今回は、「事例Ⅲ ~令和2年度 解答例(3)(第2問)~」について説明します。
目次
事例Ⅲ ~令和2年度試験問題一覧~
令和2年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第2問
第2問(配点40点)
C社の大きな悩みとなっている納期遅延について、以下の設問に答えよ。
(設問1)
C社の営業部門で生じている(a)問題点と(b)その対応策について、それぞれ60字以内で述べよ。
(設問2)
C社の製造部門で生じている(a)問題点と(b)その対応策について、それぞれ60字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
解答の方向性
第2問では、納期遅延の発生に影響している営業部門と製造部門の問題点を整理し、その解決策を助言する能力を問われています。
営業部門については、与件文全体を見ても問題点とその対応策について記述されている箇所は少ないため、【業務プロセス】に記述されている内容を参考とすればよいと気付くことができると思います。
しかし、製造部門については、【業務プロセス】と【生産の現状】に数多くの問題点が記述されており、すべての記述が納期遅延に結び付いてしまうため、どれを採用して「第2問」の解答とすればよいのか判断するのが非常に難しくなっています。
私は、【業務プロセス】に記述されている製造部門の問題点を何度も読み返して、「第2問」では「複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品」の納期遅延に対する対応策として「生産計画の作成方法の改善」を解答することとし、C社が製作する全ての製品を対象とした納期遅延に対する対応策については、「第3問」「第4問」の解答に盛り込むこととしました。
与件文で関連しそうな箇所
与件文では、2ページ全般と3ページの中盤に記述されています。
【業務プロセス】の「4段落目」に記述されている内容から「営業部門と製造部門で生じている問題点」を抽出していきます。
「営業部門で生じている問題点の対応策」については【業務プロセス】の「2段落目」に記述されている内容から解答を抽出していき、「製造部門で生じている問題点の対応策」については【生産の現状】の「3段落目」に記述されている「生産計画の作成方法」から解答を抽出していきます。
問題文の中では、以下の部分が該当します。
詳細に示すと以下の通りとなります。
業務プロセス
- 受注、設計、据付工事施工管理は営業部が担当する。顧客から引き合いがあると、受注製品ごとに受注から引き渡しに至る営業部担当者を決め、顧客から提供される設計図や仕様書などを基に、製作仕様と納期を確認して見積書を作成・提出し、契約締結後、製作図および施工図を作成して顧客承認を得る。通常、製作図および施工図の顧客承認段階では、仕様変更や図面変更などによって顧客とのやりとりが多く発生する。特にモニュメント製品では、造形物のイメージの摺合わせに時間を要する場合が多く、図面承認後の製作段階でも打ち合わせが必要な場合がある。設計には2次元CADを早くから使用している。
⇒「製作図および施工図の顧客承認段階では、仕様変更や図面変更などによって顧客とのやりとりが多く発生する」と記述されています。
また、「特にモニュメント製品では、造形物のイメージの摺合わせに時間を要する場合が多く、図面承認後の製作段階でも打ち合わせが必要な場合がある」と記述されています。
これらの問題は「2次元CAD」ではなく「3次元CAD」を導入すれば改善できるのではないかと想像することができます。
- その後、製作図を製造部に渡すことにより製作指示をする。製作終了後、据付工事があるものについては、営業部担当者が施工管理して据付工事を行い、検査後顧客に引き渡す。据付工事は社外の協力会社に依頼し、施工管理のみ社内営業部担当者が行っている。
⇒あまり情報はありませんが、製作図および施工図を作成して顧客承認を得た後、営業部門から製造部門に業務が引き渡されると記述されています。
- 契約から製品引き渡しまでのリードタイムは、平均約2か月である。最終引き渡し日が設定されているが、契約、図面作成、顧客承認までの製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないことや、複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーするなど、納期の遅延が生じC社の大きな悩みとなっている。
⇒営業部門で生じている問題は「契約、図面作成、顧客承認までの製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないこと」であり、製造部門で生じている問題点は「複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーすること」であると明確に記述されています。この段落に記述されている内容に基づき「問題点」を整理していきます。
