今回は、「経済学・経済政策 ~R3-6-2 IS-LM曲線(13)財政政策と金融政策の効果~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
IS-LM曲線 -リンク-
本ブログにて「IS-LM曲線」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- IS-LM曲線のまとめ
- R5-8-1 IS-LM曲線(14)IS曲線
- R3-6-1 IS-LM曲線(12)垂直のLM曲線
- R2-6-1 IS-LM曲線(1)垂直のIS曲線
- R2-6-2 IS-LM曲線(2)財政政策と金融政策の効果
- R1-8-1 IS-LM曲線(3)水平なLM曲線
- R1-8-2 IS-LM曲線(4)財政政策と金融政策の効果
- H29-9-1 IS-LM曲線(5)超過需要と超過供給
- H29-9-2 IS-LM曲線(6)公債の資産効果
- H28-11-1 IS-LM曲線(7)IS曲線とLM曲線の傾き
- H28-11-2 IS-LM曲線(8)財政政策の効果
- H27-6 IS-LM曲線(9)財政政策の効果
- H26-5 IS-LM曲線(10)財政政策の効果
- H24-9 IS-LM曲線(11)IS曲線とLM曲線の形状とシフト
IS-LM曲線とは
「IS-LM曲線」とは、縦軸に「利子率(r)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「財市場」が均衡する点の組み合わせを表す「IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)」が均衡する点の組み合わせを表す「LM曲線」を同時に表現して、「財政政策」や「金融政策」による「財市場」への効果と「資本市場(貨幣市場)」への効果を同時に分析するグラフのことをいいます。
IS-LM曲線
財政拡張政策→IS曲線のシフト
「財政拡張政策」を行うと「財市場」の均衡を表す「IS曲線」は右方にシフトします。
「財政拡張政策」を行っても「資本市場(貨幣市場)」の均衡を表す「LM曲線」はシフトしません。
財政拡張政策による財市場の変化
「財政拡張政策」を行った場合に「財市場」が変化していく流れを以下に示します。
- 「財政拡張政策」により「総需要(YD)」が増加する
- 「財市場」が超過需要となるため、企業が増産して「総供給(YS)」が増加する
- 超過需要が解消されるところ(YS=YD)まで「総供給(YS)」が増加して「財市場」が均衡する
したがって「財政拡張政策」を行った場合「利子率(r)」は変化せずに「GDP(Y)」が増加するため「IS曲線」は右方にシフトします。
金融緩和政策→LM曲線のシフト
「金融緩和政策」を行うと「資本市場(貨幣市場)」の均衡を表す「LM曲線」は下方にシフトします。
「金融緩和政策」を行っても「財市場」の均衡を表す「IS曲線」はシフトしません。
金融緩和政策による資本市場(貨幣市場)の変化
「金融緩和政策」を行った場合に「資本市場(貨幣市場)」が変化していく流れを以下に示します。
- 「金融緩和政策」により「貨幣供給(M)」が増加する
- 「資本市場(貨幣市場)」が超過供給となり「利子率(r)」が低下する
- 「利子率(r)」が低下すると「債券価格」が上昇する
- 「債券価格」が上昇すると「債券需要」が減少して「貨幣の資産需要(L2)」が増加する
- 超過供給が解消されるところ( L=M÷P )まで「貨幣の資産需要(L2)」が増加して「資本市場(貨幣市場)」が均衡する
したがって「金融緩和政策」を行った場合「GDP(Y)」は変化せずに「利子率(r)」が低下するため「LM曲線」は下方(見た目は右方)にシフトします。
財政拡張政策と金融緩和政策→IS-LM曲線
「財政拡張政策」と「金融緩和政策」による効果を「IS-LM曲線」で確認していきます。
種類 | 一般的な状態 | 投資の利子弾力性がゼロの場合(投資が利子非弾力性な場合) | 貨幣の利子弾力性が無限大の場合(流動性のわな) |
財政拡張政策 | 有効 (クラウディング・アウトが発生) |
極めて有効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 有効 | 無効 | 無効 |
財政拡張政策→IS-LM曲線
「財政拡張政策」を行った場合「IS曲線」が右方にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点は右上にシフトします。
「IS曲線」と「LM曲線」の交点が右上にシフトするということは「財政拡張政策」には「GDP(Y)」を増加させる効果があることを表しています。(「利子率(r)」も上昇しているところにポイントがあります。)
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
クラウディング・アウト
「IS曲線」において「財政拡張政策」による効果を確認したときは「利子率(r)」は変化していませんでしたが、「IS-LM曲線」において「財政拡張政策」による効果を確認すると「利子率(r)」が上昇していることが分かります。
この「利子率(r)」の上昇により「投資(I)」が抑制されてしまい「GDP(Y)」を増加させる効果が少なくなってしまうことを「クラウディング・アウト」といいます。
「財政拡張政策」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「財政拡張政策」により「GDP(Y)」が「YE」から「YF」に増加する
- 「GDP(Y)」が増加したため「貨幣の取引需要(L1)」が増加する
