平成28年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
昨日の記事「事例Ⅳ ~平成28年度 解答例(1)(経営分析)~」の続きです。
目次
事例Ⅳ ~平成28年度試験問題一覧~
平成28年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第1問(設問1) 前回からの続き
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
効率性
財務指標一覧(効率性)
効率性の財務指標を以下に示します。
財務指標(効率性) | 前期 | 当期 | 比較 |
総資本回転率 | 1.39回 | 1.04回 | × |
売上債権回転率 | 63.92回 | 67.14回 | ○ |
棚卸資産回転率 | 118.71回 | 94.00回 | × |
固定資産回転率 | 2.24回 | 1.47回 | × |
有形固定資産回転率 | 2.90回 | 1.77回 | × |
考察
- 今回は課題を示す財務指標を解答するため「売上債権回転率」は除外する。
- 「総資本回転率」の数値が悪化しているが、その一番の原因は「新社屋の用地を取得したが収益に貢献していない」である。選ぶとしたら「総資本回転率」ではなく原因をより明確に指摘できる「有形固定資産回転率」とするべきである。
- 「棚卸資産回転率」の数値が悪化しているが、与件文に関する明確な記述がない。
「棚卸資産回転率」を選ぶための理由が見当たらないため、選択候補から除外する。 - 「固定資産回転率」の数値が悪化しているが、その一番の原因は「新社屋の用地を取得したが収益に貢献していない」である。選ぶとしたら「固定資産回転率」ではなく原因をより明確に指摘できる「有形固定資産回転率」とするべきである。
- 「有形固定資産回転率」の数値が悪化している。その一番の原因は「新社屋の用地を取得したが収益に貢献していない」であり、効率性の指標として「有形固定資産回転率」を選択する。
検討結果
「有形固定資産回転率」で決定
安全性
財務指標一覧(安全性)
安全性の財務指標を以下に示します。
財務指標(安全性) | 前期 | 当期 | 比較 |
流動比率 | 163.04% | 55.70% | × |
当座比率 | 128.26% | 44.95% | × |
固定比率 | 107.23% | 173.71% | × |
固定長期適合率 | 81.00% | 147.36% | × |
自己資本比率 | 58.05% | 41.00% | × |
負債比率 | 72.25% | 143.90% | × |
考察
- 「流動比率」と「当座比率」の数値が著しく悪化しているが、これは新社屋の用地を取得するために短期借入金で資金調達を行っていることが原因である。
ここで「流動比率」と「当座比率」のどちらを選択候補として残すべきかを考える。
「当座資産」は「現金及び預金」と「売上債権」の合計金額であるが、「流動資産」は当座資産以外に「たな卸資産」や「その他の流動資産」までがその範囲に含まれる。
「当座資産」よりも範囲が広い「流動資産」で考えたとしても、短期安全性(資金繰り)が非常に厳しい状況であることを指摘するため、「流動比率」を選択候補として残す。 - 「固定比率」と「固定長期適合率」の数値が悪化しているが、これは新社屋の用地を取得したことが原因である。新社屋の用地取得により財務諸表が悪化したことについては「効率性」の財務指標で選択したいため「安全性」では選択しないこととする。
- 「自己資本比率」と「負債比率」の数値が悪化しているが、これは新社屋の用地を取得するために借入金で資金調達を行っていることが原因である。
借入金の金額が大きすぎるため、「自己資本比率」ではなく「負債比率」を選択候補として「借入金が多い」ことを指摘したい。
検討結果
「流動比率」と「負債比率」を候補として残す。
Step4.財務指標の確定
最後に、「収益性」「効率性」「安全性」のバランスを見て、問題の条件と一致しているか、指摘する内容や原因が重複していないか、論理的な矛盾がないか、などの確認を実施しながら、最終的に解答する財務指標を確定します。
-
収益性
- 「売上高総利益率」と「売上高当期純利益率」のどちらを選択するかを考えてみる。
- どちらの指標を選択したとしても「創作料理店の業績不振が続いており、当期は通年で全社業績に影響が出ている」ことと関連付けることができる。
- ここでは、「特別損失」の計上内容が分からないため、「売上高総利益率」を選択する。
-
効率性
- 課題を示す指標として「有形固定資産回転率」を選択する。
-
安全性
- 「流動比率」と「負債比率」のどちらを選択するかを考えてみる。
- 「負債比率」を選択する場合「借入金」が多いことを指摘することとなるが、「流動比率」を選択する場合は「短期借入金」が多いことを指摘することとなる。
- 新社屋を建設するなど事業拡大を行っていくときには、一時的な「安全性」の低下は避けることができませんが、新社屋建設のような大規模の投資を行う場合には、投資から資金回収までの計画を「短期」ではなく「中長期」で策定して管理していく必要がある。
- 当然ながら、投資した資金も「中長期」に渡って回収していくこととなるため、借入金の返済も「短期」ではなく「中長期」で返済していくべきである。
- つまり、「短期借入金」ではなく「長期借入金」として借入を行うべきであり、指摘すべき事項は「短期借入金」が多いことであるため「流動比率」を選択する。
Step5.解答
確定した財務指標を解答します。
(a) | (b) | |
① | 売上高総利益率 | 48.62(%) |
② | 有形固定資産回転率 | 1.77(回) |
③ | 流動比率 | 55.70(%) |
「第2問」まで進むと、「特別損失」が創作料理店の業績不振が続いているために計上した「減損損失」であることが分かります。「第1問 設問2」に影響を与えるかどうかを見極めた上で、解答を以下のように書き換えてもよいかと。
(a) | (b) | |
① | 売上高当期純利益率 | 2.87(%) |
② | 有形固定資産回転率 | 1.77(回) |
③ | 流動比率 | 55.70(%) |
第1問(設問2)
「設問2」では、D社の財政状態及び経営成績を前期と比較した場合の生じた課題の原因について考えていきます。
考え方
「設問2」では「収益性」「効率性」「安全性」の3つの観点を入れるのが鉄則です。
「収益性」「効率性」「安全性」に分けて、課題が生じている原因を記載しています。
- 業績不振が続く創作料理店の影響を受けて、売上高当期純利益率が低下しており「収益性」が低い。
- 新社屋の用地を取得したが、新社屋の完成は用地の取得から1年後を予定(第2問の問題文に記載)しており、当期の収益には貢献していないため「有形固定資産回転率」が低下しており「効率性」が低い。
- 新社屋の用地を取得するために短期借入金で資金調達を行っており、「流動比率」が高く「安全性」が低い。
解答
これを「70文字」以内にまとめます。
- 業績不振が続く創作料理店の影響を受け収益性が低い。短期借入金で資金調達を行い新社屋の用地を取得したが収益に貢献しておらず効率性と安全性が低い。(70文字)
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