生産の現状
- 生産計画は、製造部長が月次で作成している。月次生産計画は、営業部の受注情報、設計担当者の製品仕様情報によって、納期順にスケジューリングされるが、溶接・組立工程と研磨工程は加工の難易度などを考慮して各作業チームの振り分けを行いスケジューリングされる。C社の製品については基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない。
⇒「C社の製品については基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない」というのは明らかに改善すべき問題となりそうです。
また、「溶接・組立工程と研磨工程は加工の難易度などを考慮して各作業チームの振り分けを行いスケジューリングされる」と記述されています。「切断加工工程と曲げ加工工程はNC加工機による加工」であり「溶接・組立工程と研磨工程は溶接機や研磨機を用いた手作業」であるため、作業の性質が異なるのだとは思いますが、生産計画は、全ての製品および全ての工程を対象にして立案されるべきです。(事例Ⅲ ~①生産管理~)
この辺りが、製造部門で生じている問題点の対応策になると考えられます。
納期遅延の問題点と対応策
与件文から抽出した内容に基づき「営業部門」と「製造部門」で生じている「問題点」と「その対応策」をまとめていきます。
営業部門で生じている問題点とその対応策
「営業部門」で生じている「問題点」と「その対応策」をまとめていきます。
問題点
営業部門で生じている問題点は「契約、図面作成、顧客承認までの製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないこと」であると明確に記述されています。
なぜ、「契約、図面作成、顧客承認までの製作前プロセス」に時間を要するのかを表現するため、「顧客とのやりとりが多く発生する顧客承認までの製作前プロセス」という言葉に置き換えます。
- 問題点は、顧客とのやりとりが多く発生する顧客承認までの製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないことである。(59文字)
文字数も、ぴったりと一致します。
対応策
営業部門で生じている問題点の対応策について考えていきます。
営業担当者は、契約締結後、製作図および施工図を作成して顧客承認を得るまでの製作前プロセスを対応していますが、顧客承認を得る段階では、仕様変更や図面変更などによって顧客とのやりとりが多く、特に、造形物のイメージの摺合わせに時間を要する場合が多いと記述されています。
この問題を解決するためには、設計に使用している「2次元CAD」から「3次元CAD」に切り替えることが有効だと想像することができます。
これらを踏まえて、営業部門で生じている問題点の対応策をまとめていきます。
- 3次元CADを導入して、3次元CADを用いて顧客と造形物のイメージを摺合わせることにより、顧客とのやり取りを減らして、顧客承認までの製作前プロセスに要する時間の短縮を図り、製作期間を十分に確保する。(97文字)
文章が長すぎるため、簡潔にします。
- 3次元CADを導入して、顧客と造形物のイメージを摺合わせることで顧客とのやり取りを減らし、顧客承認までに要する時間の短縮を図り、製作期間を十分に確保する。(76文字)
- 3次元CADを導入して造形物のイメージを摺合わせることで顧客とのやり取りを減らし承認までの時間を短縮して製作期間を確保する。(60文字)
こんな感じでしょうか。
最初は「事例Ⅱ」みたいだなと思いつつも、以下のような解答案を作成しました。
- 製作図と施工図を作成して顧客承認を得る工程と確定した仕様に基づき製品を製作する工程を別契約として製作期間を十分に確保する。(60文字)
私が携わっているIT業界では「顧客の要件が明確になっていない状態では精度の高い工数を見積もれないため、「要件定義工程」を「準委任契約」で締結して、「要件定義工程」が完了して要件が確定した後の「設計構築工程」は、精度の高い工数を見積もって「請負契約」で締結する」という風に契約を分割する考え方が一般的になってきています。
しかし、インターネットで調べてみると、この考え方はまだ「IT業界特有」の考え方なんですかね。
製造部門で生じている問題点とその対応策
「製造部門」で生じている「問題点」と「その対応策」をまとめていきます。
問題点
製造部門で生じている問題点は「複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーすること」であると明確に記述されています。
- 問題点は、複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーすることである。(59文字)
