今回は、昨日に引き続き「財務・会計 ~H30-8-2 原価の部門別計算(2)~」について説明します。
「平成30年度 第8問 原価の部門別計算」について解説を行っていますが、説明が長文となってしまったため、2日間に分けて解説しています。
本日は、2日目です。
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目次
財務・会計 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第2次集計(補助部門費の製造部門への配賦)
第2次集計の目的は、各部門(製造部門と補助部門)に集計された製造間接費を製造部門に集計することであるため、第1次集計の結果、補助部門に集計された部門費を、適当な配賦基準にしたがって用役を提供した各部門に配賦していく計算を行います。
相互配賦法
「相互配賦法」は、補助部門間における用役の授受を考慮して、補助部門費を製造部門に配賦する方法です。「相互配賦法」には、以下の方法があります。
- 簡便法としての相互配賦法(昨日の記事で解説)
- 純粋の相互配賦法
- 連立方程式法
- 連続配賦法
純粋の相互配賦法
「純粋の相互配賦法」には「連立方程式法」と「連続配賦法」があります。
補助部門が相互に授受している用役の費用を補助部門にも配賦しながら、製造部門への配賦金額を計算する方法です。
連立方程式法
「連立方程式法」とは、連立方程式を使って補助部門が相互に授受している用役の費用を補助部門にも配賦しながら、製造部門への配賦金額を計算する方法です。
最初に、「動力部門」の最終部門費を「a」、修繕部門の最終部門費を「b」、修正部門の最終部門費を「c」とします。
製造部門A | 製造部門B | 補助部門① (動力部門) |
補助部門② (修繕部門) |
補助部門③ (事務部門) |
|
部門費 | ¥2,000,000 | ¥1,000,000 | ¥500,000 | ¥600,000 | ¥200,000 |
動力部門費 (a) |
|||||
修繕部門費 (b) |
|||||
事務部門費 (c) |
|||||
製造部門費 | a | b | c |
続いて、「部門費配賦表」の空欄に、適当な配賦基準に基づき配賦される補助部門費の割合を記載していきます。
なお、補助部門費の配賦とは費用を他部門に配賦することであるため、「事務部門」にも従業員は「5人」配置されていますが、「事務部門」には自部門の部門費は配賦されません。
製造部門A | 製造部門B | 補助部門① (動力部門) |
補助部門② (修繕部門) |
補助部門③ (事務部門) |
|
部門費 | ¥2,000,000 | ¥1,000,000 | ¥500,000 | ¥600,000 | ¥200,000 |
動力部門費 (a) |
0.6a | 0.2a | - | 0.2a | - |
修繕部門費 (b) |
0.5b | 0.25b | 0.25b | - | - |
事務部門費 (c) |
102/160×c | 18/160×c | 16/160×c | 24/160×c | - |
製造部門費 | a | b | c |
「部門費配賦表」における「補助部門①②③」の縦の列に着眼して、連立方程式を立てます。
- a=500,000+0.25b+16/160×c
- b=600,000+0.2a+24/160×c
- c=200,000
この連立方程式を解くことによって、「補助部門①②③」の最終的な部門費を算出します。
- 動力部門費:a ≒ 713,158
- 修繕部門費:b ≒ 772,632
- 事務部門費:c = 200,000
「部門別配賦表」に、算出された数値を投入して表を完成させます。
適当な配賦基準に基づき、各部門に配賦される金額も計算して記載します。
製造部門A | 製造部門B | 補助部門① (動力部門) |
補助部門② (修繕部門) |
補助部門③ (事務部門) |
|
部門費 | ¥2,000,000 | ¥1,000,000 | ¥500,000 | ¥600,000 | ¥200,000 |
動力部門費 | ¥427,895 | ¥142,632 | - | ¥142,632 | - |
修繕部門費 | ¥386,316 | ¥193,158 | ¥193,158 | - | - |
事務部門費 | ¥127,500 | ¥22,500 | ¥20,000 | ¥30,000 | - |
製造部門費 | ¥2,941,711 | ¥1,358,289 | ¥713,158 | ¥772,632 | ¥200,000 |
「部門別配賦表」の表示方法を少し修正すると完成です。
製造部門A | 製造部門B | 補助部門① (動力部門) |
補助部門② (修繕部門) |
補助部門③ (事務部門) |
|
部門費 | ¥2,000,000 | ¥1,000,000 | ¥500,000 | ¥600,000 | ¥200,000 |
動力部門費 | ¥427,895 | ¥142,632 | ¥-713,158 | ¥142,632 | - |
修繕部門費 | ¥386,316 | ¥193,158 | ¥193,158 | ¥-772,632 | - |
事務部門費 | ¥127,500 | ¥22,500 | ¥20,000 | ¥30,000 | ¥-200,000 |
製造部門費 | ¥2,941,711 | ¥1,358,289 | ¥0 | ¥0 | ¥0 |
連続配賦法
「連続配賦法」とは、補助部門が相互に授受している用役の費用を補助部門にも配賦する手順を各補助部門費がゼロに近づくまで繰り返すことによって、製造部門への配賦金額を計算する方法です。
「簡便法としての相互配賦法」の「1回目の配賦計算」をひたすら繰り返しますが、事例での説明は省略します。
