今回は、「経済学・経済政策」の「絶対所得仮説」「相対所得仮説」「ライフサイクル仮説」「恒常所得仮説」に関する記事のまとめです。
目次
絶対所得仮説・相対所得仮説・ライフサイクル仮説・恒常所得仮説 -リンク-
本ブログにて「絶対所得仮説」「相対所得仮説」「ライフサイクル仮説」「恒常所得仮説」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-4 主要経済理論(15)絶対所得仮説
- R3-4 主要経済理論(12)消費理論
- R1-4 主要経済理論(5)消費
- H27-4 主要経済理論(7)ライフサイクル仮説
- H26-6 主要経済理論(9)恒常所得仮説
消費理論の体系
消費関数には、短期の消費動向を表す「ケインズ型消費関数(絶対所得仮説)」と長期の消費動向を表す「クズネッツ型消費関数」がありましたが、それぞれの異なる2つの消費関数を矛盾なく説明できないかという論争が起こる中で、新たな仮説として「相対所得仮説」「ライフサイクル仮説」「恒常所得仮説」という「三大仮説」が提唱されました。
また、「三大仮説」には組み込まれていませんが「トービンの流動資産仮説」という仮説もあります。
これらの仮説は、結果として、どれが正しいということはなく、いずれの仮説も現実の私たちの行動を正しく説明できる部分があるとされています。
絶対所得仮説(ケインズ型消費関数)
「絶対所得仮説」とは、経済学者であるケインズによって提唱された消費関数に関する仮説であり、個人の消費は、現在の所得により決定されるという理論のことをいいます。
後述しますが、「ケインズ型消費関数」は数年という短期や高所得者層の消費動向を表しています。
ケインズ型消費関数(税金を考慮しない場合)
税金を考慮しない場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「GDP(Y)」を乗じた「変動消費(bY)」を合計することにより求めることができます。
基礎消費(a)
「基礎消費(a)」とは、所得水準に関わらず発生する消費のことをいいます。
限界消費性向(b)
「限界消費性向(b)」とは「所得(Y)」が1単位増加したときの「消費(C)」の変化量のことをいいます。
「 Y = C+I+G 」であり「 Y > C 」の関係が成立するため「限界消費性向(b)」は「0 < b < 1」の範囲で推移します。
「限界消費性向」は「ケインズ型消費曲線」の「傾き」として表されます。
平均消費性向( C ÷ Y )
「限界消費性向(b)」に似た指標として「平均消費性向」という指標があります。
「平均消費性向」は、「原点(0)」と「所得(Y)」により決定する「消費(C)」をつなぐ曲線の傾きとして表されます。
「平均消費性向」は「C(縦軸)÷ Y(横軸)」で求められます。
「基礎消費(a)」と「限界消費性向(b)」が一定であるとした場合、「平均消費性向」は「所得(Y)」が増加するにつれて小さくなります。
式で表さなくとも、上述のグラフで「所得(Y)」を増加させる(右に動かす)ことをイメージすると「所得(Y)」が増加するにつれて「平均消費性向(傾き)」が小さくなることが分かると思います。
ケインズ型消費関数(税金を考慮した場合)
税金を考慮した場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「所得(Y)」から「税金(T)」を差し引いた「可処分所得(Yd)」を乗じた「変動消費(b(Y-T))」を合計することにより求めることができます。
税金(T)
「税金(T)」は、「定額税(T0)」と、「所得(Y)」に「税率(t)」を乗じた「定率税(tY)」を合計することにより求めることができます。
「税金(T)」を「定額税(T0)」と「定率税(tY)」で表した場合の「ケインズ型消費関数」を以下に示します。
クズネッツ型消費関数
「クズネッツ型消費関数」とは、クズネッツが長期にわたるアメリカの統計情報から導き出した消費関数のことをいいます。
後述しますが、「クズネッツ型消費関数」は長期の消費動向を表しています。
- C = 0.9 Y
現実経済における統計情報との関係性
クズネッツによる「クズネッツ型消費関数」の発表以降も、様々な実証研究が行われた結果、「ケインズ型消費関数」「クズネッツ型消費関数」と現実経済における統計情報との関係性について分かった内容を以下に示します。
- 「時系列データ(タイムシリーズ)」に基づき、消費動向を確認した結果、短期においては「ケインズ型消費関数」が当てはまり、長期においては「クズネッツ型消費関数」が当てはまる。
