平成27年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
目次
事例Ⅳ ~平成27年度試験問題一覧~
平成27年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
経営分析
「経営分析」では、企業の財務諸表に基づき、その企業の経営状況を定量的に分析していきます。定量的に分析して企業の経営状況を正確に把握することによって、経営者が意思決定を行うための情報を提供することを目的としています。
第1問(設問1)
与件文と財務諸表に基づき、経営分析を行う問題です。
第1問(配点28点)
(設問1)
D社および同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較したD社および同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較した場合において、D社が優れていると判断できる財務指標を1つ、課題となる財務指標を2つあげ、(a)欄に名称、(b)欄に算定した数値を、それぞれ記入せよ。なお、優れている指標については①の欄に、課題となる指標については②、③の欄に、それぞれ記入すること。また、数値については、(b)欄のカッコ内に単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること。
(設問2)
D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した場合の特徴を60字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
Step1.条件の確認
経営分析を始める前に、問題の条件を確認しておきます。
- 比較対象:D社の同業他社の財務諸表と比較
- 財務指標:優れていると判断できる財務指標を1つ、課題を示す財務指標を2つ
- 有効数字:小数点第3位を四捨五入
「優れていると判断できる財務指標」を「1つ」、「財務上の課題を示す財務指標」を「2つ」、解答するよう求められていますので、「収益性」「効率性」「安全性」の3つの観点からそれぞれ1つずつ、「合計3つ」の財務指標を選択します。
Step2.問題で与えられたデータに基づく予想
与件文と財務諸表を読み込み、対象となる企業の状況を把握して、選択する財務指標をある程度予想します。
ここではあくまで選択する財務指標を予想するだけで「Step3」で予想が正しいかを検証する必要があります。
与件文で気になる点(定性情報)
-
販売状況
- D社は技術力が高く、市場から一定の評価を受けている。
- 主要取引先のX社に売上高全体の7割程度を依存している。
- D社としては、X社以外に対する精密部品の販売拡大を図ってきたが、最近では、精密部品が主力製品の1つになりつつあり、X社以外からの受注が増加傾向にある。
-
生産状況
- ここ数年における製品ごとの需要変動や月次ベースでの生産数量の変動が大きくなっている。
-
今後の展開
- D社が有する技術力を活かして新製品の開発も行っており、すでに一部の製品開発を終了しているが、新製品は従来の製品とは異なる需要動向を示すことが分かっている。
- 主要取引先のX社は部品調達の一部を海外企業に求めることを決定しているため、来期の受注数量が減少すると予想している。
財務諸表で気になる点(定量情報)
同業他社の財務諸表と比較した場合のD社の財務諸表の特徴を以下に示します。
-
貸借対照表
- 「有形固定資産」が少ない。
- 「流動負債」が多い。特に「仕入債務」と「短期借入金」が多い。
- 「純資産」が少ない。
-
損益計算書
- D社と同業他社の総資本の比率(約89%)に比べると「売上高」が低すぎる(約77%)
- それ以外の数値については、パッと見るだけでは判断できない。
この時点での予想
ここまで見た段階で、ある程度予想してみます。
ただし、あくまで予想なので、実際に「財務指標」を算出して、自分の予想が正しいかを検証する必要があります。
-
収益性
- 技術力に一定の評価を受けており、高値で販売することができるため、売上総利益が高いことが予想される。(売上高総利益率:○)
- 逆に、主要顧客への売上依存度が高く、ボリュームディスカウントなどの値引き交渉をされている可能性もあるため、売上総利益が低いことも予想される。(売上高総利益率:×)
- 新規顧客獲得に向けた営業活動に力を入れているため、販売費が高く収益性が低いことが予想される。(売上高販管費比率:×/売上高営業利益率:×)
-
効率性
- 「総資本」に対する「売上高」の比率が低いため、資本の効率性が低いことが予想される。(総資本回転率:×)
- 主要顧客への売上依存度が高いため、売上債権の回収期間が長くなり、効率的に代金を回収できていないことが予想される。(売上債権回転率:×)
- 「ここ数年で製品ごとの需要変動や月次ベースでの生産数量の変動が大きくなっている」と記載されているため、余剰在庫があり、棚卸資産の効率性が低いことが予想される。(棚卸資産回転率:×)
- 「有形固定資産」が少ないため、設備の効率性が高いことが予想される。(有形固定資産回転率:○)
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安全性
- 「流動負債」が多いため、短期安全性が低いことが予想される。(流動比率:×/当座比率:×)
- 「有形固定資産」が少ないため、長期安全性が高いことが予想される。(固定比率:○/固定長期適合率:○)
- 「純資産」が少なく「短期借入金」が多いため、資本調達構造の安全性が低いことが予想される。(自己資本比率:×/負債比率:×)
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
収益性
財務指標一覧(収益性)
収益性の財務指標を以下に示します。
財務指標(収益性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
売上高売上原価比率 | 82.33% | 82.86% | ○ |
売上高総利益率 | 17.67% | 17.14% | ○ |
売上高販管費比率 | 14.88% | 14.64% | × |
売上高営業利益率 | 2.79% | 2.50% | ○ |
売上高営業外費用比率 | 1.12% | 0.46% | × |
売上高経常利益率 | 2.28% | 2.29% | × |
総資本経常利益率 | 4.34% | 5.04% | × |
考察
- 「売上高売上原価比率/売上高総利益率」が同業他社と比較して優れている。
与件文の中に「技術力は市場から一定の評価を受けている」との記述があるため、高い販売価格でも購入してもらう「ブランド力」があると考えることができるため、「売上高総利益率」を選択候補とする。(効率的な生産体制等に関する記載はないので「売上高売上原価比率」は選択候補とはしない。) - 「売上高販管費比率」が同業他社と比較して高くなっている。
新規顧客獲得に向けた営業活動に力を入れているためであるが「売上高営業利益率」を大きく悪化させるほど高い数値ではないため、選択候補とはしない。 - 「売上高営業外費用比率」が同業他社と比較して高くなっている。
「短期借入金」が多いため「支払利息」も多額となっているが、「売上高経常利益率」を大きく悪化させるほど高い数値ではない。最終的に「安全性」の指標選定と合わせて判断することとし、候補としては残しておく。
検討結果
「売上高総利益率」と「売上高営業外費用比率」を候補として残す。
明日も引き続き、「事例Ⅳ ~平成27年度 解答例(2)(経営分析)~」として、「第1問」の続きを説明していきます。
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