今回は、「事例Ⅲ ~平成30年度 解答例(6)(第5問)~」について説明します。
目次
事例Ⅲ ~平成30年度試験問題一覧~
平成30年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
取引先との関係強化
取引先と言っても色々あります。例として、自社の製品やサービスを提供している主要顧客であったり、過去に製品やサービスを共同開発したことのある企業や大学といった研究機関などが挙げられます
いずれにしても、既に取引があり信頼関係が構築されている取引先は、企業にとって重要な経営資源であり、収益を拡大するための戦略を検討する上で必要不可欠な要素です。
事例Ⅲの問題で、取引先との関係強化について直接的に問われることはあまり多くないと思われますが、知識として頭の片隅に入れておかないと、試験中は気付かないことがあるので、注意が必要です。
与件文において、取引先との関係を強化するためのチャンスを示すキーワードは以下の通りです。
- 主要顧客から新規顧客を紹介してもらう。
- 主要顧客から新製品や新サービスの提供依頼を受ける。
- 主要顧客から海外進出に向けて協力依頼を受ける。
- 取引先とC社の主力製品を共同開発したことがある。
試験問題の例
以下に示すような問題では、解答の中に「取引先の関係強化」というキーワードを盛り込むことができないか検討してみることをお薦めします。
- C社の今後の戦略を提案せよ。
- 取引先に紹介された企業からの新規受注を獲得することによるC社のメリットは何か。
- 取引先から依頼された新製品を開発して提供することによるC社のメリットは何か。
対策と効果の例
解答の中に「取引先の関係強化」というキーワードを盛り込んだ解答例を以下に示します。
C社の今後の戦略
- C社の戦略は、主要顧客との関係を強化して、主要顧客のニーズに応じた新製品を提供することで、収益性の向上を図ることである。
- C社の戦略は、既存製品を共同開発した取引先との連携を強化して、市場のニーズに応じた新製品の共同開発を進めることである。
C社のメリット
- 取引先に紹介された企業からの新規受注を獲得することによって、取引先との関係を強化することができる。
- 取引先からの依頼に応えて新製品を開発することによって、取引先との関係を強化することができる。
第5問
第5問(配点20点)
わが国中小製造業の経営が厳しさを増す中で、C社が立地環境や経営資源を生かして付加価値を高めるための今後の戦略について、中小企業診断士として120字以内で助言せよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
解答の方向性
第5問では、C社が付加価値を高めるために活用できる立地環境や経営資源を分析して、今後の戦略を提案する能力を問われています。
今後の戦略を提案する問題では、C社の強みを生かして解答を構成していきます。
ここまでの問題で、一切触れていない「最近、習得した成形加工の際に金属部品などを組み込んでしまう成形技術(インサート成形)」を中心的な要素として、あとは、事例Ⅲの解答に使える追加的な要素である「新規事業を開発する」「取引先との関係を強化する」を組み合わせて解答を考えていきます。
与件文で関連しそうな箇所
与件文では、【C社の概要】の前半から中盤にかけて、および後半部分に記述されています。
与件文を読んでいくと、C社が付加価値を高めるために、以下の3つの資源を活用することができそうです。
- 工業団地に立地する中小企業との信頼関係
- 古くから取引があり国内生産への発注が戻り始めた顧客企業
- 最近習得した成形技術(インサート成形)
問題文の中では、以下の部分が該当します。
詳細に示すと以下の通りとなります。
- C社は、住工混在地域に立地していたが、1980年、C社同様の立地環境にあった他の中小企業とともに高度化資金を活用して工業団地に移転した。この工業団地には、現在、金属プレス加工、プラスチック加工、コネクター加工、プリント基板製作などの電気・電子部品に関連する中小企業が多く立地している。
⇒C社が立地する工業団地には、金属プレス加工、プラスチック加工、コネクター加工、プリント基板製作などの電気・電子部品といった幅の広い中小企業が多く立地しているため、「工業団地に立地する中小企業と連携を強化する。」という戦略が考えられます。
