今回は、「経済学・経済政策 ~H24-15 資源配分機能(16)余剰分析(自由貿易と関税)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成24年度一次試験問題一覧~
平成24年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
余剰分析(貿易) -リンク-
本ブログにて「余剰分析(貿易)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 余剰分析(貿易)のまとめ
- R5-21 資源配分機能(20)余剰分析(自由貿易)
- R3-23 資源配分機能(17)余剰分析(自由貿易)
- R1-18 資源配分機能(6)余剰分析(関税と補助金)
- H30-20 資源配分機能(10)余剰分析(自由貿易と関税)
- H29-21 資源配分機能(13)余剰分析(関税の引き下げ)
- H27-21 資源配分機能(14)余剰分析(関税の引き下げ)
- H26-21 資源配分機能(15)余剰分析(関税の撤廃)
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
余剰分析(貿易)
「財市場(完全競争市場)」において、貿易による「余剰(利益)」の変化について考えていきます。
輸入
自由貿易の場合(輸入品に対する関税や輸入量の制限がない場合)
「財市場(完全競争市場)」において、輸入品に対する関税や輸入量の制限がない自由貿易が行われ、財の価格は国内の需要曲線と供給曲線の交点で均衡していた国内価格(PE)から国際価格(Pi)に下落すると、消費者による需要量は「XE(点Eの需要量)」から「XG(点Gの需要量)」に増加して、生産者による供給量は「XE(点Eの供給量)」から「XF(点Fの供給量)」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「超過需要」となりますが、供給量の不足分(XG-XF)は輸入財により賄われます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
余剰の変化(自由貿易(輸入))
自由貿易が行われていなかった場合と比較すると「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形EFG」だけ増加します。
社会的総余剰の増加分(自由貿易(輸入))
保護貿易の場合(輸入品に関税を賦課する場合)
自由貿易が行われていた輸入品に政府が関税(t)を賦課すると、財の価格が自由貿易における価格(Pi)から関税が賦課された価格(Pi+t)に上昇するため、消費者による需要量は「XG(点Gの需要量)」から「XI(点Iの需要量)」に減少して、生産者による供給量は「XF(点Fの供給量)」から「XH(点Hの供給量)」に増加します。
また、自由貿易の場合と比較して、需要量が減少して供給量が増加するため、供給量の不足分が「XG-XF」から「XI-XH」に減少して輸入量も減少します。
「余剰(利益)」という観点で見ると、自由貿易の場合と比較して「消費者余剰」は減少して「生産者余剰」は増加します。
また、自由貿易における価格(Pi)と関税が賦課された価格(Pi+t)の差額(Pi+t-Pi)に、輸入量(XI-XH)を乗じた面積で表される関税収入が「政府余剰」として増加します。
余剰の変化(輸入品に関税を賦課する場合)
政府が関税を賦課する場合の「社会的総余剰(総余剰)」は、自由貿易の場合と比較して「三角形HFJ+三角形IKG」だけ減少(余剰の損失(死荷重))します。
社会的総余剰(輸入品に関税を賦課する場合)
余剰の損失(輸入品に関税を賦課する場合)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成24年度 第15問】
下図は、ある国の立場から、1つの財の市場のみに注目した部分均衡分析の枠組みを用いて、自由貿易協定の経済効果を示している。当該財の価格がP1である第Ⅰ国からの輸入に、この国では関税を賦課しており、関税賦課後の価格はP2となっていた。それが、第Ⅱ国と自由貿易協定を結ぶことによって、第Ⅱ国から価格P3で当該財を輸入できることになった。なお、図中のa~i は線で囲まれた範囲の面積を表すものとする。
第Ⅱ国と自由貿易協定を結ぶ場合、協定締結後のこの国の経済厚生は、締結前と比較して、どれだけ変化したか、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア c+d+e+f
イ c+d+f-h
ウ d+e+f
エ d+f-h
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
自由貿易と関税をかけた場合の余剰の変化に関する知識を問う問題です。
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
第Ⅱ国と自由貿易協定が締結されていない場合
第Ⅱ国と自由貿易協定が締結されていない状態では、市場における財の価格は、第Ⅰ国から輸入する財に関税が賦課された価格(P2)となるため、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」は以下のようになります。
なお、第Ⅱ国と自由貿易協定が締結されていない状態では、第Ⅰ国から輸入する財の価格(P1)と関税が賦課された価格(P2)の差額(P2-P1)に、輸入量を乗じた面積で表される関税収入が「政府余剰」として発生します。
第Ⅱ国と自由貿易協定が締結された場合
第Ⅱ国と自由貿易協定が締結されて第Ⅱ国から価格(P3)で財を輸入できるようになれば、市場においては、関税が賦課された第Ⅰ国から輸入する財(価格:P2)よりも安価である第Ⅱ国から輸入する財(価格:P3)が選択されるため、財の価格が「P2」から「P3」に下落します。
財の価格が「P2」から「P3」に下落すると、消費者による需要量は「Q3」から「Q4」に増加して、生産者による供給量は「Q2」から「Q1」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「Q3-Q2」から「Q4-Q1」に増加する供給量の不足分は輸入財により賄われますが、財の価格は「P3」であるため、供給量の不足を補うための財は第Ⅰ国(価格:P2)からではなく、全て第Ⅱ国(価格:P3)から輸入することになります。
その結果、第Ⅱ国と自由貿易協定が締結されていない場合に発生していた関税収入に相当する「政府余剰」はなくなってしまいます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は「 c+d+e+f 」だけ増加して「生産者余剰」は「c」だけ減少して「政府余剰」は「 e+h 」だけ減少します。
「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」の変化は以下の通りです。
- 社会的総余剰(総余剰)の変化
消費者余剰( c+d+e+f )- 生産者余剰( c )- 政府余剰( e+h )= d+f-h
問題文に記述されている「この国の経済厚生」とは「社会的総余剰(総余剰)」のことを意味しています。
第Ⅱ国と自由貿易協定を結ぶ場合、協定締結後のこの国の経済厚生、つまり「社会的総余剰(総余剰)」は締結前と比較して「 d+f-h 」だけ変化しているため、選択肢(エ)に記述されている内容が最適です。
答えは(エ)です。
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