今回は、「経済学・経済政策~H27-21 資源配分機能(14)余剰分析(関税の引き下げ)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成27年度一次試験問題一覧~
平成27年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
余剰分析(貿易) -リンク-
本ブログにて「余剰分析(貿易)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 余剰分析(貿易)のまとめ
- R5-21 資源配分機能(20)余剰分析(自由貿易)
- R3-23 資源配分機能(17)余剰分析(自由貿易)
- R1-18 資源配分機能(6)余剰分析(関税と補助金)
- H30-20 資源配分機能(10)余剰分析(自由貿易と関税)
- H29-21 資源配分機能(13)余剰分析(関税の引き下げ)
- H26-21 資源配分機能(15)余剰分析(関税の撤廃)
- H24-15 資源配分機能(16)余剰分析(自由貿易と関税)
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
余剰分析(貿易)
「財市場(完全競争市場)」において、貿易による「余剰(利益)」の変化について考えていきます。
輸入
自由貿易の場合(輸入品に対する関税や輸入量の制限がない場合)
「財市場(完全競争市場)」において、輸入品に対する関税や輸入量の制限がない自由貿易が行われ、財の価格は国内の需要曲線と供給曲線の交点で均衡していた国内価格(PE)から国際価格(Pi)に下落すると、消費者による需要量は「XE(点Eの需要量)」から「XG(点Gの需要量)」に増加して、生産者による供給量は「XE(点Eの供給量)」から「XF(点Fの供給量)」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「超過需要」となりますが、供給量の不足分(XG-XF)は輸入財により賄われます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
余剰の変化(自由貿易(輸入))
自由貿易が行われていなかった場合と比較すると「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形EFG」だけ増加します。
社会的総余剰の増加分(自由貿易(輸入))
保護貿易の場合(輸入品に関税を賦課する場合)
自由貿易が行われていた輸入品に政府が関税(t)を賦課すると、財の価格が自由貿易における価格(Pi)から関税が賦課された価格(Pi+t)に上昇するため、消費者による需要量は「XG(点Gの需要量)」から「XI(点Iの需要量)」に減少して、生産者による供給量は「XF(点Fの供給量)」から「XH(点Hの供給量)」に増加します。
また、自由貿易の場合と比較して、需要量が減少して供給量が増加するため、供給量の不足分が「XG-XF」から「XI-XH」に減少して輸入量も減少します。
「余剰(利益)」という観点で見ると、自由貿易の場合と比較して「消費者余剰」は減少して「生産者余剰」は増加します。
また、自由貿易における価格(Pi)と関税が賦課された価格(Pi+t)の差額(Pi+t-Pi)に、輸入量(XI-XH)を乗じた面積で表される関税収入が「政府余剰」として増加します。
余剰の変化(輸入品に関税を賦課する場合)
政府が関税を賦課する場合の「社会的総余剰(総余剰)」は、自由貿易の場合と比較して「三角形HFJ+三角形IKG」だけ減少(余剰の損失(死荷重))します。
社会的総余剰(輸入品に関税を賦課する場合)
余剰の損失(輸入品に関税を賦課する場合)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成27年度 第21問】
TPP協定では、関税引き下げが交渉されている。
いま、ある農産物の輸入には禁止的高関税が従量税で課されており、輸入が起こらない状況であるとする。そこに、当該農産物の輸出国との間で貿易交渉が行われ、関税が大幅に引き下げられた結果、この農産物は図中のP1の価格で輸入されることとなった。関税が引き下げられた場合の余剰と輸入量に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 生産者余剰は減少し、消費者余剰は増加するものの、両者の余剰合計は変わらない。また、輸入量はQ3となる。
イ 生産者余剰は減少し、消費者余剰は増加するが、両者の余剰合計は増加する。また、輸入量は「Q3-Q1」となる。
ウ 生産者余剰は増加し、消費者余剰は減少するが、両者の余剰合計は減少する。また、輸入量はQ1となる。
エ 生産者余剰は増加し、消費者余剰は減少するものの、両者の余剰合計は変わらない。また、輸入量は「Q3-Q2」となる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
関税の引き下げに伴う余剰の変化に関する知識を問う問題です。
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
関税の大幅な引き下げによる余剰の変化
関税の大幅な引き下げによって農産物の価格が「P1」に下落すると、消費者による需要量は「Q2」から「Q3」に増加して、生産者による供給量は「Q2」から「Q1」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「超過需要」となりますが、供給量の不足分(Q3-Q1)は輸入財により賄われます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
また、関税の大幅な引き下げが行われる前と比較すると「社会的総余剰(総余剰)」は増加します。
したがって、「生産者余剰」は減少して「消費者余剰」は増加して「社会的総余剰(総余剰)」は増加します。また、輸入量は「Q3-Q1」となるため、選択肢(イ)に記述されている内容が適切です。
答えは(イ)です。
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