今回は、「財務・会計 ~R2-8 無形固定資産の会計処理(1)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和2年度一次試験問題一覧~
令和2年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業結合(のれん) -リンク-
本ブログにて「企業結合(のれん)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
ソフトウェアの会計処理 -リンク-
本ブログにて「ソフトウェアの会計処理」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
無形固定資産
「無形固定資産」とは、具体的な形態を持たないが長期に渡って会社の収益力となる資産のことをいいます。
無形固定資産の事例
「無形固定資産」は、法律上の権利およびこれに準じる「法的資産」と、法律上の権利ではないが経済的優位性を表す「経済的資産」に分類することができます。
「経済的資産」には、買収、合併、吸収分割により取得した企業の「超過収益力」を表す「のれん」があります。「超過収益力」とは、企業が有している「優秀な技術力」や「知名度(ブランド力)」などにより、収益力が同業他社に比べて優れている場合の「収益力の差」を示しています。
現行の会計制度では、他の企業の事業を有償で取得した場合は、その「超過収益力」を「のれん」として「無形固定資産」に計上することができますが、自社の「超過収益力」を「無形固定資産」に計上することは認められていません。
法的資産 | 特許権 | 特許法に基づいて登録された発明(発明とは、自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの)を、排他的に利用できる権利 |
商標権 | 商標法に基づいて登録された商標(文字、図形、記号)を、排他的に利用できる権利 | |
実用新案権 | 実用新案法に基づいて登録された産業上の物品の形状、構造、組合せに関する考案を、排他的に利用できる権利 | |
意匠権 | 意匠法に基づいて登録された意匠(計上、模様、色彩)を、排他的に利用できる権利 | |
借地権 | 建物の所有を目的とする地上権および土地の貸借権 | |
鉱業権 | 一定の鉱区において登録を受けた鉱物を採取できる権利 | |
ソフトウェア | プログラム等を利用、販売できる権利 | |
リース資産 | リース取引により使用している資産 | |
経済的資産 | のれん | 買収、合併、吸収分割により取得した企業の超過収益力 |
無形固定資産の減価償却
「無形固定資産」は、有形固定資産と同様に、減価償却を行うことにより費用配分を行います。
「無形固定資産」は、残存価値を「ゼロ」として「定額法」により減価償却を行います。
貸借対照表に「無形固定資産」を表示する場合は、取得原価から減価償却累計額を控除した価額で記載(直接法)します。
なお、以下の「無形固定資産」は「定額法」以外の方法で減価償却を行うことができます。
- 鉱業権
「生産高比例法」を用いて減価償却を行うことができる。 - ソフトウェア
「見込販売数量」に基づき減価償却を行うことができる。
企業結合(のれん)の会計処理
企業結合(のれん)に関する会計処理は「企業結合に関する会計基準」の中で定められています。
「企業結合に関する会計基準」では、企業結合に該当する取引を以下の3種類に分類しています。
- 取得
「取得」とは、ある企業が他の企業に対する支配を獲得することをいい、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の企業結合をいう。 - 共同支配企業の形成
「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいう。 - 共同支配事業の取引
結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう。親会社と子会社の合併及び子会社同士の合併は、共通支配下の取引に含まれる。
取得
「取得」とは、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の全ての企業結合と定義されているため非常に範囲が広いですが、一番イメージしやすいのは企業の買収であり、ある企業が他の企業に対する支配を獲得することをいいます。
企業を買収する場合、買収する側の企業を「取得企業」といい、買収される側の企業を「被取得企業」といいます。(厳密にはもう少し細かい定義があります。)
企業(取得企業)は買収することによって、企業そのものだけでなく、買収される側の企業(被取得企業)の信用力や技術力といった見えないブランド力を手に入れることができます。このように、見えない価値であるブランド力を金額に換算したものを「のれん」といいます。
例えば、「純資産(資産-負債)」が「100億円」の企業を「120億円」で買収した場合は、被取得企業の純資産だけではなく、金額としては現れないブランド力を「20億円」で手に入れたと考えます。この金額を「のれん」といいます。
また、「純資産(資産-負債)」が「100億円」の企業を「80億円」で買収した場合は、被取得企業の純資産を「20億円分」分割安で手に入れたと考えます。この金額を「負ののれん」といいます。
のれんの会計処理
「のれん」が生じた場合は、貸借対照表に「無形固定資産」として計上します。
「のれん」は、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却を行い、「販売費及び一般管理費」として計上します。
ただし、「のれん」の金額に重要性が乏しい場合には「のれん」が生じた事業年度の損益計算書において費用として処理することもできます。
負ののれんの会計処理
「負ののれん」は、原則として「負ののれん」が生じた事業年度の損益計算書において「特別利益」として計上します。
研究開発費の会計処理
研究開発費の会計処理は、「研究開発費等に係る会計基準」によって定められており、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」によって、企業が実務に適用する際の具体的な手順等が定められています。
ここでは、「研究開発の会計処理」について説明を行い、「ソフトウェアの会計処理」については、次項で説明します。
研究開発の定義
「研究開発」とは「新製品の計画・設計または既存製品の著しい改良等のために発生する費用」のことをいいます。
「研究」と「開発」に分割すると、「研究」とは「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査や探究のこと」であり、「開発」とは「新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計、または既存の製品・サービス・生産方法を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」です。
「研究」や「開発」に該当する事例は以下の通りです。
- 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探求
- 新しい知識の調査・探求の結果を受け、製品化又は業務化等を行うための活動
