今回は、「運営管理 ~R3-8 生産計画(5)需要予測~」について説明します。
目次
運営管理 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
需要予測 -リンク-
本ブログにて「需要予測」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
需要予測
「見込生産」の生産形態を採用している企業では、精度の高い「需要予測」に基づいて「生産計画」を策定することが非常に重要です。
「需要予測」の精度が低く、見込みよりも受注量が少なかった場合は、売れ残った製品が余剰在庫となってしまいます。また、見込みよりも受注量が多かった場合は、製品が品切れとなり、機会損失が発生します。
需要予測の方法
「需要予測」には「移動平均法」「指数平滑法」などの方法があります。
移動平均法
「移動平均法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値を平均して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
「移動平均法」には、過去の実績値から単純に平均値を算出して次期の需要の予測値を算出する「単純移動平均法」と、過去の実績値に重み付けをした数値から平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する「加重移動平均法」の2つの方法があります。
「移動平均法」により、需要の変動が激しい製品の需要を予測する場合は、直近の需要動向に重点を置くため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を短く設定します。また、需要が安定している製品の需要を予測する場合は、直近の例外的な実績値が次期の需要予測に与える影響を少なくするため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を長く設定します。
このように、「移動平均法」により次期の需要を予測する場合に用いる実績値の対象期間は、対象とする製品の特性に合わせて適切に設定する必要があります。
「移動平均法」の1つである「加重移動平均法」では、過去データに重み付けをして次期の需要を予測しますが、試験においては「移動平均法」は重み付けを行わない方法として出題されますので、注意が必要です。
試験問題で「移動平均法」と記載されている場合は「単純移動平均法」のことを示していると理解するようにした方が良いと思います。
単純移動平均法
「単純移動平均法」とは、過去の実績値から単純に平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
事例として、今月を含む過去4か月間の売上高から、来月の売上高を予測します。
過去の実績データ
売上高 | |
今月 | 1,000万円 |
先月 | 950万円 |
2ヶ月前 | 1,100万円 |
3ヶ月前 | 1,050万円 |
来月の予測売上高
( 1,000 + 950 + 1,100 + 1,050 )÷ 4 = 1,025 万円
加重移動平均法
「加重移動平均法」とは、過去の実績値に重み付けをした数値から平均値を算出して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
事例として、今月を含む過去4か月間の売上高から、来月の売上高を予測します。
なお、以下に示す数値例では直近の売上実績データの「重み」を大きくすることとします。
過去の実績データと重み付け
売上高 | 重み | |
今月 | 1,000万円 | 0.4 |
先月 | 950万円 | 0.3 |
2ヶ月前 | 1,100万円 | 0.2 |
3ヶ月前 | 1,050万円 | 0.1 |
来月の予測売上高
( 1,000 × 0.4 + 950 × 0.3 + 1,100 × 0.2 + 1,050 × 0.1 )÷( 0.4 + 0.3 + 0.2 + 0.1 )= 1,010 万円
指数平滑法
「指数平滑法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値のうち、現在に近いデータの「重み」を大きくして、データが古くなるにつれて指数関数的に「重み」を減少させて需要の予測値を算出する「加重移動平均法」のことをいいます。
次期の需要の予測値を算出する「単純指数平均法(1次式)」の公式は以下の通りです。
「単純指数平均法(1次式)」とは、今期の予測値と実績値から、次期の需要の予測値を算出する方法です。
平滑化定数
「単純指数平均法」の公式における「α」は「平滑化定数」といい「 0 < α < 1 の範囲」で設定します。
「平滑化定数(α)」が「1」に近ければ、「次期の予測値」が「今期の実績値」に近くなることから、直近のデータを重視した予測となり、逆に「平滑化定数(α)」が「0」 に近ければ、「次期の予測値」が「今期の予測値」に近くなることから、過去のデータを重視した予測ということになります。
少し分かりにくいですが、「今期の予測値」とは、前期のデータに基づき算出された数値であるため、過去のデータを重視した予測ということになります。
「平滑化定数(α)」の値は、蓄積された過去のデータをシミュレーションするなどの方法により、予測誤差が最小になるように設定していく必要があります。
例として、「平滑化定数(α)」を「0.2」「0.5」「0.8」として、今月の売上高の予測値と実績値を用いて来月の売上高の予測値を算出します。
過去の実績データ