階梯式配賦法
「階梯式配賦法」とは、補助部門間における用役の授受を考慮しますが、補助部門を順位付けして、上位の補助部門から下位の補助部門についてのみ費用の配賦を考慮する方法です。
上位の補助部門から下位の補助部門についてのみ費用を配賦することによって、補助部門間で相互に費用を配賦しあうという複雑さを回避します。
補助部門の順位付けに関する判断基準
補助部門を順位付けするときの判断基準を以下に示します。
「第1判断基準」で優劣が付かなかった場合は、「第2判断基準」で順位付けを行います。
- 第1判断基準
他の補助部門への用役提供件数が多い補助部門を上位とする。 - 第2判断基準
第1判断基準が同数の場合は、次のいずれかの方法により順位付けを行う。- 第1次集計費の多い方を上位とする。
- 相互の配賦額を比較し、配賦額の多い方を上位とする。
それでは、事例で説明していきます。
第1判断基準
各補助部門における他の補助部門への用役提供件数を確認すると「補助部門③(事務部門)」が「1位」となりますが、「補助部門①(動力部門)」と「補助部門②(修繕部門)」は「2位(同数)」となるため、第2判断基準により順位付けを行うこととなります。
補助部門名 | 用役提供先 | 提供件数 | 順位 |
補助部門①(動力部門) | 補助部門②(修繕部門) | 1件 | 2位 (同数) |
補助部門②(修繕部門) | 補助部門①(動力部門) | 1件 | 2位 (同数) |
補助部門③(事務部門) | 補助部門①(動力部門) 補助部門②(修繕部門) |
2件 | 1位 |
第2判断基準
各補助部門における第1次集計費を確認すると「補助部門②(修繕部門)」が「2位」となり、「補助部門①(動力部門)」は「3位」となります。
補助部門名 | 第1次集計費 | 順位 |
補助部門①(動力部門) | ¥500,000 | 3位 |
補助部門②(修繕部門) | ¥600,000 | 2位 |
「部門別配賦表」において、補助部門を右から「1位」「2位」「3位」の順番に並び替え、「1位」の部門費から順番に費用を配賦していきます。
配賦にあたっては、上位の補助部門から下位の補助部門についてのみ費用を配賦するため、以下の「部門別配賦表」のように必ず階段状の表となります。
製造部門A | 製造部門B | 3位 補助部門① (動力部門) |
2位 補助部門② (修繕部門) |
1位 補助部門③ (事務部門) |
|
部門費 | ¥2,000,000 | ¥1,000,000 | ¥500,000 | ¥600,000 | ¥200,000 |
事務部門費 | ¥127,500 | ¥22,500 | ¥20,000 | ¥30,000 | ¥200,000 |
修繕部門費 | ¥315,000 | ¥157,500 | ¥157,500 | ¥630,000 | - |
動力部門費 | ¥508,125 | ¥169,375 | ¥677,500 | - | - |
製造部門費 | ¥2,950,625 | ¥1,349,375 | - | - | - |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第8問】
部門別個別原価計算に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 部門費の第1次集計では、製造直接費は当該部門に賦課され、製造間接費は適当な配賦基準により関係する各部門に配賦される。
イ 部門費の第1次集計では、補助部門のうち工場全体の管理業務を行う工場管理部門(工場事務部門、労務部門など)には原価を集計しない。
ウ 部門費の第2次集計(補助部門費の配賦)において、直接配賦法を採用する場合、補助部門間の用役の授受は計算上無視される。
エ 部門費の第2次集計(補助部門費の配賦)において、補助部門費は、直接配賦法や相互配賦法等の方法で各製造指図書に配賦される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
(ア) 不適切です。
「部門別計算」は「製造間接費」を各部門に割り当てていく手続きのことをいいます。
第1次集計(部門個別費と部門共通費の集計)では、製造間接費を「部門個別費」と「部門共通費」に分類して、「部門個別費」は当該部門に賦課(直課)され、「部門共通費」は適当な配賦基準により関係する各部門に配賦されるため、選択肢の内容は不適切です。
- 部門個別費
どの部門で発生した費用であるかを紐づけることができる費用 - 部門共通費
特定の部門ではなく、いくつかの部門で共通利用しており、どの部門でいくら発生した費用かを紐づけることができない費用
(イ) 不適切です。
第1次集計(部門個別費と部門共通費の集計)では、補助部門のうち工場全体の管理業務を行う工場管理部門(工場事務部門、労務部門など)にも原価を集計するため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 適切です。
第2次集計(補助部門費の製造部門への配賦)において、直接配賦法を採用する場合、補助部門間の用役の授受は計算上無視して、すべての補助部門費を製造部門に直接配賦するため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
第2次集計(補助部門費の製造部門への配賦)において、補助部門費は、直接配賦法や相互配賦法等の方法で各製造部門に配賦されるため、選択肢の内容は不適切です。
なお、「製造間接費」をどの製品の原価として紐づけるかについては「部門別計算」ではなく、「製品別計算」で行います。
答えは(ウ)です。
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