- 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
- 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
- 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
- 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
- 新製品の試作品の設計・製作及び実験
- 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
- 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
研究開発費の会計処理
「研究開発費」には、人件費、原材料費、間接費の配賦額など研究開発により発生した全ての費用が含まれますが、一般的に原価性がないものと考えられるため、通常は「一般管理費」として発生した期の費用に計上します。
ただし、製造現場において研究開発活動が行われ、かつその研究開発に要した費用を一括して製造現場で発生する原価に含めて計上しているような場合もあることから、「研究開発費」を「製造費用」とすることも認められています。
また、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない設備や特許権などを取得した場合の原価は、設備や特許権などを取得したときの「研究開発費」として会計処理を行います。
ソフトウェアの会計処理
ソフトウェアの会計処理は、「研究開発費等に係る会計基準」によって定められており、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」によって、企業が実務に適用する際の具体的な手順等が定められています。
ソフトウェアの制作費は、その目的によって収益との対応関係が異なるため、制作目的に応じて異なる会計処理を行います。
ソフトウェアの概念・範囲
「ソフトウェア」とは「コンピュータ・ソフトウェア」のことをいい、その範囲には、プログラムだけではなく、関連文書も含まれます。
- コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム
- システム仕様書、フローチャート等の関連文書
ソフトウェアの区分
ソフトウェアの会計処理は、ソフトウェアの制作目的などの要素によって適用される処理方法が異なります。
書籍等で紹介される場合は、ソフトウェアの会計処理は、制作目的によって「受注制作のソフトウェア」「販売目的のソフトウェア」と「自社利用のソフトウェア」の3つに区分されると説明されていますが、実際にはさらに細かく区分され、それぞれの会計処理が異なります。
ソフトウェアの区分体系
- 販売目的のソフトウェア
- 受注制作のソフトウェア
- 市場販売目的のソフトウェア
- 製品マスター完成までの費用
- 製品マスター完成後の費用
- 自社利用のソフトウェア
- 顧客にサービス提供するために自社で利用するソフトウェア
- 社内の管理目的のために自社で利用するためのソフトウェア
- 完成したソフトウェアを購入した場合
- 自社制作または委託によりソフトウェアを制作した場合
販売目的のソフトウェア
「販売目的のソフトウェア」は、以下の2種類に区分されます。
「市場販売目的のソフトウェア」については、発生した費用の作業目的によって会計処理がさらに細かく定められています。
ソフトウェアの種類 | 説明 |
受注制作 | ユーザーから受託して特定の仕様で制作したソフトウェア |
市場販売目的 | ソフトウェアの製品マスターを複製して不特定多数のユーザーにパッケージとして販売するソフトウェア |
受注制作のソフトウェア
「受注制作のソフトウェア」は、販売先のユーザーから受託して、ユーザーから要望された特定の仕様で制作するソフトウェアのことをいいます。
「受注制作のソフトウェア」の制作費用は、請負工事の会計処理に準じて処理します。
また、「受注制作のソフトウェア」については、ソフトウェアが完成していない段階でも、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」により収益の認識を行うことが認められています。
市場販売目的のソフトウェア
「市場販売目的のソフトウェア」は、ソフトウェアの製品マスターを制作した後、それを複製して不特定多数のユーザーに販売するパッケージなどのことをいいます。
「市場販売目的のソフトウェア」ついては、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち「最初に製品化された製品マスター」が完成するまでの費用と完成した後の費用で、その会計処理が異なります。
「最初に製品化された製品マスター」が完成した時点とは、具体的に以下の2点によって判断します。
- 製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成していること
- プロトタイプを制作しない場合は、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消していること
製品マスター完成までの費用
「研究開発」とは、新しい知識を具体化するまでの過程であり、ソフトウェアの制作過程においては、「最初に製品化された製品マスター」を完成させるまでの制作活動が「研究開発」として位置づけられています。
「市場販売目的のソフトウェア」の「最初に製品化された製品マスター」が完成するまでに要した制作費用は「研究開発費」として費用処理します。
内容 | 会計処理 |
製品マスターが完成するまでに要した制作費用 | 費用処理 (研究開発費) |
製品マスター完成後の費用
「市場販売目的のソフトウェア」の「最初に製品化された製品マスター」が完成した後に発生した制作費用は、その内容によって会計処理が細かく異なります。
内容 | 会計処理 | |
機能の改良・強化を行う制作費用 | 著しい改良 | 費用処理 (研究開発費) |
それ以外 | 無形固定資産 | |
バグ取り等、機能維持に要した費用 | 費用処理 (修繕費など) |
自社利用のソフトウェア
「自社利用のソフトウェア」は、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められるか否かによって、その会計処理が異なります。
将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は、将来の収益との対応等の観点から、その取得に要した費用を「無形固定資産」として計上して、その利用期間にわたり減価償却を行い、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
「自社利用のソフトウェア」は、「顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア」と「社内の業務遂行を効率的に行うなど、社内の管理目的のために自社で利用するソフトウェア」に区分されます。
顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア
「顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア」については、将来の収益獲得が確実であると認められるため「無形固定資産」に計上します。
