今回は、「事例Ⅲ ~平成29年度 解答例(2)(第1問)~」について説明します。
目次
事例Ⅲ ~平成29年度試験問題一覧~
平成29年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
生産管理
「生産管理」とは、生産活動に関する「Q:品質」「C:コスト」「D:数量および納期」の最適化を図るため、「需要予測」「生産計画」「生産実施」「生産統制」を行うことをいいます。
生産管理のポイント
「生産管理」に関連する主なポイントは以下の通りです。
- 営業部門が入手した需要予測または受注情報を製造部門に迅速に連携して、迅速に生産計画に反映されるべきです。
- 生産計画は「大日程・中日程・小日程」に分割してできるだけ短い間隔で更新され、できるだけ短い期間を対象として作成されるべきです。
- 生産計画は、全ての製品および全ての工程を対象にして立案されるべきです。
- 生産計画に基づき、一元的に生産統制(進捗管理、現品管理、余力管理)されるべきです。
生産統制
「生産統制」とは、作成された生産計画にしたがって生産活動を実施できるように、生産活動の状況を把握して、計画に対する差異が発生した場合には、即座に対策を行って差異を解消させていくことをいいます。
生産計画と生産統制の関係
「生産統制」では「生産計画」と照らし合わせて「QCD」の観点から問題が発生していないかを管理していきますが、「生産統制」で管理する項目には「進捗管理」「現品管理」「余力管理」があります。
生産統制 | 生産計画 | 説明 |
進捗管理 | 日程計画 | 日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動 |
現品管理 | 材料・部材計画 | 在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動 |
余力管理 | 工数計画 | 労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動 |
進捗管理(進度管理)
「進捗管理」とは、日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動のことをいいます。
「進捗管理」の一番の目的は納期を遵守することですが、生産計画よりも前倒しして作業を進めても、仕掛品・完成品を倉庫に保管するコストが増加してしまうなどの問題が発生するため、適切ではありません。
「進捗管理」では、早過ぎず遅過ぎず計画通りの日程で作業が進行するよう管理する必要があります。
現品管理
「現品管理」とは、「資材」「仕掛品」「製品」などの在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動のことをいいます。
状況 | 観点 |
外部業者からの受け入れ (原材料・部品) |
受け入れ数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
運搬 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
運搬数量の過不足確認 適正な運搬荷姿 - 現品の傷・変形・破損の防止 適正な運搬方法 - 現品の傷・変形・破損の防止 |
保管 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
保管数量の過不足確認 適正在庫の維持 - 在庫の長期保管による品質劣化の防止 適正な保管方法 - 積み上げによる荷崩れ等の防止 - 温度管理等による品質劣化の防止 |
外部業者への受け渡し (完成品) |
受け渡し数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
余力管理
「余力管理」とは、労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動のことをいいます。
第1問
第1問(配点30点)
CNC木工加工機の生産販売を進めるために検討すべき生産管理上の課題とその対応策を140字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
解答の方向性
第1問では、新規事業であるCNC木工加工機の生産販売を進めるために必要な生産管理上の課題を把握し、解決する能力を求められています。
既存事業の生産業務における課題とその対応策については第2問で問われているため、第1問では、C社がこれまで取り組んできた既存事業と今後展開する新規事業の生産方法の違いを整理し、その違いによる課題を解決する対策を解答として取りまとめていくという流れで解答を考えていきます。
与件文で関連しそうな箇所
与件文において、【C社の概要】と【生産概要】の後半部分と【新規事業の概要】の後半部分から、新規事業の生産管理上の課題となり得る箇所、及び対応策として活用できそうな箇所を抜粋していきます。
問題文の中では、以下の部分が該当します。
詳細に示すと以下の通りとなりますが、【新規事業の概要】の後半部分に記載されている「これまで製造部では専任担当制で作業者間の連携が少なかったが、この新規事業では、機械加工班と製缶板金班が同じCNC 木工加工機の部品加工、組み立てに関わることとなる」ことが、C社がこれまで取り組んできた既存事業と今後展開する新規事業の違いによる生産管理上のポイントであると捉えて、生産管理上の課題と対応策を考えていくこととします。