- 「貨幣の取引需要(L1)」が増加したため「 L=L1+L2 」で表される「貨幣需要量(L)」が増加する
- 「貨幣需要量(L)」が増加したため「利子率(r)」が「re」から「re’」に上昇する
- 「利子率(r)」が「re」から「re’」に上昇したため「投資(I)」が減少する
- 「投資(I)」が減少したため「GDP(Y)」が「YF」から「YE’」に減少する(クラウディング・アウト)
- 「GDP(YE’)」と「利子率(re’)」で「財市場」と「資本市場(貨幣市場)」が均衡する
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
【クラウディング・アウト】
投資の利子弾力性がゼロの場合(投資が利子非弾力性な場合)
「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」の場合「IS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「財政拡張政策」を行った場合「IS曲線」が右方にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点が右上にシフトします。
このとき「利子率(r)」が上昇しますが「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」であるため「投資(I)」は減少せず「総需要(YD)」も変わらないため「クラウディング・アウト」は発生しません。
これは「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」の場合「財政拡張政策」が景気対策として極めて有効であることを表しています。
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
【投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)】
貨幣の利子弾力性が無限大の場合(流動性のわな)
「流動性のわな」の状況下にある場合「LM曲線」は水平の曲線として表されます。
「財政拡張政策」を行った場合「IS曲線」が右方にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点が右方にシフトします。
このとき「利子率(r)」は上昇しないため「クラウディング・アウト」は発生しません。
これは「流動性のわな」の状況下にある場合「財政拡張政策」が景気対策として極めて有効であることを表しています。
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性が無限大(流動性のわな)】
貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性な場合)の場合
「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「LS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「財政拡張政策」を行った場合「IS曲線」が右方にシフトしますが、「LM曲線」が垂直であるため、「IS曲線」と「LM曲線」の交点は上方にシフトします。
このとき「利子率(r)」の上昇により「クラウディング・アウト」が発生して「政府支出(G)」の増加分が「投資(I)」の減少分により相殺されてしまい「GDP(Y)」は変化しません。
これは「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「財政拡張政策」が景気対策として無効であることを表しています。
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)】
金融緩和政策→IS-LM曲線
「金融緩和政策」を行った場合「LM曲線」が下方(見た目は右方)にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点は右下にシフトします。
「IS曲線」と「LM曲線」の交点が右下にシフトするということは「金融緩和政策」には「GDP(Y)」を増加させる効果があることを表しています。(「利子率(r)」が低下していますが、クラウディング・アウトのような悪い副作用は発生しません。)
金融緩和政策によるIS-LM曲線の変化
投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)の場合
「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」の場合「IS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「金融緩和政策」を行った場合「LM曲線」が下方(見た目は右方)にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点が真下にシフトします。
このとき、「利子率(r)」が低下しますが「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」であるため「投資(I)」は増加せず「総需要(YD)」も変わらないため「GDP(Y)」が増加しません。
これは「投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)」の場合「金融緩和政策」が景気対策として無効であることを表しています。
金融緩和政策によるIS-LM曲線の変化
【投資の利子弾力性がゼロ(投資が利子非弾力性)】
流動性のわなの状況下にある場合(貨幣の利子弾力性が無限大)
