今回は、「財務・会計 ~R2-5 固定資産の減損会計(3)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和2年度一次試験問題一覧~
令和2年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
固定資産の減損会計 -リンク-
「固定資産の減損会計」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
固定資産の減損会計とは
固定資産の減損会計は「固定資産の減損に係る会計基準」によって定められた会計処理であり、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった固定資産を対象に、固定資産の帳簿価額を「回収可能価額」まで減額して、帳簿価額と回収可能価額との差額を「特別損失」として計上することをいいます。
固定資産の減損処理は、将来に損失を繰り延べないために、減損損失を認識した段階で実施する必要があります。
固定資産の減損会計手順
固定資産の減損会計は「減損の兆候の把握」を行い、「減損の兆候がある」と判定された場合は「減損損失の認識」を行い、「減損損失を認識する」と判定された場合は「減損損失の測定と計上」を行うという手順を踏んで実行されます。
減損の兆候の把握
資産または資産グループについて、「減損の兆候(減損が生じている可能性を示す事象)」があるかどうかを判定します。減損の兆候に関する事例は以下の通りです。
- 資産または資産グループを使用した営業活動の損益またはキャッシュフローが継続してマイナスとなっているか、あるいは継続してマイナスとなる見込みがあること
- 資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは生じる見込みがあること
- 資産または資産グループを使用した事業の経営環境が著しく悪化したか、悪化する見込みがあること
- 資産または資産グループの市場価値が著しく低下したこと
減損損失の認識
「減損の兆候がある」と判定された資産または資産グループについて、減損損失を認識するかどうかを判定します。
具体的には、資産または資産グループの帳簿価額と、当該資産をそのまま使い続けた場合に得られる収益と処分に必要な見込み費用を合計した割引前将来キャッシュフローとを比較して行います。
資産または資産グループの収益性(割引前将来キャッシュフロー)が、帳簿価額よりも低くなっている場合は、減損損失を認識することとなります。
- 帳簿価額 ≦ 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識しない
- 帳簿価額 > 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識する
減損損失の測定と計上
「減損損失を認識する」と判定された資産または資産グループについて、貸借対照表における固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額して、帳簿価額と回収可能価額との差額を損益計算書において「特別損失」として計上します。
なお、固定資産の減損処理を行った場合は、その後収益性の回復が認められたとしても戻し入れは行いません。
回収可能価額
ここでいう「回収可能価額」とは、「正味売却価額」と「使用価値(将来キャッシュ・フローの割引現在価値)」のいずれか高い方の金額と定義されています。
- 正味売却価額
資産または資産グループを売却した場合の価額であり、その時価から処分に必要な見込み費用を控除した金額をいいます。 - 使用価値
資産または資産グループをそのまま使い続けた場合に得られる収益と処分に必要な見込み費用を合計した将来キャッシュフローの割引現在価値をいいます。
「減損損失の認識」においては、資産または資産グループの帳簿価額と「割引前将来キャッシュフロー」を比較します。その後、「減損損失の測定と計上」において帳簿価額を回収可能価額まで減額しますが、この時の回収可能価額には正味売却価額か使用価値(割引後将来キャッシュフロー)の高い方を採用します。
「割引前」か「割引後」かについて注意が必要です。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和2年度 第5問】
固定資産X、YおよびZに減損の兆候がみられる。以下の表に基づき、減損損失を認識すべきものの組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
(単位:千円) 帳簿価額 割引前将来キャッシュ・フローの総額 正味売却価額 使用価値 X 2,800 2,400 1,300 1,400 Y 3,100 3,300 2,700 2,300 Z 4,500 3,900 3,400 3,200
[解答群]
ア X、YおよびZ
イ XおよびY
ウ XおよびZ
エ YおよびZ中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「固定資産の減損会計」の「減損損失の認識」に関する知識を問う問題です。
問題文の表には「帳簿価額」「割引前将来キャッシュ・フローの総額」「正味売却価」「使用価値」が与えられていますが、「減損損失の認識」の判定には「帳簿価額」「割引前将来キャッシュ・フローの総額」だけを使用します。
減損損失の認識
「減損の兆候がある」と判定された資産または資産グループについて、減損損失を認識するかどうかを判定します。
具体的には、資産または資産グループの帳簿価額と、当該資産をそのまま使い続けた場合に得られる収益と処分に必要な見込み費用を合計した割引前将来キャッシュフローとを比較して行います。
資産または資産グループの収益性(割引前将来キャッシュフロー)が、帳簿価額よりも低くなっている場合は、減損損失を認識することとなります。
- 帳簿価額 ≦ 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識しない
- 帳簿価額 > 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識する
「固定資産X Y Z」の「帳簿価額」と「割引前将来キャッシュ・フローの総額」を比較して、減損損失を認識するかどうかを判定します。
帳簿価額 | 大小比較 | 割引前将来キャッシュ・フローの総額 | 減損損失の認識 | |
X | 2,800 | > | 2,400 | 減損損失を認識する |
Y | 3,100 | < | 3,300 | 減損損失を認識しない |
Z | 4,500 | > | 3,900 | 減損損失を認識する |
したがって、減損損失を認識すべきものの組み合わせは「 X および Z 」です。
試験問題で求められているのはここまでですが、せっかくなので「減損損失の認識」以降の「減損損失の測定と計上」についても確認してみます。
固定資産の減損会計では、「減損損失を認識する」と判定された資産または資産グループについて、貸借対照表における固定資産の帳簿価額を「回収可能価額」まで減額して、帳簿価額と「回収可能価額」との差額を損益計算書において「特別損失」として計上します。
ここでいう「回収可能価額」とは、「正味売却価額」と「使用価値(将来キャッシュ・フローの割引現在価値)」のいずれか高い方の金額とされているため、減損損失を認識した「固定資産X Z」の「回収可能価額」は以下の通りです。
正味売却価額 | 使用価値 | 回収可能価額 | |
X | 1,300 | 1,400 | 1,400 |
Z | 3,400 | 3,200 | 3,400 |
また、「減損損失」は、「帳簿価額」と「回収可能価額」の差額として計上されるため、以下の式により求めることができます。
- 減損損失 = 帳簿価額 - 回収可能価額
したがって、「固定資産X Z」に対して減損処理を実施した後の「固定資産X Y Z」の「帳簿価額(貸借対照表)」と「減損損失(損益計算書)」は以下の通りです。
帳簿価額 (減損処理前) |
減損処理の認識 | 帳簿価額 (減損処理後) |
減損損失 | |
X | 2,800 | 認識 | 1,400 | 1,400 |
Y | 3,100 | - | 3,100 | - |
Z | 4,500 | 認識 | 3,400 | 1,100 |
合計 | 10,400 | 7,900 | 2,500 |
答えは(ウ)です。
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