平成26年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
昨日の記事「平成26年度 解答例(3)(設備投資の経済性計算)」の続きです。
目次
事例Ⅳ ~平成26年度試験問題一覧~
平成26年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
設備投資の経済性計算
「設備投資の経済性計算」とは、企業が設備導入などの投資を検討する際に、その投資が企業に利益をもたらすのかを定量的に見極めていくために、投資に伴い発生するキャッシュ・フローを分析して、その投資を実行すべきか否かを判断することをいいます。
二次試験では、実際に与えられたデータから、プロジェクトへの投資額とプロジェクトにより得られるキャッシュフローを算出して、設備投資の意思決定モデルに基づきプロジェクトを実行すべきか否かを判断するというパターンの問題が出題されます。
第2問(設問2)
第2問(配点30点)
D社のある店舗の平成26年度における予想損益計算書は以下のとおりである。売上原価は売上高に比例している。設備備品の償却は定額法(取得原価1,000万円、残存価額ゼロ、耐用年数5年)で行われており、平成27年度期末で償却が終了し、改装のため取り替える予定である。しかし、この店舗の最寄駅では、平成27年4月1日の完成に向けて再開発が進んでおり、これに合わせて改装を早める提案がある。
ある店舗の平成26年度予想損益計算書
(単位:千円) 売上高 42,000 売上原価 10,500 売上総利益 31,500 販売費・一般管理費 31,000 人件費 19,500 店舗賃借料 3,000 その他経費 6,500 減価償却費 2,000 営業利益 500
改装する場合、再開発イメージに合わせた改装やインターネット環境などの充実のため、1,500万円の設備投資額が見込まれている。設備投資は期間5年の定額法(残存価額ゼロ)で償却される予定である。改装した場合は、販売費・一般管理費のうちその他経費が、平成26年度よりも10%増加すると見込まれている。
平成26年度期末に改装した場合、駅前の再開発との相乗効果により今後5年間の売上は平成26年度よりも10%増加すると見込まれている。一方、改装を平成27年度期末に行う場合、相乗効果が得られないため、平成27年度の売上は平成26年度より5%増加し、平成28年度以降の4年間は平成26年度より10%の増加が見込まれている。
なお、再開発に合わせた改装を行う場合、現在の設備備品は平成26年度期末の帳簿価額で翌年度期首に除却されるものとする。
下記の設問に答えよ。
(設問2)
平成27年度から平成31年度までの5年間における予想税引後キャッシュフローの正味現在価値を計算し、駅前の再開発完成に合わせて平成26年度期末に改装するか、予定どおり平成27年度期末の償却が終わるのを待ち平成27年度期末に改装するかを判断せよ。
ただし、運転資本の増減はなく、法人税率は40%、資本コストは5%とする(計算には以下に示す現価係数を用いよ)。
現価係数表 1年 0.95 2年 0.91 3年 0.86 4年 0.82 5年 0.78
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方(設問2)
「①平成26年度期末に改装する場合」と「②平成27年度期末に改装する場合」の予想税引後キャッシュフローの正味現在価値を算出して、どちらのタイミングで改装する方が収益が得られるのかを求めていきます。
①平成26年度期末に改装した場合
平成27年度の予想税引後キャッシュフローは「設問1」で求めた通りです。
平成28年度以降においては、平成27年度に計上した「固定資産除却損」がなくなりますが、それ以外の数値は変化しません。
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | H31 | |
売上高 | - | 46,200 | 46,200 | 46,200 | 46,200 | 46,200 |
売上原価 | - | 11,550 | 11,550 | 11,550 | 11,550 | 11,550 |
売上総利益 | - | 34,650 | 34,650 | 34,650 | 34,650 | 34,650 |
販売費・一般管理費 | - | 32,650 | 32,650 | 32,650 | 32,650 | 32,650 |
人件費 | - | 19,500 | 19,500 | 19,500 | 19,500 | 19,500 |
店舗賃借料 | - | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
その他経費 | - | 7,150 | 7,150 | 7,150 | 7,150 | 7,150 |
減価償却費 | - | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
営業利益 | - | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
固定資産除却損 | - | 2,000 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税引前当期純利益 | - | 0 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
