事例Ⅳ ~令和元年度 解答例(8)(設備投資の経済性計算)~

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令和元年度の事例Ⅳの「第3問(設問3)」に関する解答例(案)を説明していきます。

私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。

 

昨日の記事「事例Ⅳ ~令和元年度 解答例(7)(設備投資の経済性計算)~」の続きです。

 

目次

事例Ⅳ ~令和元年度試験問題一覧~

令和元年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

設備投資の経済性計算

「設備投資の経済性計算」とは、企業が設備導入などの投資を検討する際に、その投資が企業に利益をもたらすのかを定量的に見極めていくために、投資に伴い発生するキャッシュ・フローを分析して、その投資を実行すべきか否かを判断することをいいます。

二次試験では、実際に与えられたデータから、プロジェクトへの投資額とプロジェクトにより得られるキャッシュフローを算出して、設備投資の意思決定モデルに基づきプロジェクトを実行すべきか否かを判断するというパターンの問題が出題されます。

 

第3問(設問3)

第3問(配点30点)

 

D社は、マーケット事業部の損益改善に向けて、木材の質感を生かした音響関連の新製品の製造販売を計画中である。当該プロジェクトに関する資料は以下のとおりである。

 

<資料>

大手音響メーカーから部品供給を受け、新規機械設備を利用して加工した木材にこの部品を取り付けることによって製品を製造する。

・新規機械設備の取得原価は20百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数5年、残存価値なし)。

・損益予測は以下のとおりである。

(単位:百万円)
第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
売上高 20 42 60 45 35
原材料費 8 15 20 14 10
労務費 8 12 12 11 6
減価償却費 4 4 4 4 4
その他の経費 5 5 5 5 5
販売費 2 3 4 3 2
税引前利益 -7 3 15 8 8

・キャッシュフロー予測においては、全社的利益(課税所得)は十分にあるものとする。また、運転資本は僅少であるため無視する。なお、利益(課税所得)に対する税率は30%とする。

 

(設問3)

<資料>記載の機械設備に替えて、高性能な機械設備の導入により原材料費および労務費が削減されることによって新製品の収益性を向上させることができる。高性能な機械設備の取得原価は30百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数5年、残存価値なし)。このとき、これによって原材料費と労務費の合計が何%削減される場合に、高性能の機械設備の導入が<資料>記載の機械設備より有利になるか、(a)欄に答えよ。(b)欄には計算過程を示すこと。なお、資本コストは5%であり、利子率5%のときの現価係数は(設問2)記載のとおりである。解答は、%表示で小数点第3位を四捨五入すること。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方(第3問 設問3)

昨日は、2つの投資案の差額CFから原材料費と労務費の合計の削減率を算出する方法(差額キャッシュフロー(差額CF)による解法)について説明しましたが、本日は「2つの投資案の正味現在価値を比較する解法」により高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の削減率を算出する方法について説明します。

 

2つの投資案の正味現在価値を比較する解法

「高性能の機械設備の導入による正味現在価値」と「通常の機械設備の導入による正味現在価値」を比較して、どちらの投資案が企業にとって有益であるかを確認していきます。

以下の計算式が成立する場合は、高性能の機械設備を導入する方が通常の機械設備よりも企業にとって有益であると判断することができます。

 

  • 正味現在価値(高性能の機械設備) > 正味現在価値(通常の機械設備)

 

正味現在価値の算出(高性能の機械設備を導入した場合)
損益予測

高性能の機械設備を導入した場合の損益予測について確認していきます。

通常の機械設備を導入した場合と比較すると、「原材料費」「労務費」「減価償却費」の数値が変化します。その結果「税引前利益」も変化します。

「原材料費」「労務費」の合計の削減率を「X」として算出することとします。

また、各期の減価償却費は、「取得原価(30百万円)÷ 耐用期間(5年)= 減価償却費(6百万円)」となります。

 

(単位:百万円)
第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
売上高 20 42 60 45 35
原材料費 16-16X 27-27X 32-32X 25-25X 16-16X
労務費
減価償却費 6 6 6 6 6
その他の経費 5 5 5 5 5
販売費 2 3 4 3 2
税引前利益 ▲9+16X 1+27X 13+32X 6+25X 6+16X

 

各期のキャッシュフロー

上記で算出した「税引前利益」と「減価償却費」を用いて「各期のキャッシュフロー」を算出します。

 

  • 第1期:( ▲9 + 16X )×( 1 - 30% )+ 6 = 11.2X - 0.3
  • 第2期:( 1 + 27X )×( 1 - 30% )+ 6 = 18.9X + 6.7
  • 第3期:( 13 + 32X )×( 1 - 30% )+ 6 = 22.4X + 15.1
  • 第4期:( 6 + 25X ) ×( 1 - 30% )+ 6 = 17.5X + 10.2
  • 第5期:( 6 + 16X )×( 1 - 30% )+ 6 = 11.2X + 10.2