内容 | 会計処理 |
顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア | 無形固定資産 |
社内の管理目的のために自社で利用するソフトウェア
「社内の業務遂行を効率的に行うなど、社内の管理目的等で自社で利用するソフトウェア」については、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は「無形固定資産」として計上し、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
内容 | 会計処理 | |
完成したソフトウェアを購入した場合 | 無形固定資産 | |
独自仕様のソフトウェアを制作した場合 | 収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合 | 無形固定資産 |
収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合 | 費用処理 |
完成したソフトウェアを購入した場合
「社内利用のソフトウェア」として完成品を購入した場合、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められるため「無形固定資産」に計上します。
なお、機械装置等に組み込まれているソフトウェアを購入した場合は、当該機械装置等に含めて「有形固定資産」として計上します。
自社制作または委託によりソフトウェアを制作した場合
独自仕様の社内利用ソフトウェアを自社で制作する場合または外部委託により制作する場合、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は「無形固定資産」として計上し、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
ソフトウェアの減価償却
「無形固定資産」として計上したソフトウェアは、有形固定資産と同様に、減価償却を行うことにより費用配分を行います。
減価償却は、ソフトウェアの用途に応じて設定された耐用年数で「定額法」により行います。
なお、貸借対照表に「無形固定資産」を表示する場合は、取得原価から減価償却累計額を控除した価額で記載(直接法)します。
ソフトウェアの用途 | 耐用年数 |
販売目的の原本となるソフトウェア | 3年 |
研究開発用のソフトウェア | 3年 |
それ以外のソフトウェア | 5年 |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和2年度 第8問】
無形固定資産の会計に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 自社が長年にわたり築き上げたブランドにより、同業他社に比べ高い収益性を獲得している場合には、これを無形固定資産に計上することができる。
イ 自社の研究開発活動により特許権を取得した場合には、それまでの年度に支出された研究開発費を戻し入れ、無形固定資産として計上しなければならない。
ウ 受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理され、無形固定資産に計上されない。
エ のれんとして資産計上された金額は、最長10年にわたり、規則的に償却される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
無形固定資産の会計処理に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「無形固定資産」は、法律上の権利およびこれに準じる「法的資産」と、法律上の権利ではないが経済的優位性を表す「経済的資産」に分類することができます。
「経済的資産」には、買収、合併、吸収分割により取得した企業の「超過収益力」を表す「のれん」があります。「超過収益力」とは、企業が有している「優秀な技術力」や「知名度(ブランド力)」などにより、収益力が同業他社に比べて優れている場合の「収益力の差」を示しています。
現行の会計制度では、他の企業の事業を有償で取得した場合は、その「超過収益力」を「のれん」として「無形固定資産」に計上することができますが、自社の「超過収益力」を「無形固定資産」に計上することは認められていません。
したがって、自社が長年にわたり築き上げたブランドにより、同業他社に比べ高い収益性を獲得している場合でも、これを無形固定資産に計上することはできないため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「研究開発費」には、人件費、原材料費、間接費の配賦額など研究開発により発生した全ての費用が含まれますが、一般的に原価性がないものと考えられるため、通常は「一般管理費」として発生した期の費用に計上します。
ただし、製造現場において研究開発活動が行われ、かつその研究開発に要した費用を一括して製造現場で発生する原価に含めて計上しているような場合もあることから、「研究開発費」を「製造費用」とすることも認められています。
また、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない設備や特許権などを取得した場合の原価は、設備や特許権などを取得したときの「研究開発費」として会計処理を行います。
したがって、研究開発費は発生した期の費用として計上され、自社の研究開発活動により特許権を取得した場合でも、それまでの年度に支出された研究開発費を戻し入れることはないため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 適切です。
「受注制作のソフトウェア」は、販売先のユーザーから受託して、ユーザーから要望された特定の仕様で制作するソフトウェアのことをいいます。
「受注制作のソフトウェア」の制作費用は、請負工事の会計処理に準じて処理します。
また、「受注制作のソフトウェア」については、ソフトウェアが完成していない段階でも、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」により収益の認識を行うことが認められています。
したがって、受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理され、無形固定資産に計上されないため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
「のれん」が生じた場合は、貸借対照表に「無形固定資産」として計上します。
「のれん」は、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却を行い、「販売費及び一般管理費」として計上します。
ただし、「のれん」の金額に重要性が乏しい場合には「のれん」が生じた事業年度の損益計算書において費用として処理することもできます。
したがって、のれんとして資産計上された金額は、最長10年ではなく最長20年にわたり、規則的に償却されるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ウ)です。
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