減少する。
b 自己資本比率は上昇する。
c 投資活動によるキャッシュ・フローは減少する。
d 流動比率は上昇する。
[解答群]
ア aとb
イ aとc
ウ aとd
エ bとc
オ cとd
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「有形固定資産の売却」と「長期借入金の返済」による「キャッシュ・フロー計算書」と「財務比率」への影響を確認する問題です。
選択肢に記述されている「財務比率」は「自己資本比率」と「流動比率」であり、共に「貸借対照表」の数値により算出される「財務比率」であるため、実際には「キャッシュ・フロー計算書」と「貸借対照表」への影響と考えて確認を進めていきます。
仕訳処理
まずは、有形固定資産を売却することで得た資金の全額を、長期借入金の返済に充てる活動に関する仕訳処理を考えていきます。
有形固定資産の売却
「有形固定資産の売却」により「資金(現金)」を手に入れることができます。
借方 | 貸方 | ||
現金 (流動資産) |
XXX,XXX | 有形固定資産 (固定資産) |
XXX,XXX |
長期借入金の返済
「有形固定資産の売却」により手に入れた「資金(現金)」で「長期借入金」を返済します。
借方 | 貸方 | ||
長期借入金 (固定負債) |
XXX,XXX | 現金 (流動資産) |
XXX,XXX |
貸借対照表の変化
「有形固定資産の売却」と「長期借入金の返済」による貸借対照表の変化を確認します。
「流動資産(現金)」は「有形固定資産の売却」により増加して「長期借入金の返済」により減少するため、結果として「±ゼロ」となります。
また、「有形固定資産の売却」により「固定資産(有形固定資産)」は減少して、「長期借入金の返済」により「固定負債(長期借入金)」も減少します。
選択肢の確認
それぞれの選択肢の内容について確認します。
(a) 適切です。
財務活動CFは、株式の発行や金融機関からの借入金による資金調達の状況を表しており、財務活動CFに区分される主な項目は以下の通りです。
今回の活動により、「社債の償還および借入金の返済による支出」が発生するため、財務活動CFは減少します。
財務活動によるキャッシュ・フロー
したがって、「長期借入金の返済」により「財務活動CF」は減少するため、選択肢の内容は適切です。
(b) 適切です。
「自己資本比率」とは、会社の資本構成割合を分析する指標であり「総資本」に対する「自己資本(純資産)」の比率を表しています。
「自己資本比率」は、その数値が高い方が優れていることを示しています。
「自己資本比率」を算出するための構成要素である「固定負債(長期借入金)」は「長期借入金の返済」により減少するため、「自己資本比率」は上昇します。
したがって、「長期借入金の返済」により「自己資本比率」は上昇するため、選択肢の内容は適切です。
(c) 不適切です。
投資活動CFは、企業がどれだけの現金を投資しているかを表しており、投資活動CFに区分される主な項目は以下の通りです。
今回の活動により、「固定資産の売却による収入」が発生するため、投資活動CFは増加します。
投資活動によるキャッシュ・フロー
したがって、「有形固定資産の売却」により「投資活動CF」は増加するため、選択肢の内容は不適切です。
(d) 不適切です。
「流動比率」とは、短期の安全性を分析するための指標であり「流動負債」に対する「流動資産」の比率を表しています。
「流動比率」は、その数値が高い方が優れていることを示しています。
「流動比率」を算出するための構成要素である「流動資産(現金)」は「有形固定資産の売却」により増加して「長期借入金の返済」により減少するため、結果として「±ゼロ」となり、「流動比率」は変化しません。
したがって、「有形固定資産の売却」「長期借入金の返済」による「流動比率」の変化はないため、選択肢の内容は不適切です。
(a)と(b)に記述されている内容が適切であるため、答えは(ア)です。
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