今回は、「経済学・経済政策 ~R2-3 国民経済計算(1)国民所得概念と国民経済計算~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和2年度一次試験問題一覧~
令和2年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
国民所得概念・国民経済計算 -リンク-
本ブログにて「国民所得概念」「国民経済計算」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 国民所得概念・国民経済計算のまとめ
- R5-4 国民経済計算(13)GDPの帰属計算
- R4-3 国民経済計算(12)国民経済計算
- R3-1 国民経済計算(10)実質GDPの推移
- R3-3 国民経済計算(11)GDPに含まれるもの
- R1-3 国民経済計算(2)総需要の構成要素
- H30-5 国民経済計算(3)GDPの構成要素
- H29-3 国民経済計算(4)GDPの帰属計算
- H29-4-1 国民経済計算(5)総需要の構成割合
- H28-1 国民経済計算(6)実質GDPとGDPデフレーターの推移
- H28-4 国民経済計算(7)国民経済計算の指標
- H27-3 国民経済計算(8)国民経済計算の概念
- H26-1 国民経済計算(9)雇用者報酬の割合の推移
物価指数・消費者物価指数・企業物価指数・GDPデフレーター -リンク-
本ブログにて「物価指数(ラスパイレス指数・パーシェ指数)」「消費者物価指数」「企業物価指数」「GDPデフレーター」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 物価指数・消費者物価指数・企業物価指数・GDPデフレーターのまとめ
- R3-1 国民経済計算(10)実質GDPの推移
- H30-4 主要経済指標(4)物価指数
- H28-1 国民経済計算(6)実質GDPとGDPデフレーターの推移
- H28-5 主要経済指標(6)消費者物価指数
- H27-5 主要経済指標(7)物価指数(ラスパイレス指数・パーシェ指数)
- H27-9 主要経済指標(8)企業物価指数
- H24-2 主要経済指標(11)物価指数
国民経済計算
「国民経済計算」は、日本経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的として、国連の定める国際基準(SNA)に準拠しつつ、統計法に基づく基幹統計として「国民経済計算の作成基準及び作成方法」に基づき作成されています。
内閣府から公表される「国民経済計算」には「四半期別GDP速報」と「国民経済計算年次推計」があります。
「四半期別GDP速報」は、速報性を重視してGDPをはじめとする支出側系列等を四半期単位で年に8回公表されており、「国民経済計算年次推計」は、生産・分配・支出・資本蓄積といったフロー面や、資産・負債といったストック面も含めて、年に1回公表されています。
国民経済計算の指標
「国民経済計算」には、馴染みの深い「GDP(国内総生産)」を初めとして、他にも様々な指標があります。
国民経済計算の指標の命名規則
「国民経済計算」には様々な指標があるため混乱しがちですが、指標の命名規則がある程度決まっているので、以下に説明します。ただし、全ての指標に当てはまるわけではありませんのでご注意ください。
説明する命名規則に基づく指標一覧を以下に示します。(全ての指標が存在するかは未確認)
なお、頻繁に登場する指標には赤色マーカーを付けています。
命名規則に基づく指標一覧
生産 | 所得 | 支出 | ||
総額 | 国内 | GDP(国内総生産) | GDI(国内総所得) | GDE(国内総支出) |
国民 | GNP(国民総生産) | GNI(国民総所得) | GNE(国民総支出) | |
純額 | 国内 | NDP(国内純資産) | NDI(国内純所得) | NDE(国内純支出) |
国民 | NNP(国民純資産) | NNI(国民純所得) | NNE(国民純支出) |
頻繁に登場する指標の構成要素を以下に示します。
主な指標の構成要素
指標の1文字目
指標の1文字目に使われる「G」と「N」は「Gross:総額」と「Net:純額」を表しています。
- G(Gross:総額)
- N(Net:純額)
指標の2文字目
指標の2文字目に使われる「D」と「N」は「Domestic:国内」と「National:国民」を表しています。
- D(Domestic:国内)
- N(National:国民)
指標の3文字目
指標の3文字目に使われる「P」と「I」と「E」は「Product:生産」と「Income:所得」と「Expenditure:支出」を表しています。
- P(Product:生産)
- I(Income:所得)
- E(Expenditure:支出)
国内(Domestic)概念と国民(National)概念
「国民経済計算」の指標の2文字目に使われる「Domestic:国内」と「National:国民」の概念について説明します。
国内(Domestic)概念
「国民経済計算」における”国内”という概念は、日本国内の領土に居住する経済主体を対象とする概念を表しており、主として生産活動に関連した概念です。
個人の場合、国籍によらず、日本国内の領土で発生した場合は”国内”の概念に含まれます。
法人等の場合、日本国内の領土で生産活動を行っている外国企業の在日子会社などは”国内”の概念に含まれますが、海外で生産活動を行っている日本企業の海外支店などは”国内”の概念に含まれません。
国民(National)概念
「国民経済計算」における”国民”という概念は、日本の居住者主体を対象とする概念を表しています。
個人の場合、”国民”の概念に含まれるか否かはその個人の国籍ではなく、日本国内に住所または居所を有するか否かにより判定されるため、日本に6ヶ月以上居住している外国人は”国民”の概念に含まれますが、国外に2年以上居住する日本人は”国民”の概念には含まれません。
法人等の場合、海外で生産活動を行っている日本企業の海外支店などは”国民”の概念に含まれますが、日本国内の領土で生産活動を行っている外国企業の在日子会社などは”国民”の概念に含まれません。
GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)