「流動性のわな」の状況下にある場合「LM曲線」は水平の曲線として表されます。
「金融緩和政策」を行った場合「LM曲線」が下方(見た目は右方)にシフトしますが「IS曲線」と「LM曲線」の交点はシフトしません。
これは「流動性のわな」の状況下にある場合「金融緩和政策」が景気対策として無効であることを表しています。
金融緩和政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性が無限大(流動性のわな)】
貨幣の利子弾力性がゼロの場合(貨幣が利子非弾力性な場合)
「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「LS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「金融緩和政策」を行った場合「LM曲線」が右方にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点は右下にシフトします。
このとき「利子率(r)」の低下により「投資(I)」が増加して「総需要(YD)」も増加するため「GDP(Y)」が増加します。
これは「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の状況下にある場合「金融緩和政策」が景気対策として極めて有効であることを表しています。
金融緩和政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)】
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第6問】
下図は、IS曲線とLM曲線を描いている。この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問2)
LM曲線が垂直であるときの財政政策と金融政策の効果に関する記述として、最も適切な組み合わせを下記の解答群から選べ。なお、ここでは物価水準が一定の短期的な効果を考えるものとする。
a 政府支出を増加させると、完全なクラウディング・アウトが発生する。
b 政府支出を増加させると、利子率の上昇を通じた投資支出の減少が生じるが、GDPは増加する。
c 貨幣供給を増加させると、利子率の低下を通じた投資支出の増加が生じるが、GDPは不変である。
d 貨幣供給を増加させると、利子率の低下を通じた投資支出の増加によって、GDPは増加する。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問2)
「LM曲線」が垂直であるときの「財政政策」と「金融政策」の効果に関する知識を問う問題です。
なお、「LM曲線」が垂直であるときは「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」であることを表しています。(経済学・経済政策 ~R3-6-1 IS-LM曲線(12)垂直なLM曲線~)
財政拡張政策による効果(貨幣の利子弾力性がゼロの場合)
「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「LS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「財政拡張政策」を行った場合「IS曲線」が右方にシフトしますが、「LM曲線」が垂直であるため、「IS曲線」と「LM曲線」の交点は上方にシフトします。
このとき「利子率(r)」の上昇により「クラウディング・アウト」が発生して「政府支出(G)」の増加分が「投資(I)」の減少分により相殺されてしまい「GDP(Y)」は変化しません。
これは「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「財政拡張政策」が景気対策として無効であることを表しています。
財政拡張政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)】
したがって、LM曲線が垂直である(貨幣の利子弾力性がゼロ)場合、政府支出の増加(財政拡張政策)による利子率の上昇によってクラウディング・アウトが発生して、政府支出の増加が投資の減少により相殺されてしまうため、選択肢(a)の内容が適切であり、選択肢(b)の内容は不適切です。
金融緩和政策による効果(貨幣の利子弾力性がゼロの場合)
「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の場合「LS曲線」は垂直の曲線として表されます。
「金融緩和政策」を行った場合「LM曲線」が右方にシフトして「IS曲線」と「LM曲線」の交点は右下にシフトします。
このとき「利子率(r)」の低下により「投資(I)」が増加して「総需要(YD)」も増加するため「GDP(Y)」が増加します。
これは「貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)」の状況下にある場合「金融緩和政策」が景気対策として極めて有効であることを表しています。
金融緩和政策によるIS-LM曲線の変化
【貨幣の利子弾力性がゼロ(貨幣が利子非弾力性)】
したがって、LM曲線が垂直である(貨幣の利子弾力性がゼロ)場合、貨幣供給の増加(金融緩和政策)による利子率の低下によって投資が増加してGDPが増加するため、選択肢(d)の内容が適切であり、選択肢(c)の内容は不適切です。
(a)と(d)に記述されている内容が適切であるため、答えは(イ)です。
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