今回は、「財務・会計 ~H22-13 リース取引(4)ファイナンス・リース取引~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
リース取引 -リンク-
「リース取引」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
- H28-4 リース取引(1)ファイナンス・リース取引
- H26-6 リース取引(2)リース取引
- H25-13 リース取引(3)ファイナンス・リース取引
- H30-6 リース取引(5)ファイナンス・リース取引
- R2-7 リース取引(6)リース取引
リース取引とは
リース取引の会計処理は「リース取引に関する会計基準」によって定められており、「リース取引に関する会計基準の適用指針」によって、企業が実務に適用する際の具体的な手順等が定められています。
「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(リース期間)にわたりこれを使用する権利を与え、借手は合意された使用料(リース料)を貸手に支払う取引のことをいいます。
リース取引の種類
「リース取引」は、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に分類されます。
ファイナンス・リース取引
「ファイナンス・リース取引」の判断基準には、以下の2種類が規定されています。
基準1:以下の2つの条件に該当する場合(両方を満たす)
- 解約不能のリース取引またはこれに準ずるリース取引(※1)
- フルペイアウトのリース取引(※2)
(※1)「これに準ずるリース取引」とは、法的形式上は解約可能でも、解約時に相当の違約金を支払う必要があるなど、事実上解約できないリース取引。
(※2)「フルペイアウトのリース取引」とは、借手が、当該契約に基づき使用する物件(リース物件)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することになるリース取引。
基準2:以下の2つの条件のいずれかに該当する場合
- 現在価値基準
リース料総額の現在価値が、当該リース物件の購入価額の概ね90%以上 - 経済的耐用年数基準
リース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上
ファイナンス・リース取引の種類
さらに、「ファイナンス・リース取引」は、「所有権移転ファイナンス・リース取引(リース物件の所有権が借手に移転すると認められる取引)」と、「所有権移転外ファイナンス・リース取引(それ以外の取引)」に分類されます。
所有権移転ファイナンス・リース取引
以下の3つの条件のいずれかに該当する場合は、「所有権移転ファイナンス・リース取引」に分類されます。
- リース期間終了後または途中で、リース物件の所有権が借手に移転するリース取引
- 借手に対して、名目的価額もしくは著しく有利な価額で買い取る権利(割安購入選択権)が与えられており、権利の行使が確実に予想されるリース取引
- 借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作または建設されたものであって、貸手が第三者に再びリースまたは売却することが困難で借手によってのみ使用されることが明らかなリース取引
所有権移転外ファイナンス・リース取引
上記以外の「ファイナンス・リース取引」は「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類されます。
オペレーティング・リース取引
「ファイナンス・リース取引」以外のリース取引は、「オペレーティング・リース取引」に分類されます。
リース取引の会計処理
「リース取引」は、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に分類されますが、「ファイナンス・リース取引」は、通常の「売買取引」に係る方法に準じて、「オペレーティング・リース取引」は、通常の「賃貸借取引」に係る方法に準じて会計処理を行います。
リース取引の分類 | 会計処理 | |
ファイナンス・リース取引 | 売買取引 | |
オペレーティング・リース取引 | 賃貸借取引 |
ファイナンス・リース取引の会計処理
「ファイナンス・リース取引」では、通常の「売買取引」に係る方法に準じて会計処理を行います。
借手における会計処理
借手における「ファイナンス・リース取引」の会計処理について説明します。
リース契約を開始した時の仕訳
借手は、貸借対照表に「リース資産」と「リース債務」を計上します。
借方 | 貸方 | ||
リース資産 | 600,000 | リース債務 長期リース債務 |
112,440 487,560 |
「リース資産」と「リース債務」の計上額は、原則として、リース契約締結時に合意されたリース料総額からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除して算定します。
具体的には、以下の方法により「リース資産」や「リース債務」を算定します。
借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかな場合 | 借手において当該リース物件の貸手の購入価額等が明らかでない場合 | |
所有権移転ファイナンス・リース取引 | 貸手の購入価額等 | 以下のいずれかの低い金額 ・見積現金購入価額 ・リース料総額の割引現在価値 |
所有権移転外ファイナンス・リース取引 | 以下のいずれかの低い金額 ・貸手の購入価額等 ・リース料総額の割引現在価値 |
貸手にリース料金を支払った時の仕訳
借手が「リース料金」を支払うと貸借対照表の「リース債務」が減少します。
借手が支払うリース物件の使用料に相当する「リース料金」には「リース債務」の返済額に「支払利息」が加算されています。
原則として、「支払利息」は「利息法」により算定されますが、「所有権移転外ファイナンス・リース取引」であり「リース資産」の総額に重要性が乏しい場合は、「定額法」により算定することも認められています。
