平成23年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
目次
事例Ⅳ ~平成23年度試験問題一覧~
平成23年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
限界利益と貢献利益による分析
「限界利益と貢献利益による分析」とは、限られた経営資源で、企業の営業利益を増やすために「製品」や「事業部門」の採算性を分析することをいいます。
「限界利益分析」と「貢献利益分析」は、以下のように使い分けられます。
- 「限界利益分析」は、限られた経営資源で、企業の営業利益を最大にするために、販売(生産)する製品の最適な販売比率(最適セールスミックス)を求めるために活用されます。
- 「貢献利益分析」は、製品ラインナップや事業部門の採算性を見極め、企業全体の利益に貢献していない製品の生産を中止したり、事業部門を廃止する判断をするために活用されます。
第3問
第3問(配点25点)
D社の第3設備では、X、Y、Zの3種類の製品を製造している。製品別の損益計算書は以下のとおりである。
製品X 製品Y 製品Z 販売量 (単位) 250,000 250,000 400,000 売上高 (百万円) 350 450 600 変動費 〃 125 200 280 限界利益 〃 225 250 320 個別固定費 〃 100 150 200 共通固定費 〃 88 88 140 営業利益(損失) 〃 38 13 ▲20 ※共通固定費は販売量に基づいて配賦している。
製品XとYは利益を上げているが、製品Zは赤字である。そこで、製品Zの製造を中止してはどうかとの検討を行うことにした。製品Zを廃止すべきかどうかについての計算過程を(a)欄に示し、結論を理由とともに(b)欄に50字以内で述べよ。なお、製品Zの製造中止によって、製品XとYの販売量等は全く影響を受けないと仮定する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方
製品別の損益計算書に基づき、「製品Z」の採算性を分析して生産を中止すべきかどうかについて判断することを問われています。
製品の生産を中止すべきかどうかの意思決定は「貢献利益分析」により実施します。
製品別の損益計算書から「貢献利益」を算出して、「製品Z」の「貢献利益」が「プラス」か「マイナス」かによって、「製品Z」の生産を中止すべきかどうかを判断します。
製品Zの貢献利益
貢献利益は「売上高 - 変動費 - 個別固定費」であり「限界利益」から「個別固定費」を控除して算出します。
「製品別の損益計算書」から求めると「貢献利益」が「プラス」であることが分かります。
「貢献利益」が「プラス」であるということは、営業利益の増加に貢献していることを表しているため、「製品Zの生産を中止すべきではない」との判断を行います。
製品別の損益計算書(貢献利益とD社の合計金額の追加)
製品X | 製品Y | 製品Z | D社 | |
販売量 | 250,000 | 250,000 | 400,000 | - |
売上高 | 350 | 450 | 600 | 1,400 |
変動費 | 125 | 200 | 280 | 605 |
限界利益 | 225 | 250 | 320 | 795 |
個別固定費 | 100 | 150 | 200 | 450 |
貢献利益 | 125 | 100 | 120 | 345 |
共通固定費 | 88 | 88 | 140 | 315 |
営業利益(損失) | 38 | 13 | ▲20 | 30 |
製品Zの生産を中止した場合のD社の営業利益
製品別の損益計算書を見ると、「製品Z」の貢献利益が「120百万円」であり、D社の営業利益が「30百万円」であることから、「製品Z」の生産を中止した場合の損益計算書を作成しなくても、D社の営業利益が「30百万円-120百万円=▲90万円」と赤字に転落することが分かります。
製品Zの生産を中止した場合
「製品Z」の生産を中止した場合、「製品Z」が負担していた「共通固定費」も「製品X」と「製品Y」に配賦されるようになります。
D社では各製品の販売量に基づいて「共通固定費」を配賦しているため、「製品X」と「製品Y」にぞれぞれ「157.5百万円」ずつ配賦されることになりますが、「製品Z」が負担していた「共通固定費」を、「製品X」と「製品Y」の「貢献利益」では賄うことができないため、D社は営業赤字に転落します。
製品別の損益計算書(製品Zの生産を中止した場合)
製品X | 製品Y | 製品Z | D社 | |
販売量 | 250,000 | 250,000 | - | - |
売上高 | 350 | 450 | - | 800 |
変動費 | 125 | 200 | - | 325 |
限界利益 | 225 | 250 | - | 475 |
個別固定費 | 100 | 150 | - | 250 |
貢献利益 | 125 | 100 | - | 225 |
共通固定費 | 157.5 | 157.5 | - | 315 |
営業利益(損失) | ▲32.5 | ▲57.5 | - | ▲90 |
貢献利益の意味について(製品生産)
企業は、継続的に利益を出していくことが絶対的な命題であるため、ある製品を販売する以上は、少なくともその製品を生産するための費用(「変動費」「個別固定費」)を回収して利益を上げることができなければ、その製品を販売すること自体に意味がありません。(販売しない方がまだましです。)
また、企業は製品を生産するための費用以外に、会社を運営するための管理機能を持っています。例えば、社長の給与や本社ビルの建物経費や総務・財務部門といった管理部門のスタッフの給与などがそれに該当しており、これらの会社運営を維持するために発生する「共通固定費」も製品の販売により回収しなければ、企業全体として利益を上げることができません。
つまり、ある製品の販売により「共通固定費」の回収にどの程度貢献できているかを金額で表しているのが「貢献利益」です。
「貢献利益」がプラスであれば「共通固定費」の回収に貢献できているため製品の生産を継続すべきであることを示し、「貢献利益」がマイナスであれば、その製品を生産するための費用すら回収できていないので生産を中止した方がよいことを意味しています。
解答
「製品Z」を廃止すべきかどうかについての計算過程(a)、結論と理由(b)は以下の通りです。
(a) | 製品別の損益計算書から製品X、製品Y、製品Zの貢献利益を求める。 製品X:限界利益(225)- 個別固定費(100)= 貢献利益(125百万円) 製品Y:限界利益(250)- 個別固定費(150)= 貢献利益(100百万円) 製品Z:限界利益(320)- 個別固定費(200)= 貢献利益(120百万円) 製品Zの貢献利益は正であり、D社の営業利益に貢献している。 製品Zを廃止した場合の製品X、製品Y、D社の営業利益を求める。 製品X:貢献利益(125)- 共通固定費(157.5)= 営業利益(▲32.5百万円) 製品Y:貢献利益(100)- 共通固定費(157.5)= 営業利益(▲57.5百万円) D社:製品Xの営業利益(▲32.5)+ 製品Yの営業利益(▲57.5)= 営業利益(▲90百万円) 製品Zが負担していた共通固定費を、製品Xと製品Yの貢献利益では賄うことができない。 |
(b) | 製品Zの貢献利益が正であるため廃止すべきではない。製品Zを廃止するとD社の営業損失が90百万円となる。(50字) |
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