今回は、「財務・会計 ~R3-12 損益分岐点分析(CVP分析)(11)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
損益分岐点分析(一次試験) -リンク-
一次試験に向けて「損益分岐点分析(CVP分析)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-12-2 損益分岐点分析(CVP分析)(12)
- R2-21 損益分岐点分析(CVP分析)(10)
- H30-11 損益分岐点分析(CVP分析)(9)
- H28-8-1 損益分岐点分析(CVP分析)(1)
- H28-8-2 損益分岐点分析(CVP分析)(2)
- H27-10 損益分岐点分析(CVP分析)(3)
- H26-7 損益分岐点分析(CVP分析)(4)
- H25-8 損益分岐点分析(CVP分析)(5)
- H24-11 損益分岐点分析(CVP分析)(6)
- H23-11 損益分岐点分析(CVP分析)(7)
- H22-9 損益分岐点分析(CVP分析)(8)
損益分岐点分析(二次試験) -リンク-
二次試験(事例Ⅳ)に向けた「損益分岐点分析(CVP分析)」の記事は、以下のページに整理していますので、アクセスしてみてください。
損益分岐点分析(CVP分析)とは
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、総費用を変動費と固定費に区分して、目標利益を達成するために必要な売上高や製品の販売数量を分析するなど企業が利益計画を立てるために必要な数値を求めることができます。
「損益分岐点分析(CVP分析)」は、企業の費用構造に関する安全性を分析する手法です。
企業の費用構造上、総費用に占める固定費の割合が低くなると、世の中の不況などの外部環境の変化により売上高が低下しても利益を確保することができるなど、外部環境の変化に対する抵抗力が強くなります。
損益分岐点売上高
「損益分岐点」における「売上高」のこと、つまり「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる「売上高」のことを「損益分岐点売上高」といいます。
「損益分岐点」よりも右側に行く(売上高が高くなる)と「利益」が発生しており、損益分岐点よりも左側に行く(売上高が低くなる)と「損失」が発生していることを示しています。
損益分岐点売上高の公式
「損益分岐点売上高」は、以下の計算式により算出されます。
公式の算出過程
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、様々な公式が出てきますが、公式だけ覚えておくと、応用問題に対応することができないので、算出過程から公式を算出できるように理解を深めておく必要があります。
「損益分岐点売上高」は「売上高」から「変動費」と「固定費」を控除したときに「利益」がゼロとなる「売上高」であり、「売上高 - 変動費 - 固定費 = 0」という式からスタートします。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 0
- 変動費 = 売上高 × 変動費率
この式を変形していくと。
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)- 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)= 固定費
- 売上高 = 固定費 ÷(1-変動費率)
「損益分岐点売上高」の公式は以下の通りです。
応用例1(目標利益〇〇万円を達成するための売上高)
応用例の1つ目として、目標利益を金額〇〇万円とする場合、目標を達成するための売上高をいくらに設定すればよいか。について公式を導いてみます。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)- 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)= 固定費 + 目標利益
- 売上高=(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)
目標利益の金額〇〇万円を達成するための売上高を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
応用例2(売上高の〇〇%の利益目標を達成するための売上高)
続いて応用例の2つ目として、目標利益を「売上高の〇〇%」と設定する場合、目標を達成するための売上高をいくらに設定すればよいか。について公式を導いてみます。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 =売上高 × 〇〇%
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 -固定費 = 売上高 × 〇〇%
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 -売上高 × 〇〇% = 固定費
- 売上高 ×(1-変動費率- 〇〇%)= 固定費
- 売上高 = 固定費 ÷(1- 変動費率 - 〇〇%)
目標利益を売上高の〇〇%とする場合、目標を達成するための売上高を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
応用例3(損益分岐点を達成する製品販売数量)
続いて応用例の3つ目として、損益分岐点を達成するための販売数量を求める公式を導いてみます。
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1- 変動費率)
- 損益分岐点売上高 ÷ 製品販売単価 = 固定費 ÷(1- 変動費率)÷ 製品販売単価
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ (製品販売単価 - 製品販売単価 × 変動費率)
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ (製品販売単価 - 製品単位の変動費)
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ 製品単位の貢献利益
損益分岐点を達成する製品販売数量を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
損益分岐点比率
「損益分岐点比率」とは「実際の売上高」と「損益分岐点売上高」の比率を示す指標であり、以下の公式により算出することができます。
「損益分岐点売上高」は「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる「売上高」のことを示しているため、「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」と等しい場合は「損益分岐点比率」は「100%」です。
- 「利益」が「プラス」の場合は「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」よりも大きくなるため「損益分岐点比率」は「100%」よりも小さくなります。
- 「利益」が「マイナス」の場合は「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」よりも小さくなるため「損益分岐点比率」が「100%」よりも大きくなります。
つまり、「損益分岐点比率」はその数値が低いほど優れており、安全性が高いことを示しています。
「損益分岐点比率」の意味
「損益分岐点比率」について、もう少し掘り下げて考えてみます。
「損益分岐点比率」は、その数値が低いほど優れており、安全性が高いとされていますが、ここでいう「安全性が高い」とは「不況抵抗力が強い」ということを意味しています。
言い換えると、「損益分岐点比率」の数値が低い方が、不況により売上が減少しても利益を確保することができる費用構造であるということです。
それでは、売上を増やさずに「損益分岐点比率」を低くするためにはどうすればよいのか。
損益分岐点比率の公式をみると「損益分岐点売上高」を低くすればよいのです。
それでは、「損益分岐点売上高」を低くするためにはどうすればよいのか。
損益分岐点売上高の公式をみると「固定費」を減らすか「変動費率」を下げればよいことが分かります。
つまり、費用構造上、固定費を減らすか、変動費率を下げることにより、企業の不況抵抗力が強くなり、不況により売上が落ちても利益を確保することができるようになる。ということです。
安全余裕率
安全余裕率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の差がどのくらいあるかを表す指標です。
安全余裕率が高いほど実際の売上高が損益分岐点売上高から離れており、安全性が高いことを示しています。
安全余裕率と損益分岐点比率の関係
損益分岐点比率と安全余裕率には、以下の関係があります。
安全余裕率と営業レバレッジの関係
「安全余裕率」は「営業レバレッジの逆数」であり以下の公式により求めることができます。
損益分岐点分析(CVP分析)の中で、直接的に問われることにの少ない知識ですが、知らないと解くことができない問題が出題されることがあるため、是非覚えておくことをお薦めします。
営業レバレッジ(重要!)