既存業務における問題として明確に明記されている「担当している機械の他は操作ができない作業者が多い」ことと「標準化やマニュアル化は進められていない」ことに対する対策を解答としたいところですが、この問題点は「第2問」で解答する材料とするため、「第1問」の解答では触れないようにしておきます。
- 10年前、CAD等のITの技能を備えた社長の長男(現在常務)が入社し、設計のCAD化や老朽化した設備の更新など、生産性向上に向けた活動を推進してきた。この常務は、高齢の現社長の後継者として社内で期待されている。
⇒対応策としてITを活用できるかもしれない。 - C社の組織は、社長、常務の他、経理担当1名、設計担当1名、製造部20名で構成されている。顧客への営業は社長と常務が担当している。
⇒既存製品の生産業務では、顧客は古くから取引関係がある企業が多く、受注品の多くは各顧客から繰り返し発注される部品であるため、問題は生じていないが、新規事業を進めていくためには、設計担当の増員が必要となるのではないか。
「顧客への営業は社長と常務が担当している」点については下方に補足説明を示します。 - 加工内容については、機械加工班はコンベアなどの搬送設備、食品加工機械、農業機械などに組み込まれる部品加工、鋳物部品の仕上げ加工など比較的小物でロットサイズが大きい機械加工であり、製缶板金班は農業機械のフレーム、建設用機械のバケット、各種産業機械の本体カバーなど大型で多品種少量の鋼材や鋼板の加工が中心である。
⇒機械加工班は「比較的小物でロットサイズが大きい機械加工」を、製缶板金班は「大型で多品種少量の鋼材や鋼板の加工」を行っており、生産形態が大きく異なっている。 - 顧客から注文が入ると、受注窓口である社長と常務から、担当する製造部の作業者に直接生産指示が行われる。
⇒作業者に直接生産指示が行われているため、製品の出荷までの全体スケジュールの管理も属人的になっているのではないか。 - 顧客は古くから取引関係がある企業が多く、受注品の多くは各顧客から繰り返し発注される部品である。
⇒古くから取引関係がある企業から繰り返し部品を発注されているのであれば、顧客の需要を予測した見込生産を取り入れることができるのでないか。 - そのため受注後の加工内容などの具体的な打ち合わせは、各機械を担当する作業者が顧客と直接行っている。
⇒作業者が顧客と加工内容などの打ち合わせを行っているため、製品の出荷までの全体スケジュールの管理も属人的になっているのではないか。 - CNC木工加工機の生産は、内部部品加工を機械加工班で、制御装置収納ケースなどの鋼板加工と本体塗装を製缶板金班でそれぞれ行い、それに外部調達したCNC制御装置を含めて組み立てる。
⇒生産業務において、機械加工班と製缶板金班と外注業者の連携強化が求められる。 - これまで製造部では専任担当制で作業者間の連携が少なかったが、この新規事業では、機械加工班と製缶板金班が同じCNC木工加工機の部品加工、組み立てに関わることとなる。
⇒複数の部門の連携強化が必要となるため、生産計画・生産統制が重要になる。 - なお、最終検査は設計担当者が行う。
⇒設計部門の担当者は1名しかいないため、設計担当者が最終検査を行う体制で遅滞なく生産活動を行うことができないのではないか。
顧客への営業は社長と常務が担当している。
新規顧客獲得のための営業活動を積極的に行った経験がなく、販売やマーケティングに関するノウハウも、機械商社などの販売チャネルもないC社の現状を考えると、「顧客への営業は社長と常務が担当している。」という部分も問題点として取り上げ改善すべきであると考えられますが、新規顧客の獲得といった営業活動の観点となり「事例Ⅲ」の範囲ではない(「事例Ⅱ」の範囲)ため、問題点として取り上げません。
事例Ⅲにおいて、与件文に「経営陣が営業を担当している」と記載されている場合は、顧客から注文を受けた際に注文情報が製造部門に迅速に正確に伝達されているかという観点に着目して考える必要があります。
課題と対応策
生産管理上の課題を解決するための対応策として「生産管理」を強化するという方針で、「達成すべき目標」「課題」「対応策」を整理していきます。
達成すべき目標
新規事業であるCNC 木工加工機の生産活動において「生産管理」を強化して「QCD」を確保する。
課題
これまで製造部では専任担当制で作業者間の連携が少なかったが、新規事業であるCNC 木工加工機の生産活動では、機械加工班と製缶板金班が同じCNC木工加工機の部品加工、組み立てに関わることとなるため、「生産計画」を策定するとともに「生産統制」による管理を確実に行う必要がある。
対応策
課題を達成するための対応策を少し具体的に記載します。
顧客から注文を受けたら、受注窓口である社長と常務から、担当する製造部の作業者に直接生産指示が行うのではなく、顧客から注文を受けたら、生産計画を策定して製造部門に伝達するとともに、作成された生産計画にしたがって生産活動を実施できるように、「進捗管理」「現品管理」「余力管理」といった生産統制による管理を行う仕組みを整備する。
解答例
ここまでに整理してきた内容を140文字以内にまとめます。
これまで作業者間の連携が少なかったが、CNC木工加工機の生産では機械加工班と製缶板金班が、同じCNC 木工加工機の部品加工、組み立てに関わるため、生産統制による管理が課題となる。対応策として、作業者に直接生産指示するのではなく、生産計画を策定して進捗状況などを管理する仕組みを整備する。(140文字) |
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