今回は、「経済学・経済政策 ~H29-15 利潤最大化仮説(5)等費用線~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成29年度一次試験問題一覧~
平成29年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
等費用線・等産出量曲線(等量曲線)・費用最小化点 -リンク-
本ブログにて「等費用線」「等産出量曲線(等量曲線)」「費用最小化点」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 等費用線・等産出量曲線(等量曲線)・費用最小化点のまとめ
- R4-16-1 利潤最大化仮説(6)等費用線
- R1-15-1 利潤最大化仮説(1)等費用線
- R1-15-2 利潤最大化仮説(2)費用最小化点
- H30-18-1 利潤最大化仮説(3)費用最小化点
- H30-18-2 利潤最大化仮説(4)費用最小化点と技術的限界代替率
等費用線
「等費用線」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「総費用が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
等費用線
等費用線の求め方
「等費用線」の求め方について説明します。
生産活動において発生する「総費用(TC)」は、労働量の要素である「賃金率(w)」「労働投入量(L)」と、資本量の要素である「資本のレンタル価格(r)」「資本投入量(K)」を用いて、以下の式により求めることができます。
「等費用線」のグラフでは、縦軸に「資本投入量」を取るため、上記の式を「K=」という形に変形した以下の式が「等費用線」を表しています。
したがって「等費用線」は以下のように表すことができます。
等費用線
項目 | 説明 | 計算式 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r |
条件の変化に伴う等費用線のシフト
「賃金率(w)」「資本のレンタル価格(r)」「総費用(TC)」などの条件が変化すると「等費用線」はシフトします。
それぞれの条件が変化した場合に「等費用線」がどのようにシフトするのかを以下に説明していきます。
賃金率が変動する場合
賃金率が下落する場合
「賃金率(w)」が下落すると、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」が大きくなり「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が小さくなるため、「等費用線」は以下の通り右方に拡大します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w↓ ÷ r | 小さくなる↓ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w↓ | 大きくなる↑ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r | 変化しない |
賃金率が下落した場合
賃金率が上昇する場合
「賃金率(w)」が上昇すると、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」が小さくなり「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が大きくなるため、「等費用線」は以下の通り左方に縮小します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w↑ ÷ r | 大きくなる↑ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w↑ | 小さくなる↓ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r | 変化しない |
賃金率が上昇した場合
資本のレンタル価格が変動する場合
資本のレンタル価格が下落する場合
「資本のレンタル価格(r)」が下落すると、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」は変わりませんが、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」と「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が大きくなるため、「等費用線」は以下の通り上方に拡大します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r↓ | 大きくなる↑ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w | 変化しない |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r↓ | 大きくなる↑ |
資本のレンタル価格が下落した場合
資本のレンタル価格が上昇する場合
「資本のレンタル価格(r)」が上昇すると、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」は変わりませんが、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」と「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が小さくなるため、「等費用線」は以下の通り下方に縮小します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r↑ | 小さくなる↓ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w | 変化しない |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r↑ | 小さくなる↓ |
資本のレンタル価格が上昇した場合
総費用が変動する場合
総費用が増加する場合
「総費用(TC)」が増加すると、「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」と「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」が大きくなるため、「等費用線」は以下の通り右上方に平行シフトします。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r | 変化しない |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC↑ ÷ w | 大きくなる↑ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC↑ ÷ r | 大きくなる↑ |
総費用が増加した場合
総費用が減少する場合
「総費用(TC)」が減少すると、「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」と「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」が小さくなるため、「等費用線」は以下の通り左下方に平行シフトします。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r | 変化しない |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC↓ ÷ w | 小さくなる↓ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC↓ ÷ r | 小さくなる↓ |
総費用が減少した場合
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成29年度 第15問】
下図には、等費用線が描かれている。この等費用線に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 資本のレンタル価格が上昇する場合、横軸上の切片Bは不変のままで、縦軸上の切片Aが上方に移動する。
イ 縦軸上の切片Aは、資本の最大投入可能量を示している。
ウ 賃金率が上昇する場合、横軸上の切片Bは不変のままで、縦軸上の切片Aが下方に移動する。
エ 費用が減少すると、等費用線は右方にシフトする。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
等費用線に関する知識を問う問題です。
「等費用線」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「総費用が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
生産活動において発生する「総費用(TC)」は、労働量の要素である「賃金率(w)」「労働投入量(L)」と、資本量の要素である「資本のレンタル価格(r)」「資本投入量(K)」を用いて、以下の式により求めることができます。
「等費用線」のグラフでは、縦軸に「資本投入量」を取るため、上記の式を「K=」という形に変形した以下の式が「等費用線」を表しています。
したがって「等費用線」は以下のように表すことができます。
等費用線
項目 | 説明 | 計算式 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r |
(ア) 不適切です。
「資本のレンタル価格(r)」が上昇しても「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」は変わりませんが、「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」と「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が小さくなるため、「等費用線」は以下の通り下方に縮小します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r↑ | 小さくなる↓ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w | 変化しない |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r↑ | 小さくなる↓ |
資本のレンタル価格が上昇した場合
したがって、資本のレンタル価格が上昇する場合、横軸上の切片Bは不変のままですが、縦軸上の切片Aが上方ではなく下方に移動するため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
「等費用線」とは、生産活動において発生する費用である「資本」と「労働」という2つの生産要素を考えた場合、縦軸に「資本投入量」を、横軸に「労働投入量」を取ったグラフで表される「総費用が等しくなる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
等費用線
項目 | 説明 | 計算式 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r |
「等費用線」の縦軸の切片は、労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量であり「総費用 ÷ 資本のレンタル価格( TC ÷ r )」により求めることができます。
「労働の投入量がゼロである」ということは、全ての費用を資本の投入に充てることができるということであるため、資本の最大投入量を示しています。
したがって、縦軸上の切片Aは、資本の最大投入可能量を示しているため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
「賃金率(w)」が上昇しても「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」が小さくなり「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」が大きくなるため、「等費用線」は以下の通り左方に縮小します。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w↑ ÷ r | 大きくなる↑ |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC ÷ w↑ | 小さくなる↓ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC ÷ r | 変化しない |
賃金率が上昇した場合
したがって、賃金率が上昇する場合、横軸上の切片Bは不変のままで、縦軸上の切片Aが下方に移動するのではなく、縦軸上の切片Aは不変のままで、横軸上の切片Bは左方に移動するため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「総費用(TC)」が減少しても「等費用線の傾きの絶対値( w ÷ r )」は変わりませんが、「資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量(横軸の切片)( TC ÷ w )」と「労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量(縦軸の切片)( TC ÷ r )」が小さくなるため、「等費用線」は以下の通り左下方に平行シフトします。
項目 | 説明 | 計算式 | 値の変化 |
等費用線の傾き | 生産要素(資本と労働)の価格比 | w ÷ r | 変化しない |
横軸の切片 | 資本の投入量がゼロである場合の労働の投入量 | TC↓ ÷ w | 小さくなる↓ |
縦軸の切片 | 労働の投入量がゼロである場合の資本の投入量 | TC↓ ÷ r | 小さくなる↓ |
総費用が減少した場合
したがって、費用が減少すると、等費用線は右方ではなく左方(左下方)に平行シフトするため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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