平成23年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
昨日の記事「事例Ⅳ ~平成23年度 解答例(1)(経営分析)~」の続きです。
目次
事例Ⅳ ~平成23年度試験問題一覧~
平成23年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第1問(設問1) 前回からの続き
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
効率性
財務指標一覧(効率性)
効率性の財務指標を以下に示します。
財務指標(効率性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
総資本回転率 | 1.88回 | 2.29回 | × |
売上債権回転率 | 6.86回 | 9.77回 | × |
棚卸資産回転率 | 6.66回 | 10.63回 | × |
固定資産回転率 | 6.09回 | 5.13回 | ○ |
有形固定資産回転率 | 6.79回 | 6.22回 | ○ |
考察
- 問題点と思われる点を特徴づける財務指標を解答するため「固定資産回転率」と「有形固定資産回転率」は選択候補から除外する。
- 「総資本回転率/売上債権回転率/棚卸資産回転率」は、同業他社と比較して数値が悪い状況にあるが、その中でも一番数値に差がある「棚卸資産回転率」を選択したい。
- 「棚卸資産回転率」が財務上の問題点と思われる原因について考えてみる。
与件文にある「製品ラインの見直しが求められている」という記述から、製品の売れ筋や死に筋に関する分析ができておらず、収益性が低い製品も生産している状況にあり、製品の売れ残りなどが多く、製造コストが高くなっていると考えられる。
検討結果
「棚卸資産回転率」で決定
貸倒引当金の扱いについて
「貸借対照表」において「売上債権(受取手形・売掛金)」の下段に表記されている「貸倒引当金」の扱いについて補足しておきます。
「売上債権回転率」「当座比率」「流動比率」を算出する際には、「売上債権(受取手形・売掛金)」から「貸倒引当金」を控除した残高を使用しています。
「貸倒引当金」を控除する理由を以下に示します。
- 「貸倒引当金」を表記していない「貸借対照表」では、「貸倒引当金」を控除した価額が「売上債権(受取手形・売掛金)」として表記されている。
- 「貸倒引当金」を計上する際には、「損益計算書」において「貸倒引当金繰入額」として計上しているため、「貸借対照表」でも「貸倒引当金」を控除しないとつじつまが合わない。
安全性
財務諸表一覧(安全性)
安全性の財務指標を以下に示します。
財務指標(安全性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
流動比率 | 155.44% | 137.94% | ○ |
当座比率 | 91.54% | 84.12% | ○ |
固定比率 | 120.72% | 150.80% | ○ |
固定長期適合率 | 55.60% | 74.51% | ○ |
自己資本比率 | 25.58% | 29.55% | × |
負債比率 | 290.99% | 238.40% | × |
考察
- 問題点と思われる点を特徴づける財務指標を解答するため、必然的に「自己資本比率/負債比率」のどちらかを選択することとなる。
- D社と同業他社の売上規模の違いを考慮するとD社の「純資産」が少なすぎるとも考えられるが「借入金」の用途について考えてみる。
与件文において、「工場用地についてはすでに取得済み」との記載があるが、昨年度と今年度の貸借対照表を見てみると(ここだけ昨年度の貸借対照表の数値を参照する)、工場用地は今年度に取得したものではないことが分かる。
さらに、今年度は「工場用地」に限らず「固定資産」も購入していないことが分かるため、日々の運転資金が不足しているために「借入金」をしているということになる。
この状況は企業運営としては非常に危険であり、最終的には「借入金」を返済できなくなり倒産を招く可能性すら考えられる。 - 上記の考察から、「安全性」の財務指標としては「負債比率」を選択することとする。
検討結果
「負債比率」で決定
Step4.財務指標の確定
最後に、「収益性」「効率性」「安全性」のバランスを見て、問題の条件と一致しているか、指摘する内容や原因が重複していないか、論理的な矛盾がないか、などの確認を実施しながら、最終的に解答する財務指標を確定します。
-
収益性
- 「売上高売上原価比率」と「売上高営業外費用比率」と「売上高経常利益率」が選択候補として残っている。
- 「売上高売上原価比率」が高い理由は、製品の売れ筋や死に筋に関する分析ができておらず、収益性が低い製品も生産している状況にあり、製品の売れ残りなどが多く、製造コストが高くなっていることに起因しているが、「効率性」において「棚卸資産回転率」を選択するため、「収益性」の選択候補から除外する。
- 「売上高営業外費用比率」が高い理由は、「短期借入金」及び「長期借入金」が多いことに起因しているが、「安全性」において「負債比率」を選択するため、「収益性」の選択候補から除外する。
- 消去法ではあるが、「収益性」においては「売上高経常利益率」を選択する。
-
効率性
- 「棚卸資産回転率」を選択する。
- 「棚卸資産回転率」が低い原因は、製品の売れ筋や死に筋に関する分析ができておらず、収益性が低い製品も生産している状況にあり、製品の売れ残りなどが多く、製造コストが高くなっているためである。
-
安全性
- 「負債比率」を選択する。
- 「負債比率」が高い原因は、製造コストが高くなっていて、日々の運転資金が不足している状況となっているためである。
第1問 (c)欄
原因(60字以内)
製品の余剰在庫により高くなっている製造コストで不足した運転資金を借入金で賄っており支払利息の負担が大きくなっているため。(60文字)
第1問 (d)欄
改善策(60字以内)
製品の売れ筋と死に筋を分析して製品ラインを見直し、製品在庫を適正に維持することで、運転資金を増やし借入金の削減を図る。(59文字)
Step5.解答
確定した財務指標を解答します。
(a) | 売上高経常利益率 | 棚卸資産回転率 | 負債比率 |
(b) | 0.61% | 665.76% | 290.99% |
(c) | 製品の余剰在庫により高くなっている製造コストで不足した運転資金を借入金で賄っており支払利息の負担が大きくなっているため。(60文字) |
(d) | 製品の売れ筋と死に筋を分析して製品ラインを見直し、製品在庫を適正に維持することで、運転資金を増やし借入金の削減を図る。(59文字) |
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