「利息法」により算定された「支払利息」を含む「リース料金」を支払う場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
リース債務 支払利息 |
9,370 1,630 |
現金 | 11,000 |
決算日における仕訳
決算日においては「リース資産」の減価償却を行います。
「所有権移転ファイナンス・リース取引」の場合は、自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により「減価償却費」を算定します。
また、「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の場合は、原則として、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして「減価償却費」を算定します。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 120,000 | 減価償却累計額 | 120,000 |
ファイナンス・リース取引(借手側)の仕訳で記載している金額について
上述の説明において、仕訳に記載している金額は、以下の条件(例)を基に算出しています。
- リースの種類:所有権移転外ファイナンス・リース取引
- リース開始時期:XX年度期首
- リース期間:5年
- リース料金(月額):\11,000-
- リース物件の貸手の購入価額:\600,000-
- 貸手の計算利子率:3.26%
- 減価償却方法:定額法
リース債務
リース債務 (期首) |
年額 | リース債務 (期末) |
|||
リース料金 | 支払利息 | 元本返済分 | |||
1年目 | ¥600,000 | ¥132,000 | ¥19,560 | ¥112,440 | ¥487,560 |
2年目 | ¥487,560 | ¥132,000 | ¥15,894 | ¥116,106 | ¥371,454 |
3年目 | ¥371,454 | ¥132,000 | ¥12,109 | ¥119,891 | ¥251,563 |
4年目 | ¥251,563 | ¥132,000 | ¥8,201 | ¥123,799 | ¥127,764 |
5年目 | ¥127,764 | ¥132,000 | ¥4,236 | ¥127,764 | ¥0 |
(※)支払利息は「リース債務(期首)× 貸手の計算利子率」で算出しています。
(※)元本返済分は、「リース料金 - 支払利息」で算出しています。
(※)5年目の支払利息は、「リース債務(期末)」の残額が「\0」となるよう端数処理しています。
リース資産
リース資産 (期首) |
減価償却費 | 減価償却累計額 | リース資産 (期末) |
|
1年目 | ¥600,000 | ¥120,000 | ¥120,000 | ¥480,000 |
2年目 | ¥480,000 | ¥120,000 | ¥240,000 | ¥360,000 |
3年目 | ¥360,000 | ¥120,000 | ¥360,000 | ¥240,000 |
4年目 | ¥240,000 | ¥120,000 | ¥480,000 | ¥120,000 |
5年目 | ¥120,000 | ¥120,000 | ¥600,000 | ¥0 |
貸手における会計処理
貸手における「ファイナンス・リース取引」の会計処理については複雑なため、また別の機会に説明させていただきます。
オペレーティング・リース取引の会計処理
「オペレーティング・リース取引」では、通常の「賃貸借取引」に係る方法に準じて会計処理を行います。
借手における会計処理
借手における「オペレーティング・リース取引」の会計処理について説明します。
リース契約を開始した時の仕訳
仕訳なし
貸手にリース料金を支払った時の仕訳
借手が「リース料金」を支払った場合「支払リース料」として費用を計上します。
借方 | 貸方 | ||
支払リース料 | 11,000 | 現金 | 11,000 |
決算日における仕訳
仕訳なし
貸手における会計処理
貸手における「オペレーティング・リース取引」の会計処理について説明します。
リース契約を開始した時の仕訳
貸手が購入して貸手に提供するリース物件を固定資産として登録します。
借方 | 貸方 | ||
固定資産 | 600,000 | 現金 | 600,000 |
借手からリース料金を受け取った時の仕訳
借手からリース物件の使用料に相当する「リース料金」を受け取った場合「受取リース料」として収益を計上します。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 11,000 | 受取リース料(収益) | 11,000 |
決算日における仕訳
決算日においては「固定資産」の減価償却を行います。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 120,000 | 減価償却累計額 | 120,000 |
リース取引の表示と注記
ファイナンス・リース取引の表示と注記
借手における表示と注記
- 「リース資産」は、原則として、有形固定資産、無形固定資産とは別に、一括して「リース資産」として区分表示します。
ただし、有形固定資産または無形固定資産に属する各科目に含めて表示することもできます。 - 「リース債務」は、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものは流動負債に表示し、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものは固定負債に表示(1年基準)します。
- 「リース資産」は、その内容(主な資産の種類等)及び減価償却の方法を注記します。
ただし、重要性が乏しい場合には、注記する必要はありません。
貸手における表示と注記
- 「所有権移転ファイナンス・リース取引」の「リース債権」及び「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の「リース投資資産」については、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には流動資産に表示(正常営業循環基準)します。