法人税等支払額 | - | 0 | 800 | 800 | 800 | 800 |
税引後当期純利益 | - | 0 | 1,200 | 1,200 | 1,200 | 1,200 |
減価償却費 | - | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
固定資産除却損 | - | 2,000 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税引後営業CF | - | 5,000 | 4,200 | 4,200 | 4,200 | 4,200 |
設備投資(投資CF) | ▲15,000 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
予想税引後CF | ▲15,000 | 5,000 | 4,200 | 4,200 | 4,200 | 4,200 |
平成26年度期末に改装のための設備投資を行う場合、時系列図は以下の通りとなります。
②平成27年度期末に改装した場合
平成27年度の予想税引後キャッシュフローは「設問1」で求めた通りです。
平成27年度末に改装のための設備投資を行いますが、「設備備品(現行設備)」の償却は終わっているため、平成28年度に「固定資産除却損」は計上されません。
なお、プロジェクトの最終年度が平成31年度となっていますが、平成31年度末の時点では改装のために投資した設備の償却が終わっていないため、固定資産の残存簿価を「CIF」として加算します。
- 改装のために投資した設備の残存簿価(平成31年度末時点)
取得原価15,000千円 ÷ 耐用年数5年 × 残期間1年=3,000千円
固定資産の処分に伴うキャッシュ・フローへの反映方法
固定資産の処分方法により、キャッシュ・フローへの反映方法が異なるため、以下に補足します。
- 固定資産を売却する場合(固定資産売却益が発生する場合)
固定資産の売却価格が残存簿価よりも高かった場合は「固定資産売却益」が発生します。
現金収入(CIF)は、売却による現金収入から、固定資産売却益により発生する「減価償却費 × 法人税率」の法人税の増額(COF)も加味する必要があるため、以下の計算式で算出することができます。
- 固定資産を売却する場合(固定資産売却損が発生する場合)
固定資産の売却価格が残存簿価よりも低かった場合は「固定資産売却損」が発生します。
現金収入(CIF)は、売却による現金収入だけでなく、固定資産売却損による「減価償却費 × 法人税率」の節税効果(CIF)も加味する必要があるため、以下の計算式で算出することができます。
- 固定資産を除却する場合
残存簿価がある固定資産を除却する場合は「固定資産除却損」が発生します。
「固定資産除却損」により現金支出は発生しませんが、「固定資産除却損 × 法人税率」の節税効果(CIF)も加味する必要があるため、以下の計算式で算出することができます。
- 固定資産を除却する際に追加で廃棄費用が発生する場合
固定資産を廃棄するにあたって追加費用が発生する場合は「固定資産除却費用(固定資産除却損)」により現金支出(COF)が発生しますが、さらに「固定資産除却費用(固定資産除却損) × 法人税率」の節税効果(CIF)も加味する必要があるため、以下の計算式で算出することができます。
以下のように、現金支出(COF)と節税効果(CIF)を分割して理解しておく方がミスが少ないと思います。
- プロジェクト終了時点で固定資産の残存簿価が残っている場合
プロジェクトの終了時点において固定資産の償却が終わっておらず、売却や除却などの処分方法が記載されていない場合は、固定資産の残存簿価を「CIF」として加算します。
これは、売却も処分もしませんが、固定資産としては残存簿価の価値があるためです。
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | H31 | |
売上高 | - | 44,100 | 46,200 | 46,200 | 46,200 | 46,200 |
売上原価 | - | 11,025 | 11,550 | 11,550 | 11,550 | 11,550 |
売上総利益 | - | 33,075 | 34,650 | 34,650 | 34,650 | 34,650 |
販売費・一般管理費 | - | 31,000 | 32,650 | 32,650 | 32,650 | 32,650 |
人件費 | - | 19,500 | 19,500 | 19,500 | 19,500 | 19,500 |
店舗賃借料 | - | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
その他経費 | - | 6,500 | 7,150 | 7,150 | 7,150 | 7,150 |
減価償却費 | - | 2,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
営業利益 | - | 2,075 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