文字数も、ぴったりと一致します。
対応策
製造部門で問題が生じるパターンには、以下の2通りが考えられます。
- 生産計画の作成方法に問題があり、その精度が低い。
- 製作工程に問題があり、生産計画通りに製作することができない。
製造部門で生じている問題点は「複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーすること」であり、「高度な加工技術が必要ではない製品においては製作期間が生産計画をオーバーしていない」と言い換えることができます。
「高度な加工技術が必要な製品」と「高度な加工技術が必要ではない製品」により異なるということは、「高度な加工技術が必要な製品」の生産計画を作成する方法に問題があると考えられるため、「高度な加工技術が必要な製品」の生産計画の作成方法に注目して対応策を考えていくこととします。
- 生産計画は、製造部長が月次で作成している。
- 月次生産計画は、営業部の受注情報、設計担当者の製品仕様情報によって、納期順にスケジューリングされるが、溶接・組立工程と研磨工程は加工の難易度などを考慮して各作業チームの振り分けを行いスケジューリングされる。
- C社の製品については基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない。
生産計画を月次で作成していることが納期遅延の原因だという記述は見当たらないため、それ以外の内容について対応策を考えていきます。
最初に、基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立していないため、標準化を確立する必要があります。
基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化を確立すれば、標準化された「工数見積もり」には製品の加工の難易度が考慮されているため、「工数見積もり」に基づき生産計画を作成すれば、難易度も織り込むことができます。
当然、「工数見積もり」だけではなく「納期」も考慮する必要があるため、「納期」という単語も漏れないようにします。
あとは、生産計画は「溶接・組立工程と研磨工程」だけでなく「全行程」の「工数見積もり」に基づき作成する必要があるということでしょうか。(事例Ⅲ ~①生産管理~)
これらを踏まえて、製造部門で生じている問題点の対応策をまとめていきます。
- 基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化を確立して、全行程の工数見積もりと納期を考慮して各作業チームの振り分けを行いスケジューリングすることで、複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品の生産計画の精度を高める。(107文字)
文章が長すぎるため、簡潔にします。
- 工程順序や工数見積もりの標準化を確立して、全行程の工数見積もりと納期を考慮してスケジューリングすることで、高度な加工技術が必要な製品の生産計画の精度を高める。(79文字)
- 工程順序や工数見積もりの標準化を行い全行程の工数見積もりと納期を考慮してスケジューリングすることで生産計画の精度を高める。(60文字)
こんな感じでしょうか。
考え方によっては「高度な加工技術が必要な製品だけ製作期間が生産計画をオーバーする」ということは「高度な加工技術が必要な製品の生産能力が不足している」と捉えることもできます。
その場合の対応策は「作業チームの再編成により技術力の平準化を図り生産能力を向上する」という感じでしょうか。私の場合は、この観点は「第4問」の解答に盛り込んでいます。
解答例
C社の営業部門と製造部門で生じている問題点とその対応策は以下の通りです。
設問1
C社の営業部門で生じている問題点とその対応策は以下の通りです。
(a)営業部門で生じている問題点
問題点は、顧客とのやりとりが多く発生する顧客承認までの製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないことである。(60文字) |
(b)営業部門で生じている問題点の対応策
3次元CADを導入して造形物のイメージを摺合わせることで顧客とのやり取りを減らし承認までの時間を短縮して製作期間を確保する。(60文字) |
設問2
C社の製造部門で生じている問題点とその対応策は以下の通りです。
(a)製造部門で生じている問題点
問題点は、複雑な形状など高度な加工技術が必要な製品などの受注内容によって、製作期間が生産計画をオーバーすることである。(59文字) |
(b)製造部門で生じている問題点の対応策
工程順序や工数見積もりの標準化を行い全行程の工数見積もりと納期を考慮してスケジューリングすることで生産計画の精度を高める。(60文字) |
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