「GDP(国内総生産)」は、”国内”で一定期間内に新たに生み出された財・サービスの「付加価値」の総額のことをいいます。
「GDP(国内総生産)」は、新たに生み出された財・サービスの「付加価値」の総額であるため、新たに生み出されたものではない「株価の上昇」や「地価の上昇」や「中古市場での取引」は含まれません。
付加価値
「付加価値」とは、新たに生み出された価値であり「産出額」から「中間投入額」を控除することにより計算することができます。
新たに生み出された価値である「付加価値」を求めるためには、新たに生み出された価値ではない「材料費」や「外注加工費」などを控除する必要があります。
これらの「材料費」や「外注加工費」などのことを「中間投入額」といいますが、「中間投入額」を控除せずに各企業の産出額を加算していくと2重3重でカウントされてしまいます。
GNI(Gross National Income:国民総所得)
「GNI(国民総所得)」は、”国民”が一定期間内に得た所得の総額のことをいい、「GDP(国内総生産)」または「GDI(国内総所得)」に「海外からの所得の純受取」を加算した総額を表しています。
GDPデフレーター
「GDPデフレーター」とは「名目GDP」から「実質GDP」を算出するために用いられる「物価指数(パーシェ指数)」のことをいいます。
- 名目GDP:国内で新たに生み出された付加価値の時価総額
- 実質GDP:名目GDPから物価変動を取り除いたもの
- GDPデフレーター:「名目GDP」から「実質GDP」を算出する「物価指数」
「実質GDP」は「名目GDP」を「GDPデフレーター」で除して求められます。
この式を変換すると、「GDPデフレーター」は「名目GDP」を「実質GDP」で除して求めることができます。
「GDPデフレーター」は、GDPを構成する項目ごとにデフレーターを作成して実質値を求めた後「名目値 ÷ 各構成項目の実質値の合計」として逆算して求められるため、「消費者物価指数」や「企業物価指数」よりも包括的な「物価指数」を表しています。
「GDPデフレーター」は、その数値が100より大きければ物価が上昇していることを表しており「名目GDP > 実質GDP」となります。また、その数値が100より小さければ物価が下落していることを表しており「名目GDP < 実質GDP」となります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和2年度 第3問】
国民経済計算の概念として、最も適切なものはどれか。
ア 国内総生産は、各生産段階で生み出される産出額の経済全体における総額である。
イ 中間投入には、減価償却費や人件費を含まない。
ウ 名目国内総生産は、実質国内総生産をGDPデフレ-タ-で除したものに等しい。
エ 名目国内総生産は、名目国民総所得に海外からの所得の純受取を加算したものに等しい。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
国民経済計算の概念に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「GDP(国内総生産)」は、”国内”で一定期間内に新たに生み出された財・サービスの「付加価値」の総額のことをいいます。
「付加価値」とは、新たに生み出された価値であり「産出額」から「中間投入額」を控除することにより計算することができます。
新たに生み出された価値である「付加価値」を求めるためには、新たに生み出された価値ではない「材料費」や「外注加工費」などを控除する必要があります。
これらの「材料費」や「外注加工費」などのことを「中間投入額」といいますが、「中間投入額」を控除せずに各企業の産出額を加算していくと2重3重でカウントされてしまいます。
したがって、国内総生産は、各生産段階で生み出される産出額の経済全体における総額ではなく、国内総生産は、各生産段階で生み出される産出額から中間投入額を控除した付加価値の経済全体における総額であるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
「GDP(国内総生産)」は、”国内”で一定期間内に新たに生み出された財・サービスの「付加価値」の総額のことをいいます。
「付加価値」とは、新たに生み出された価値であり「産出額」から「中間投入額」を控除することにより計算することができます。
新たに生み出された価値である「付加価値」を求めるためには、新たに生み出された価値ではない「材料費」や「外注加工費」などを控除する必要があります。
これらの「材料費」や「外注加工費」などのことを「中間投入額」といいます。
「国内産出額」から「中間投入額」を控除した「GDP(国内総生産)」の構成要素において「減価償却費」は「固定資本減耗」に含まれ「人件費」は「雇用者報酬」に含まれます。
したがって、中間投入には、減価償却費や人件費を含まないため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
「GDPデフレーター」とは「名目GDP」から「実質GDP」を算出するために用いられる「物価指数(パーシェ指数)」のことをいいます。
- 名目GDP:国内で新たに生み出された付加価値の時価総額
- 実質GDP:名目GDPから物価変動を取り除いたもの
- GDPデフレーター:「名目GDP」から「実質GDP」を算出する「物価指数」
「実質GDP」は「名目GDP」を「GDPデフレーター」で除して求められます。
したがって、名目国内総生産は、実質国内総生産をGDPデフレーターで除したものではなく、実質国内総生産は、名目国内総生産をGDPデフレーターで除したものに等しいため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「GNI(国民総所得)」は、”国民”が一定期間内に得た所得の総額のことをいい、「GDP(国内総生産)」または「GDI(国内総所得)」に「海外からの所得の純受取」を加算した総額を表しています。
したがって、名目国内総生産は名目国民総所得に海外からの所得の純受取を加算したものではなく、名目国民総所得(GNI)は名目国内総生産(GDP)に海外からの所得の純受取を加算したものに等しいため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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