固定資産除却損 | - | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税引前当期純利益 | - | 2,075 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
法人税等支払額 | - | 830 | 800 | 800 | 800 | 800 |
税引後当期純利益 | - | 1,245 | 1,200 | 1,200 | 1,200 | 1,200 |
減価償却費 | - | 2,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
固定資産除却損 | - | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税引後営業CF | - | 3,245 | 4,200 | 4,200 | 4,200 | 4,200 |
設備投資(投資CF) | - | ▲15,000 | 0 | 0 | 0 | 3,000 |
予想税引後CF | - | ▲11,755 | 4,200 | 4,200 | 4,200 | 7,200 |
平成27年度期末に改装のための設備投資を行う場合、時系列図は以下の通りとなります。
解答(設問2)
平成27年度期末に改装するべきである。 予想税引後キャッシュフローの正味現在価値は、平成26年度期末に改装する場合が「3,904千円」、平成27年度期末に改装する場合が「5,326,75千円」であり、平成27年度期末に改装する方が予想税引後キャッシュフローの正味現在価値が大きい。 ・平成26年度期末に改装する場合 (5,000×0.95)+4,200×(0.91+0.86+0.82+0.78)-15,000=3,904千円 ・平成27年度期末に改装する場合 (3,245×0.95)+4,200×(0.91+0.86+0.82)+7,200×0.78-15,000×0.95=5,326.75千円 |
コメント
はじめまして。現在2次試験の勉強をしている中で本問の解答がテキストによって異なることから、どのように考えるべきか整理したく質問をさせていただければと存じます。
本問のように、投資を行う時期に差があり、NPVを算定する期間に投資の残存簿価がある場合ですが、実情は考慮せずに必ずCIFとして残存簿価を計算するものなのでしょうか。
というのも、例えば新しいものを作るような別事業の立ち上げの場合の機械装置の購入といった投資であれば、残存簿価の売却可能性があることを考慮するために、CIFに含めるようなことは現実的だと思います。
ただ、本問では、既存の店舗の改修(改装やインターネット環境の充実)であり、かつ、前回の投資(内容は未記載)も償却期間終了をもって取り替えるとの記載があります。
この場合は、現実的に考えると将来的に投資箇所を部分的に売却ができるようなものでもありませんし、償却期間が終了後に改めて投資を行う可能性が高いと思われます(インターネット設備の更新は特に)。
また、売却可能性の薄い(私個人の感覚ですが)設備投資であっても残存簿価をCIFとして捉えてしまうと、投資規模がと営業CFのバランスによっては、投資時期を後ろにしたほうが確実に有利になってしまい、適切な投資案の比較にならないのではないかと感じています。
ですので、個人的には、本問において残存簿価をCIFに含めることに非常に違和感を覚えています。
コメントをいただきましてありがとうございます。
まず、二次試験については正解のない試験であること、あくまで試験問題なので実際の業務とも違っていることをあらかじめご承知おきください。
実際の業務で考えた場合には、kwkmさんのご指摘のように、残存簿価をCIFとして捉えない方が良いのかもしれません。
ただ、残存簿価をCIFに入れなかった場合、採点者が答案を見たとき「この受験者は残存簿価をCIFにいれることを忘れてしまった。」と見えてしまい減点される可能性もあるかと思います。
逆に、残存簿価をCIFに入れずに解答欄に、kwkmさんの考えを書いておくという方法を取れば、採点者は「残存簿価をCIFにいれることを忘れたのではなく検討した上で計算に含めなかったんだ。」と判断して、加点される可能性もあるかと思います。
ただ、採点者もマニュアル(正答例)に基づいて採点しているはずであり、知識に長けた採点者が多いとは思いますが、人によってバラツキがあるものと考えられます。そのため、どの解答をすれば最も点数が高くなるのかも正直分かりません。
>本問のように、投資を行う時期に差があり、NPVを算定する期間に投資の残存簿価がある場合ですが、実情は考慮せずに必ずCIFとして残存簿価を計算するものなのでしょうか。
私としては、残存簿価をCIFに入れずに解答欄にkwkmさんの考えを書くよりも、残存簿価をCIFに入れておいた方が採点する側から見れば加点しやすいのかなと感じます。
問題を正確に見直しているお答えしている訳ではないので、ご質問の意図とずれてなければいいのですが。。。
ご回答ありがとうございます。
おしゃる通りですね。理解いたしました。
中小企業診断士の2次試験は、正解がないというのが本当に不安になりますね。
テキストによっても回答が変わる点もそうですし、択一でないので自身の成長度合いもなかなか測れませんし。
教えていただいた点を念頭に引き続き勉強を続けます。
どうもありがとうございました。