例1 | 例2 | 例3 | |
今月売上高(予測値) | 800万円 | ||
今月売上高(実績値) | 1,000万円 | ||
平滑化定数(α) | 0.2 | 0.5 | 0.8 |
来月の予測売上高
- 例1:0.2 × 1,000 +(1-0.2)× 800 = 840 万円(今期予測値に近い)
- 例2:0.5 × 1,000 +(1-0.5)× 800 = 900 万円
- 例3:0.8 × 1,000 +(1-0.8)× 800 = 960 万円(今期実績値に近い)
「平滑化定数(α)」が「1」に近ければ来月の予測値が「今期の実績値」に近くなり、「平滑化定数(α)」が「0」 に近ければ来月の予測値が「今期の予測値」に近くなることが分かります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第8問】
需要量の時系列データを用いる需要予測法に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 移動平均法の予測精度は、個々の予測値の計算に用いるデータ数に依存しない。
イ 移動平均法では、期が進むにつれて個々の予測値の計算に用いるデータ数が増加する。
ウ 指数平滑法では、過去の需要量にさかのぼるにつれて重みが指数的に減少する。
エ 指数平滑法では、過去の予測誤差とは独立に将来の需要量が予測される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「需要予測」の手法である「移動平均法」「指数平滑法」に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「移動平均法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値を平均して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
「移動平均法」により、需要の変動が激しい製品の需要を予測する場合は、直近の需要動向に重点を置くため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を短く設定します。また、需要が安定している製品の需要を予測する場合は、直近の例外的な実績値が次期の需要予測に与える影響を少なくするため、予測値の算出に用いる実績値の対象期間を長く設定します。
このように、「移動平均法」により次期の需要を予測する場合に用いる実績値の対象期間は、対象とする製品の特性に合わせて適切に設定する必要があります。
つまり、「移動平均法」による次期の需要の予測は過去の実績を平均して算出するため、過去の実績のデータ数により精度が変わってきます。
したがって、移動平均法の予測精度は、個々の予測値の計算に用いるデータ数に依存しないのではなく依存するため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「移動平均法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値を平均して、次期の需要の予測値を算出する方法です。
例えば、直近3か月の実績値を用いて次月の需要の予測するとした場合、月が進むにつれて用いる過去の実績値の対象月もスライドしていきます。
例:直近3か月の実績値を用いる場合
- 4月の需要予測:1月・2月・3月の実績値
- 5月の需要予測:2月・3月・4月の実績値
- 6月の需要予測:3月・4月・5月の実績値
したがって、移動平均法では、期が進むにつれて個々の予測値の計算に用いるデータ数が増加するのではなく、データ数は変わらないため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 適切です。
「指数平滑法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値のうち、現在に近いデータの「重み」を大きくして、データが古くなるにつれて指数関数的に「重み」を減少させて需要の予測値を算出する「加重移動平均法」のことをいいます。
したがって、指数平滑法では、過去の需要量にさかのぼるにつれて重みが指数的に減少するため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
「指数平滑法」とは、売上数量や売上高などの過去の実績値のうち、現在に近いデータの「重み」を大きくして、データが古くなるにつれて指数関数的に「重み」を減少させて需要の予測値を算出する「加重移動平均法」のことをいいます。
次期の需要の予測値を算出する「単純指数平均法(1次式)」の公式は以下の通りです。
「単純指数平均法(1次式)」とは、今期の予測値と実績値から、次期の需要の予測値を算出する方法です。
「単純指数平均法」の公式における「α」は「平滑化定数」といい「 0 < α < 1 の範囲」で設定します。
「平滑化定数(α)」の値は、蓄積された過去のデータをシミュレーションするなどの方法により、予測誤差が最小になるように設定していく必要があります。
したがって、指数平滑法では、過去の予測誤差と独立してではなく過去の予測誤差を踏まえて予測誤差が最小になるように設定した平滑化定数(α)を用いて将来の需要量が予測されるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ウ)です。
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