今回は、「経済学・経済政策 ~H30-12 需要・供給・弾力性の概念(2)需要の価格弾力性~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
需要の価格弾力性 -リンク-
本ブログにて「需要の価格弾力性」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 需要の価格弾力性のまとめ
- R4-14 需要・供給・弾力性の概念(1)需要の価格弾力性
- H29-13 需要・供給・弾力性の概念(3)需要の価格弾力性
- H25-15 需要・供給・弾力性の概念(4)需要の価格弾力性
需要の価格弾力性(ε:イプシロン)
「需要の価格弾力性」とは、財の価格が1%増減したときに需要が何%変化するかを表しており「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として求められます。
ここで重要なのは「需要の価格弾力性」が「価格の変化量」に対する「需要の変化量」ではなく「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として表されるということです。
「商品の価格を20円値下げしたら以前よりも200個多く売れた」と言われても、値下げ前の価格や販売数が分からないと値下げによる効果を判断できませんが、値下げ前の価格や販売数に対する変化率を用いている「需要の価格弾力性」を見れば、その効果を定量的に確認することができます。
需要の価格弾力性の代表的な特徴
「需要の価格弾力性」の代表的な特徴を以下に2つ示します。
- 右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなります。
- 2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなります。
1つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
これは、「需要の価格弾力性」が変化量ではなく変化率により求められるためですが、比例的に減少していく需要曲線(直線)を見たとき、左上に位置する点の方が「需要の価格弾力性」が高くなるというのは、感覚的に非常に分かりにくいので、以下の例で確認していきます。
「右下がりの需要曲線」において、価格が80円で需要量が200個である「点a」と、価格が40円で需要量が600個である「点b」があるとします。
右下がりの需要曲線の「点a」と「点b」
財の価格を20円値下げすると「点a」と「点b」はそれぞれ同一の需要曲線上の「点A」と「点B」にシフトして需要が200個増加します。
「点a」と「点b」の「需要の価格弾力性」は「εa=4 > εb=0.67」となるため「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」の方が右下に位置する「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高くなることが分かります。
需要曲線上の「点a」と「点b」における需要の価格弾力性
「点a」の方が「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高いと言われても、グラフで見るとやはり感覚的に理解できないので、表にして言葉で表してみます。
「点a」の需要の価格弾力性
価格を「25%」値下げすると需要が「100%」増えるため「需要の価格弾力性」は「4」である。
値下げ前 | 値下げ後 | 変化量 | 変化率 | 需要の価格弾力性 | |
需要(分子) | 200個 | 400個 | 200個 | 100% | 4 |
価格(分母) | 80円 | 60円 | ▲20円 | ▲25% |
「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」では、分母である価格の変化率は小さく、分子である需要の変化率が大きくなるため「需要の価格弾力性」が高くなります。
「点b」の需要の価格弾力性
価格を「50%」値下げすると需要が「33.3%」増えるため「需要の価格弾力性」は「0.67」である。
値下げ前 | 値下げ後 | 変化量 | 変化率 | 需要の価格弾力性 | |
需要(分子) | 600個 | 800個 | 200個 | 33.3% | 0.67 |
価格(分母) | 40円 | 20円 | ▲20円 | ▲50% |
「右下がりの需要曲線」において右下に位置する「点b」では、分母である価格の変化率が大きく、分子である需要の変化率が小さくなるため「需要の価格弾力性」が低くなります。
こうやって表にして言葉で表した方が、「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」の方が右下に位置する「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高くなることを理解しやすいかと思います。
2つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
「2つの右下がりの需要曲線の交点において」という条件は省略して表現されることが多いのですが、この条件が無ければ「傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴が成立しないケースについて説明します。
「需要曲線のグラフから価格の需要弾力性の絶対値を求める方法」の補足で説明した通り「需要の価格弾力性」は「右下がりの需要曲線」の中点で必ず「1」となるため、「右下がりの需要曲線」には必ず「需要の価格弾力性」が「1」よりも高くなる部分(中点より左上)と「1」よりも低くなる部分(中点より右下)が存在します。
同一需要曲線上における需要の価格弾力性の変化
つまり、以下のような例では、傾きが急な需要曲線にある「点A」の方が、傾きが緩やかな需要曲線にある「点B」よりも「需要の価格弾力性」が高くなるため、傾きが緩やかな需要曲線であればどこでも、傾きが急な需要曲線より「需要の価格弾力性」が高くなるという訳ではありません。
傾きが異なる需要曲線のある点における需要の価格弾力性
したがって、「傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴には、「2つの需要曲線の交点において」という条件が必要だということになります。
傾きが異なる需要曲線の交点における需要の価格弾力性
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第12問】
下図でDAとDBは、それぞれ商品Aと商品Bの需要曲線である。このとき、商品Aと商品Bの需要の価格弾力性に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 価格がP0から下がると、商品Aの需要の価格弾力性は大きくなる。
b 価格がP0から上がると、商品Bの需要の価格弾力性は大きくなる。
c 点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも大きい。
d 点Eでは、商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも小さい。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「需要の価格弾力性」に関する知識を問う問題です。
「需要の価格弾力性」とは、財の価格が1%増減したときに需要が何%変化するかを表しており「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として求められます。
「需要の価格弾力性」の代表的な特徴を以下に2つ示します。
- 右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなります。
- 2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなります。
1つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
需要曲線上の「点a」と「点b」における需要の価格弾力性
商品Aと商品Bの両方ともに右下がりの需要曲線であり、価格がP0から上がると需要曲線の左上にシフトするため「需要の価格弾力性」が高くなります。
したがって、価格がP0から上がると商品Bの需要の価格弾力性は大きくなると記述されている「選択肢(b)」が適切であり「選択肢(a)」は不適切です。
2つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
傾きが異なる需要曲線の交点における需要の価格弾力性
商品Aと商品Bの需要曲線の交点Eにおいては、傾きが緩やかな商品Bの需要曲線の方が、傾きが急な商品Aの需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなります。
したがって、点Eでは商品Aの需要の価格弾力性は商品Bの需要の価格弾力性よりも小さいと記述されている「選択肢(d)」が適切であり「選択肢(c)」は不適切です。
(b)と(d)に記述されている内容が適切であるため、答えは(エ)です。
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