また、当該企業の営業の主目的以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示(1年基準)します。 - 「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の「リース投資資産」について、将来のリース料を収受する権利(以下「リース料債権」という。)部分及び見積残存価額(リース期間終了時に見積られる残存価額で借手による保証のない額)部分の金額(各々、利息相当額控除前)並びに受取利息相当額を注記します。
ただし、重要性が乏しい場合には、注記する必要はありません。 - 「所有権移転ファイナンス・リース取引」の「リース債権」及び「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の「リース投資資産」に係るリース料債権部分について、貸借対照表日後5年以内における1年ごとの回収予定額及び5年超の回収予定額を注記します。
ただし、重要性が乏しい場合には、注記する必要はありません。
オペレーティング・リース取引の表示と注記
借手と貸手における表示と注記
- 「オペレーティング・リース取引」のうち解約不能のものに係る未経過リース料は、貸借対照表日後1年以内のリース期間に係るものと、貸借対照表日後1年を超えるリース期間に係るものとに区分して注記します。
ただし、重要性が乏しい場合には、注記する必要はありません。
リース取引によるメリットとデメリット
リース取引を活用することにおけるメリットとデメリットを以下に示します。
リース取引を活用する最大のメリットは、初期投資が少なく抑えられるという点であるため、当面の資金繰りに余裕がなく、設備投資をすると運転資金が足りなくなるような場合にはリース取引を選択します。
メリット
- 設備等の調達において多額のキャッシュアウトが発生しない。
- 資産化することなく費用として処理することができる。(オペレーティング・リース取引の場合)
デメリット
- リース会社に支払利息に相当する費用を支払うため、支払うキャッシュアウトの総額が高くなる。
- 中途解約ができない。(ファイナンス・リース取引の場合)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成22年度 第13問】
ファイナンス・リースの特徴に関する説明として、最も不適切なものはどれか。
ア 借手が支払うリース料は目的物の経済価値全体ではなく、リース期間終了後の目的物の残存価値や不特定多数の事業者に複数回賃貸することなどを考慮して算定される。
イ 借手からみた場合、経済的には目的物の購入資金を融資されるのとほぼ同じ機能をもつ。
ウ 借手がリース契約を解約する場合には、通常、未経過リース料に相当する違約金を支払う。
エ 目的物を使用する借手が当該目的物の導入に際し、一度に多額の資金を必要としないメリットがある。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「ファイナンス・リース取引」の特徴に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「ファイナンス・リース取引」とは、「フルペイアウトのリース取引」です。
「フルペイアウトのリース取引」とは、借手が、当該契約に基づき使用する物件(リース物件)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担するリース取引を示しています。
そのため、「ファイナンス・リース取引」については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。
つまり、「借手が支払うリース料は目的物の経済価値全体であり、リース期間が終了した時点で目的物の残存価値はなく、別の事業者への再提供は考慮されていない。」ため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
借手からリース取引を見た場合、リース会社からリース物件を借り入れて使用する対価として、リース期間にわたってリース会社に「当該リース物件購入金額の返済分」と「支払利息」に相当する金額を合計した「リース料金」を支払います。
一方で、金融機関から融資を受ける場合は、金融機関から受けた借入金で物件を購入して、借入金の返済期間にわたって金融機関に「借入金」と「支払利息」を合計した「借入金返済額」を支払います。
つまり、リース取引は「借手からみた場合、経済的には目的物の購入資金を融資されるのとほぼ同じ機能をもつ。」ため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 適切です。
「ファイナンス・リース取引」とは、「解約不能またはこれに準ずるリース取引」です。
「これに準ずるリース取引」とは、法的形式上は解約可能でも、解約時に相当の違約金を支払う必要があるなど、事実上解約できないリース取引を示しています。
「借手がリース契約を解約する場合には、通常、未経過リース料に相当する違約金を支払う。」との記述は、ファイナンスリース取引の判断基準と一致しているため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 適切です。
「目的物を使用する借手が当該目的物の導入に際し、一度に多額の資金を必要としない」との記述は、「ファイナンス・リース取引」だけでなく「オペレーティング・リース取引」も含めたリース取引を利用するメリットと一致しているため、選択肢の内容は適切です。
リース取引によるメリット
リース取引を活用する最大のメリットは、初期投資が少なく抑えられるという点であるため、当面の資金繰りに余裕がなく、設備投資をすると運転資金が足りなくなるような場合にはリース取引を選択します。
メリット
- 設備等の調達において多額のキャッシュアウトが発生しない。
- 資産化することなく費用として処理することができる。(オペレーティング・リース取引の場合)
答えは(ア)です。
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