 

プロジェクトにより得られるキャッシュフローの現在価値

「各期のキャッシュフロー」の割引現在価値を合計して、プロジェクトにより得られるキャッシュフローの割引現在価値を算出します。

 

  • 各期のキャッシュフローの割引現在価値
    ( 11.2X - 0.3 )× 0.952 +( 18.9X + 6.7 )× 0.907 +( 22.4X + 15.1 )× 0.864 +( 17.5X + 10.2 )× 0.823 +( 11.2X + 10.2 )× 0.784
    = 70.3416X + 35.2291

 

プロジェクトへの投資額(の現在価値)

高性能の機械設備を導入した場合、取得原価(30百万円)が「プロジェクトへの投資額(の現在価値)」です。

 

  • 初期投資額
    ▲30百万円

 

正味現在価値

「各期のキャッシュフローの割引現在価値」と「初期投資額」から「正味現在価値」を算出します。

 

  • 正味現在価値
    = 各期のキャッシュフローの割引現在価値 - 初期投資額
    = 70.3416X + 35.2291 - 30
    = 70.3416X + 5.2291

 

原材料費と労務費の合計の削減率の算出

高性能の機械設備を導入した方が、通常の機械設備を導入するよりも有利となる「原材料費」と「労務費」の合計の削減率「X」を求めるため、以下の計算式に「正味現在価値(高性能の機械設備)」と「設問2」で求めた「正味現在価値(通常の機械設備)」を当てはめていきます。

 

  • 正味現在価値(高性能の機械設備) > 正味現在価値(通常の機械設備)

 

なお、問題文に記載されている条件に基づき「%表示で小数点第3位を四捨五入」します。

 

  • 70.3416X + 5.2291 > 12.6311
  • 70.3416X > 7.402
  • X > 0.10522934… ≒ 10.52%

 

上記の結果から、「売上原価(原材料費・労務費)」の合計の削減率が「10.52%よりも大きければ、高性能の機械設備を導入した方が通常の機械設備を導入するよりも企業にとって有益である(=有利になる)ことが分かります。

したがって、高性能の機械設備を導入した方が通常の機械設備を導入するよりも有利になるのは、原材料費と労務費の合計が「10.53%」削減される場合です。

 

小数点第3位の端数処理について

問題文に記載されている「%表示で小数点第3位を四捨五入すること」という指示に従って、小数点第3位を切り捨てるため「原材料費・労務費の合計の削減率 > 10.52%」となりますが、実際に検算してみると、原材料費と労務費の合計の削減率が「10.52%」では、通常の機械設備を導入した方が有利となってしまいます

したがって、高性能の機械設備を導入した方が有利となるのは「10.53%」という解答にしていますが、問題文の指示に従うのであれば「10.52%」という解答の方が正しい可能性もあります。

 

解答(第3問 設問3)

高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の「削減率」と、その「計算過程」は以下の通りです。

 

(a)原材料費と労務費の合計の削減率

高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の「削減率」は以下の通りです。

 

10.53%

 

(b)計算過程

高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の削減率の「計算過程」は以下の通りです。

 

・初期投資額
30百万円
・減価償却費
30百万円 ÷ 5年 = 6百万円
・各期における税引前利益(原材料費と労務費の合計の削減率を「X」とした場合)
第1期:20 -( 16 - 16X )- 6 - 5 - 2 = ▲9 + 16X
第2期:42 -( 27 - 27X )- 6 - 5 - 3 = 1 + 27X
第3期:60 -( 32 - 32X )- 6 - 5 - 4 = 13 + 32X
第4期:45 -( 25 - 25X )- 6 - 5 - 3 = 6 + 25X
第5期:35 -( 16 - 16X )- 6 - 5 - 2 = 6 + 16X
・各期における税引後CF
第1期:( ▲9 + 16X )×( 1 - 30% )+ 6 = 11.2X - 0.3
第2期:( 1 + 27X )×( 1 - 30% )+ 6 = 18.9X + 6.7
第3期:( 13 + 32X )×( 1 - 30% )+ 6 = 22.4X + 15.1
第4期:( 6 + 25X ) ×( 1 - 30% )+ 6 = 17.5X + 10.2
第5期:( 6 + 16X )×( 1 - 30% )+ 6 = 11.2X + 10.2
・高性能の機械設備の導入による正味現在価値
( 11.2X - 0.3 )× 0.952 +( 18.9X + 6.7 )× 0.907 +( 22.4X + 15.1 )× 0.864 +( 17.5X + 10.2 )× 0.823 +( 11.2X + 10.2 )× 0.784 - 30 = 70.3416X + 5.2291
・高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の削減率「X」の算出
70.3416X + 5.2291 > 12.6311
X > 0.105229… ≒ 10.52%
したがって、高性能の機械設備の導入が有利になる原材料費と労務費の合計の削減率は「10.52%」よりも大きい場合であるため「10.53%」である。

 


 

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