- C社のプラスチック射出成形加工製品(以下「成形加工品」という)は、顧客企業で電気・電子部品に組み立てられ、その後、家電メーカーに納品されて家電製品の一部になる。主に量産する成形加工品を受注していたが、1990年代後半から顧客企業の生産工場の海外移転に伴い量産品の国内生産は減少し、主要顧客企業からの受注量の減少が続いた。
⇒C社の成形加工品は「顧客企業で電気・電子部品に組み立てられ、その後、家電メーカーに納品されて家電製品の一部になる」と記述されているため、「工業団地に立地する中小企業の中で、連携を強化するのは電気・電子部品関連の企業である。」と考えられます。
- C社が立地する工業団地の中小企業も大手電気・電子部品メーカーを顧客としていたため、C社同様工業団地に移転後、顧客企業の工場の海外移転に伴い経営難に遭遇した企業が多い。そこで工業団地組合が中心となり、技術交流会の定期開催、共同受注や共同開発の実施などお互いに助け合い、経営難を乗り越えてきた。C社は、この工業団地組合活動のリーダー的存在であった。
⇒工業団地に立地する中小企業は、工業団地組合が中心となって、技術交流会の定期開催、共同受注や共同開発の実施などによりお互いに助け合った経緯があるため、良好な信頼関係があると考えられます。また、C社はこの工業団地組合活動のリーダー的存在でもあったため、C社が声をかければ賛同する企業もあると考えられるため、「工業団地に立地する良好な信頼関係のある中小企業と連携を強化して共同受注や共同開発を実施する。」という戦略が考えられます。
- 最近C社は、成形加工の際に金属部品などを組み込んでしまう成形技術(インサート成形)を習得し、古くから取引のある顧客企業の1社からの受注に成功している。それまで他社の金属加工品とC社の成形加工品、そして顧客企業での両部品の組立という3社で分担していた工程が、C社の高度な成形技術によって金属加工品をC社の成形加工で組み込んで納品するため、顧客企業の工程数の短縮や納期の短縮、そしてコスト削減も図られることになる。
⇒C社は、最近習得した「成形加工の際に金属部品などを組み込んでしまう成形技術(インサート成形)」という強みを活用して、付加価値を高めることができます。
顧客企業の工程数の短縮、納期の短縮、コスト削減を実現することができるため、既に古くから取引のある顧客企業の1社からの受注に成功しています。
「成形技術(インサート成形)を活用して、古くから取引のある顧客企業の工程数の短縮や納期の短縮、そしてコスト削減を実現することによって、受注を獲得する。」という戦略が考えられます。
付加価値を高めるための今後の戦略
C社が立地環境や経営資源を生かして付加価値を高めるための今後の戦略は以下の通りです。
最近習得した「成形技術(インサート成形)」は、文章の全体に掛かるように記述することとします。
- 成形技術(インサート成形)を活用する。
- 古くから取引のある顧客企業の工程数の短縮や納期の短縮、そしてコスト削減を実現することによって、受注を獲得する。
- 工業団地に立地する良好な信頼関係のある電気・電子部品関連の中小企業と連携を強化して共同受注や共同開発を実施する。
売上を拡大するための戦略ではなく、付加価値を高めるための戦略を求められているため、「受注を獲得する。」「共同受注や共同開発を実施する。」という文言は外すこととします。
- 成形技術(インサート成形)を活用する。
- 古くから取引のある顧客企業の工程数・納期の短縮とコスト削減を実現する。
- 工業団地に立地する良好な信頼関係のある電気・電子部品関連の中小企業と連携を強化する。
解答例
ここまでに整理してきた内容に基づき、120文字以内にまとめます。
付加価値を高める戦略は、高度なインサート成形技術を活用して、古くから取引があり国内回帰している顧客企業の工程数・納期の短縮とコスト削減を実現すること、工業団地組合に所属して信頼関係のある電気・電子部品関連の中小企業と連携を強化することである。(120文字) |
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