- 「クロスセクションデータ」に基づき、横断的に消費動向を確認した結果、高所得者層の平均消費性向は、低所得階層の平均消費性向より小さくなっており、「ケインズ型消費関数」に当てはまる。
これらの研究結果から、数年という短期や高所得者層の消費動向を表している消費関数は「ケインズ型消費関数」であり、長期の消費動向を表している消費関数は「クズネッツ型消費関数」であるとされています。
消費関数論争(三大仮説)
「消費関数論争」とは「短期(ケインズ型消費関数)」と「長期(クズネッツ型消費関数)」で異なるそれぞれの消費関数について、どのような理論であれば矛盾なく説明することができるのかを主題とした論争のことをいいます。
「消費関数論争」の中で、それぞれの消費関数を矛盾なく説明する仮説として「相対所得仮説」「ライフサイクル仮説」「恒常所得仮説」という「三大仮説」が提唱されましたが、どの仮説が正しいということはなく、いずれの説も現実の私たちの行動を正しく説明できる部分があるとされています。
相対所得仮説
「相対所得仮説」とは、経済学者であるデューゼンベリーによって提唱された消費関数に関する仮説であり、個人の消費は、現在の所得により決定されるのではなく、過去の自分の消費習慣(時間)や他人の消費水準(空間)に影響を受けるという理論のことをいいます。
歯止め効果(ラチェット効果)
「歯止め効果(ラチェット効果)」とは、個人の消費は、過去の自分の消費習慣(時間)に影響を受けて決定されるため、所得が減少しても短期的には消費がそれほど減少しないとされています。
「歯止め効果(ラチェット効果)」は、所得が減少しても、それまでの自分の消費習慣を急に変えることができなかったり、長期契約などの制約によりすぐに消費を減らすことができないといった理由により発生します。
長期においては、減少した自分の所得に基づく消費習慣に慣れていき、消費を減少していきます。
デモンストレーション効果
「デモンストレーション効果」とは、個人の消費は、自分の所得だけでなく、他人の消費水準(空間)に影響を受けて決定されるため、所得が減少しても短期的には消費がそれほど減少しないとされています。
「デモンストレーション効果」とは、所得が減少しても、他人の目が気になりすぐには消費を減らすことができないといった理由により発生します。
長期においては、自分の所得だけが減少したのではなく、景気の悪化などにより他人の所得も減少したことに気が付き、消費を減少していきます。
ライフサイクル仮説
「ライフサイクル仮説」とは、経済学者であるモディリアーニ、ブルンバーグ、安藤によって提唱された消費関数に関する仮説であり、個人の消費は、現在の所得金額ではなく、生涯を通じて得られると想定される所得総額(生涯所得)を、生涯を通じて全部使い切れるように決定されるという理論のことをいいます。
「ライフサイクル仮説」では、定期昇給などによって「生涯所得」が増加する見通しがあれば消費を増やしますが、宝くじなどによって一時的な所得である「変動所得」を得たとしても消費を増やさないとされています。
また、所得が消費を上回る青年期から壮年期にかけては将来のために貯蓄を増やし、所得が減少する老年期においてはその貯蓄を切り崩しながら生活水準を維持していくため、高齢化が進み、人口全体に占める労働から引退した高齢者の割合が大きくなると、経済全体における「貯蓄率」が減少して「平均消費性向(C÷Y)」が上昇します。
恒常所得仮説
「恒常所得仮説」とは、経済学者であるフリードマンによって提唱された消費関数に関する仮説であり、個人の消費は、過去に得た所得の平均値に基づき将来に得られると想定される所得金額である「恒常所得」と、一時的な所得である「変動所得」に区分した上で、「恒常所得」に基づいて消費が決定されるという理論のことをいいます。
「恒常所得仮説」では、定期昇給などによって「恒常所得」が増加する見通しがあれば消費を増やしますが、宝くじなどによって一時的な所得である「変動所得」を得たとしても消費を増やさないとされています。
トービンの流動資産仮説
最後にもう一つ「三大仮説」には組み込まれていませんが「消費関数論争」において経済学者であるトービンによって提唱された「トービンの流動資産仮説」について説明します。
「トービンの流動資産仮説」とは、個人の消費は、現在の所得だけでなく、流動資産にも依存して決定されるという理論のことをいい、同一所得水準にある2人の個人を比較した場合、多くの流動資産を保有している人の方が、流動資産を保有していない人よりも消費が多くなるとしています。
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