営業レバレッジは「限界利益÷営業利益」で表される指標であり、二次試験でも頻繁に出題される内容です。(平成27年度 事例Ⅳ 第2問 設問2など)
営業レバレッジは安全性を示す指標であり、その数値が高い場合は「安全性が低い」と判断することができます。
二次試験で営業レバレッジについて問われる場合は、当該企業の費用構造において固定費の割合が高いケースが想定されますが、その場合の問題点は以下のようになります。
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営業レバレッジの数値が高いということは、費用構造における固定費の割合が高くなっていることを示しており、売上変動に伴う営業利益の増減が大きくなるため、景気変動に伴う売上高の減少によって営業利益がマイナスに転落するリスクが高く安全性が低い。
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試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第12問】
損益分岐点分析に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 安全余裕率は、損益分岐点比率の逆数である。
イ 損益分岐点売上高は、固定費を変動費率で除して求められる。
ウ 損益分岐点比率は小さいほど赤字になるリスクが低い。
エ 目標利益達成のための売上高は、損益分岐点売上高に目標利益を加算して求められる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
損益分岐点分析(CVP分析)に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
安全余裕率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の差がどのくらいあるかを表す指標です。
安全余裕率が高いほど実際の売上高が損益分岐点売上高から離れており、安全性が高いことを示しています。
損益分岐点比率と安全余裕率には、以下の関係があります。
「安全余裕率」は「営業レバレッジの逆数」であり以下の公式により求めることができます。
損益分岐点分析(CVP分析)の中で、直接的に問われることにの少ない知識ですが、知らないと解くことができない問題が出題されることがあるため、是非覚えておくことをお薦めします。
したがって、安全余裕率は、損益分岐点比率の逆数ではなく営業レバレッジの逆数であるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「損益分岐点」における「売上高」のこと、つまり「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる「売上高」のことを「損益分岐点売上高」といいます。
「損益分岐点売上高」は、以下の計算式により算出されます。
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、様々な公式が出てきますが、公式だけ覚えておくと、応用問題に対応することができないので、算出過程から公式を算出できるように理解を深めておく必要があります。
「損益分岐点売上高」は「売上高」から「変動費」と「固定費」を控除したときに「利益」がゼロとなる「売上高」であり、「売上高 - 変動費 - 固定費 = 0」という式からスタートします。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 0
- 変動費 = 売上高 × 変動費率
この式を変形していくと。
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)- 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)= 固定費
- 売上高 = 固定費 ÷(1-変動費率)
したがって、損益分岐点売上高は、固定費を変動費率ではなく「1-変動比率(貢献利益率)」で除して求められるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 適切です。
「損益分岐点比率」とは「実際の売上高」と「損益分岐点売上高」の比率を示す指標であり、以下の公式により算出することができます。
「損益分岐点売上高」は「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる「売上高」のことを示しているため、「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」と等しい場合は「損益分岐点比率」は「100%」です。
- 「利益」が「プラス」の場合は「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」よりも大きくなるため「損益分岐点比率」は「100%」よりも小さくなります。
- 「利益」が「マイナス」の場合は「実際の売上高」が「損益分岐点売上高」よりも小さくなるため「損益分岐点比率」が「100%」よりも大きくなります。
つまり、「損益分岐点比率」はその数値が低いほど優れており、安全性が高いことを示しています。
したがって、損益分岐点比率は小さいほど赤字になるリスクが低いため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
目標利益を金額〇〇万円とする場合、目標を達成するための売上高をいくらに設定すればよいか。について公式を導いてみます。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)- 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)= 固定費 + 目標利益
- 売上高=(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)
目標利益の金額〇〇万円を達成するための売上高を求める公式は以下の通りです。
したがって、目標利益達成のための売上高は、損益分岐点売上高に目標利益を加算して求められるのではないため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ウ)です。
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