今回は、「運営管理 ~H28-11 生産統制(2)余力管理~」について説明します。
目次
運営管理 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
生産統制
「生産統制」とは、作成された生産計画にしたがって生産活動を実施できるように、生産活動の状況を把握して、計画に対する差異が発生した場合には、即座に対策を行って差異を解消させていくことをいいます。
「生産統制」で管理する項目は「進捗管理」「現品管理」「余力管理」に分類することができます。
生産統制と生産計画の関係
生産統制 | 生産計画 | 説明 |
進捗管理 | 日程計画 | 日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動 |
現品管理 | 材料・部材計画 | 在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動 |
余力管理 | 工数計画 | 労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動 |
進捗管理(進度管理)
「進捗管理」とは、作成された「生産計画(日程計画)」にしたがって生産活動を実施できるように、日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動のことをいいます。
「進捗管理」の一番の目的は納期を遵守することですが、生産計画よりも前倒しして作業を進めても、仕掛品・完成品を倉庫に保管するコストが増加してしまうなどの問題が発生するため、適切ではありません。
「進捗管理」では、早過ぎず遅過ぎず計画通りの日程で作業が進行するよう管理する必要があります。
進捗管理
仕事の進行状況を把握し、日々の仕事の進み具合を調整する活動。
備考 進度管理または納期管理ともいう。(JISZ8141-4104)
現品管理
「現品管理」とは、作成された「生産計画(材料・部材計画)」にしたがって生産活動を実施できるように、「資材」「仕掛品」「製品」などの在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動のことをいいます。
状況 | 観点 |
外部業者からの受け入れ (原材料・部品) |
受け入れ数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
運搬 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
運搬数量の過不足確認 適正な運搬荷姿 - 現品の傷・変形・破損の防止 適正な運搬方法 - 現品の傷・変形・破損の防止 |
保管 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
保管数量の過不足確認 適正在庫の維持 - 在庫の長期保管による品質劣化の防止 適正な保管方法 - 積み上げによる荷崩れ等の防止 - 温度管理等による品質劣化の防止 |
外部業者への受け渡し (完成品) |
受け渡し数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
現品管理
資材、仕掛品、製品などの物について運搬・移動や停滞・保管の状況を管理する活動。
備考 現品の経済的な処理と数量、所在の確実な把握を目的とする。現物管理ともいう。(JISZ8141-4102)
余力管理
「余力管理」とは、作成された「生産計画(工数計画)」にしたがって生産活動を実施できるように、労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動のことをいいます。
生産能力の不足に対する対策の実施
労働者や機械・設備の「負荷状況」が高くなり「生産能力」が追い付かなくなった場合は、以下に示す方法により「生産能力」を高めるための対策を講じる必要があります。
- 残業
- 労働者の増員
- 外注の利用
- 機械・設備の増強
なお、「労働者の増員」や「機械・設備の増強」については、工場内で余っているリソースを「生産能力」が不足している工程に投入する程度の対策と考えてください。
新たに労働者を雇用したり、機械・設備を調達する場合は、日々の「余力管理」における対策として実施するのではなく、「製品の需要予測」に基づき「大日程」「中日程」を策定する段階で対策を講じていきます。
余力管理
各工程または個々の作業者について、現在の負荷状態と現有能力とを把握し、現在どれだけの余力または不足があるかを検討し、作業の再配分を行って能力と負荷を均衡させる活動。
備考 余力とは能力と負荷との差である。工数管理ともいう。(JISZ8141-4103)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成28年度 第11問】
工数計画およびそれに対応した余力管理に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア 各職場・各作業者について手持仕事量と現有生産能力とを調査し、これらを比較対照したうえで手順計画によって再スケジュールをする。
イ 工数計画において、仕事量や生産能力を算定するためには、一般的に作業時間や作業量が用いられる。
ウ 工数計画において求めた工程別の仕事量と日程計画で計画された納期までに完了する工程別の仕事量とを比較することを並行的に進めていき、生産能力の過不足の状況を把握する。
エ 余力がマイナスになった場合に、就業時間の延長、作業員の増員、外注の利用、機械・設備の増強などの対策をとる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「工数計画(生産計画)」と「余力管理(生産統制)」に関する知識を問う問題です。
「余力管理」とは、作成された「生産計画(工数計画)」にしたがって生産活動を実施できるように、労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動のことをいいます。
(ア) 不適切です。
選択肢には「各職場・各作業者について手持仕事量と現有生産能力とを調査し、これらを比較対照したうえで手順計画によって再スケジュールをする。」と記載されていますので、まずはこの「手順計画」について確認します。
「手順計画」とは「工数計画(生産計画)」よりも前の段階で実施される「製品の設計情報から作業の工程や順序といった手順を定める活動」のことをいいます。
手順計画
製品を生産するにあたり、その製品の設計情報から、必要作業、工程順序、作業順序、作業条件を決める活動。(JISZ8141-3303)
この「手順計画」に基づき「工数計画(生産計画)」を策定した後、「工数計画(生産計画)」に基づく生産活動の中で「労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動(余力管理)」を実施していきます。
つまり、各職場・各作業者について手持仕事量と現有生産能力とを調査し、これらを比較対照したうえで修正するのは「工数計画(生産計画)」であり「手順計画」ではありません。
したがって、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
「余力管理」において「生産計画(工数計画)」に対する生産活動の状況を把握するためには、定量的な数値による管理が必要となりますが、一般的に、定量的な数値としては「作業時間」「作業量」が用いられるため、選択肢の内容は適切です。
作業時間
各作業ステーションに割り付けられた要素時間の総和。(JISZ8141-1229)
作業量
作業密度と作業時間の積。
備考 同じ作業でも、作業者の能力が異なれば作業密度に差が現れる。(JISZ8141-5310)
(ウ) 適切です。
「余力管理」とは、作成された「生産計画(工数計画)」にしたがって生産活動を実施できるように、労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動のことをいいます。
選択肢に記載されいる「工数計画において求めた工程別の仕事量と日程計画で計画された納期までに完了する工程別の仕事量とを比較することを並行的に進めていき、生産能力の過不足の状況を把握する。」は、まさに「余力管理」のことを説明しているため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 適切です。
労働者や機械・設備の「負荷状況」が高くなり「生産能力」が追い付かなくなった場合は「就業時間の延長(いわゆる残業)」「作業員の増員」「外注の利用」「機械・設備の増強」などの方法により「生産能力」を高める対策を講じるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(ア)です。
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