今回は、「財務・会計 ~H24-20-1 企業価値(3)企業価値の評価方法~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成24年度一次試験問題一覧~
平成24年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業価値 -リンク-
本ブログにて「企業価値」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-22 企業価値(6)企業価値の評価方法
- H26-20-1 企業価値(1)企業価値の評価方法
- H26-20-3 企業価値(2)DCF法
- H23-20-1 企業価値(4)企業価値の評価方法
- H22-14-1 企業価値(5)株主資本収益率
株式指標 -リンク-
「株式指標」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
企業価値の評価方法
企業価値を評価する方法は「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3つのアプローチ方法に分類されます。
それぞれのアプローチ方法にメリットとデメリットがあるため、実務上では目的に応じて複数のアプローチ方法を組み合わせて企業価値を算出します。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、将来の収益やキャッシュフローを現在価値に換算して企業価値を評価するアプローチ方法です。
将来の収益力を根拠として企業価値を算定することができるというメリットがありますが、算定する人の主観が入りやすいことや算定に手間がかかるというデメリットがあります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、株式指標などで他社との比較を行い、市場で取引される価値を評価するアプローチ方法です。
企業が公開しているデータを根拠として企業価値を算定することができるというメリットがありますが、企業が適用している会計基準の違いに影響を受けることと将来の収益力を評価することができないというデメリットがあります。
コストアプローチ
コストアプローチは、ネットアセット・アプローチ、ストック・アプローチとも呼ばれ、貸借対照表の資産(取得時または時価)から企業価値を評価するアプローチ方法です。
ある時点における資産を根拠として企業価値を算定することができるというメリットがありますが、適切な時価の算出が難しいことと将来の収益力を評価することができないというデメリットがあります。
株式指標
PER(株価収益率/Price Earning Ratio)
「PER(株価収益率)」とは、企業の収益性と株価を比較して、投資家が株価の妥当性を判断するために用いられる指標です。
「PER(株価収益率)」では、「株価」が「1株当たり当期純利益」の何倍で取引されているかを確認することができ、業界平均と比較してその数値が高ければ当該企業の株価が割高であり、低ければ当該企業の株価が割安であると判断されます。
「PER(株価収益率)」は、発行済み株式全体で捉えて、以下の計算式で算出することもできます。
EPS(1株当たり当期純利益/Earning Per Share)
「EPS(1株当たり当期純利益)」とは、会社の収益性を見る指標であり、数値が高いほどその企業の収益力が高いことを示します。
「EPS(1株当たり当期純利益)」が上昇すると「PER(株価収益率)」は低くなるため、株価が割安であると判断されます。
PBR(株価純資産倍率/Price Book Value Ratio)
「PBR(株価純資産倍率)」とは、企業の資産規模と株価を比較して、投資家が株価の妥当性を判断するために用いられる指標です。
「PBR(株価純資産倍率)」が1倍の場合、当該企業の株価が解散価値と等しいことを示しています。さらに、「PBR」が1倍より小さい場合は、資産価値が株価よりも安いことを示しているため、「PBR」が低い数値で推移している企業は買収の対象とされやすくなります。
「PBR(株価純資産倍率)」は、発行済み株式全体で捉えて、以下の計算式で算出することもできます。
BPS(1株当たり純資産/Book Value Per Share)
「BPS(1株当たり純資産)」とは、会社の安定性を見る指標であり、数値が高いほどその企業の安定性が高いことを示しています。
「BPS(1株当たり純資産)」が上昇すると「PBR(株価純資産倍率)」は低くなるため、株価が割安であると判断されます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
「設問2」については「財務・会計 ~H24-20-2 財務指標の計算(9)~」で説明しています。
【平成24年度 第20問】
次の文章を読んで下記の設問に答えよ。
企業価値の評価手法には、伝統的な企業業績評価手法であるデュポン・システムを応用したものがある。これによれば株価は、1株当たり当期純利益と[ A ]との積に分解され、さらに1株当たり当期純利益は1株当たり純資産とROEとの積に分解される。こうした会計数値に基づく手法のほか、今日では企業価値評価手法として、キャッシュフローに基づく手法やEVAなどを利用した[ B ]といった手法も利用されている。
(設問1)
文中の空欄AおよびBに入る用語の組み合わせとして最も適切なものはどれか。
ア A:BPS B:資本資産評価モデル
イ A:PBR B:割引超過利益モデル
ウ A:PER B:市場株価比較方式
エ A:PER B:割引超過利益モデル
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
空欄[A]について
空欄[ A ]には「PER(株価収益率)」が入ります。
PER(株価収益率/Price Earning Ratio)
「PER(株価収益率)」とは、企業の収益性と株価を比較して、投資家が株価の妥当性を判断するために用いられる指標です。
「PER(株価収益率)」では、「株価」が「1株当たり当期純利益」の何倍で取引されているかを確認することができ、業界平均と比較してその数値が高ければ当該企業の株価が割高であり、低ければ当該企業の株価が割安であると判断されます。
空欄[B]について
空欄[B]では、上述した「企業価値の評価方法」と「問題文中での表記」が以下のようにマッピングされるため、「割引超過利益モデル」が入ります。
アプローチ方法 | 選択肢での表記 | 問題文中の表記 |
インカムアプローチ | 割引超過利益モデル | キャッシュフローに基づく手法やEVAなどを利用した手法 |
マーケットアプローチ | 市場株価比較方式 | 伝統的な企業業績評価手法であるデュポン・システムを応用した手法 株価は、1株当たり当期純利益とPER(株価収益率)との積に分解される。 1株当たり当期純利益は1株当たり純資産とROEとの積に分解される |
コストアプローチ | 資本資産評価モデル | 記載なし |
ここで、問題文中に登場する「EVA」について補足説明しておきます。
EVA(経済付加価値/Economic Value Added)
EVAとは「経済付加価値」と呼ばれ、企業として債権者や投資家が期待する以上の利益(付加価値)をどれくらい創出することができたかを表す指標であり、以下の公式により求めることができます。
EVA = NOPAT - 資本コスト = NOPAT - 期首の投下資本 × WACC
(※)「NOPAT」とは「税引後営業利益」のことを示します。
ここで一つ、EVAでは「資本コスト」を差し引いていることがポイントです。
明日説明する(設問2)の中で、以下の選択肢が登場してきます。
(イ) ROE によって測定される値には、株主の資本コストが反映されていない。
確かに、ROEでは「当期純利益」を使用するため、支払利息等の負債に関するコストは差し引かれていますが、株主資本コストは差し引かれていません。
一方で、EVAでは負債コストだけでなく株主資本コストまで含めて差し引かれています。
今回の問題に答えるために必要な情報ではありませんが、問題の作成者はそこまで意識して読み取ってほしいと考えていたと推測されます。
解答
問題文に選択肢を当てはめていくと以下の文章となります。
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企業価値の評価手法には、伝統的な企業業績評価手法であるデュポン・システムを応用したものがある。これによれば株価は、1株当たり当期純利益とPERとの積に分解され、さらに1株当たり当期純利益は1株当たり純資産とROEとの積に分解される。こうした会計数値に基づく手法のほか、今日では企業価値評価手法として、キャッシュフローに基づく手法やEVAなどを利用した割引超過利益モデルといった手法も利用されている。
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答えは(エ)です。
「設問2」については「財務・会計 ~H24-20-2 財務指標の計算(9)~」で説明します。
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