今回は、「財務・会計 ~R1-20 資金調達方法(4)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
資金調達方法 -リンク-
本ブログにて「資金調達方法」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
資金管理の重要性と資金調達の目的
企業が経営活動を継続するにあたっては、会社を運転するための「現金(資金)」を確保することが非常に重要です。
販売するための商品や製品を生産するための材料を調達したり、事務所や工場を維持するための費用を支払ったり、従業員への給料を支払ったり、老朽化した生産設備を更改するなど、何をするにも「現金(資金)」が必要ですが、仕入債務の支払期間と売上債権の回収期間のサイクルがずれていたり、季節により収入の変動が大きい場合は、損益計算書では売上や利益が適切に計上されていても、一時的に運転資金が不足することも考えられます。
資金不足により「支払遅延」や「支払不能」といった事態に陥った場合は、企業としての信用が失墜するだけでなく、最悪の場合は、倒産に追い込まれてしまいます。
そのような事態に陥ることを回避するためにも「資金管理」は非常に重要であり、以下に示す目的のため、必要に応じて資金を調達しなければなりません。
- 運転資金の確保
- 設備投資資金の確保
- 会社の信用力向上
- 事業拡大に向けた投資資金の確保
資金調達方法
企業が資金を調達するには、株式を発行したり、社債を発行したり、金融機関から借り入れたり、利益を積み上げたりといった方法があります。
エクイティ・ファイナンス/デッド・ファイナンス
あまり聞き慣れない言葉ですが、それぞれ翻訳してみると分かりやすく、「エクイティ(equity)=株式」「デッド(debt)=債務」と和訳することができます。
以下に表を示しますが、株主資本を増加させるものなのか、負債を増加させるものなのか、という観点で違いを理解しておくのが分かりやすいと思います。
エクイティ・ファイナンス | 株主資本の増加 (株式発行) |
返済期限の定めがない資金調達 | 自己資本調達 |
デッド・ファイナンス | 負債の増加 (社債発行・借入金など) |
返済期限の定めがある資金調達 | 他人資本調達 |
資金調達方法の分類
もう一つ、試験に必要となる資金調達方法の表を以下に示します。
表の一番右側の列に記載している「自己資本調達」と「他人資本調達」の欄が、上記の「エクイティファイナンス」「デッド・ファイナンス」とリンクするので、上記の表と合わせ技で覚えると完璧です。
外部金融 | 直接金融 | 株式発行 | 長期 | 自己資本調達 |
新株予約権付社債発行 | 長期 | |||
社債発行 | 長期 | 他人資本調達 | ||
コマーシャルペーパー発行 | 短期 | |||
間接金融 | 金融機関からの借入 (借入金、手形借入金など) |
短期 長期 |
他人資本調達 | |
企業間信用 | 買掛金 | 短期 | 他人資本調達 | |
支払手形 | 短期 | |||
内部金融 | 内部留保 | 長期 | 自己資本調達 | |
減価償却費 | 長期 |
転換社債(転換社債型新株予約権付社債)
「転換社債」とは、新株予約権が付された形態で発行される社債のことをいい、商法改正により現在の正式名称は「転換社債型新株予約権付社債」といいます。
「転換社債(転換社債型新株予約権付社債)」は、あらかじめ定められた「転換価額」で株式に転換することができる権利を有した社債であるため、株価が「転換価額」よりも高くなれば、株式に転換して売却することにより利益を得ることができ、逆に株価が「転換価額」より低いままであれば、転換せずに「満期償還」されるまで利息を受け取りながら「社債」として保有することができます。
「転換社債(転換社債型新株予約権付社債)」は、株式に転換されるまでは「負債」として計上され、株式に転換されると「純資産」に計上されます。
コマーシャル・ペーパー
「コマーシャル・ペーパー」とは、マーケット(オープン市場)を通じて割引形式で発行する無担保の約束手形のことをいいます。
資金調達方法としては「社債」と類似していますが、「社債」の償還期間が通常1年以上なのに対して、「コマーシャルペーパー」の償還期間は通常1年未満です。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第20問】
資金調達に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 企業が証券会社や証券市場を介して、投資家に株式や債券を購入してもらうことで資金を集める仕組みを間接金融と呼ぶ。
イ 資金調達における目的は、売上高の極大化である。
ウ 資産の証券化は、資金調達手段として分類されない。
エ 利益の内部留保や減価償却による資金調達を内部金融と呼ぶ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「資金調達方法」に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
企業が証券会社や証券市場を介して、投資家に株式や債券を購入してもらうことで資金を集める仕組みを「直接金融」というため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
企業が経営活動を継続するにあたっては、会社を運転するための「現金(資金)」を確保することが非常に重要です。
販売するための商品や製品を生産するための材料を調達したり、事務所や工場を維持するための費用を支払ったり、従業員への給料を支払ったり、老朽化した生産設備を更改するなど、何をするにも「現金(資金)」が必要ですが、仕入債務の支払期間と売上債権の回収期間のサイクルがずれていたり、季節により収入の変動が大きい場合は、損益計算書では売上や利益が適切に計上されていても、一時的に運転資金が不足することも考えられます。
資金不足により「支払遅延」や「支払不能」といった事態に陥った場合は、企業としての信用が失墜するだけでなく、最悪の場合は、倒産に追い込まれてしまいます。
そのような事態に陥ることを回避するためにも「資金管理」は非常に重要であり、以下に示す目的のため、必要に応じて資金を調達しなければなりません。
- 運転資金の確保
- 設備投資資金の確保
- 会社の信用力向上
- 事業拡大に向けた投資資金の確保
したがって、資金調達の目的は、売上高の極大化ではないため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「資産の証券化」とは、企業が保有する資産を有価証券に組み替えて、第三者に売却することで、資金を調達する方法の一つです。
証券化できる資産としては、基本的に安全性の高い資産である「不動産」「キャッシュフローの見込める事業」「ローン債権」などが挙げられ、資産の所有者は「オリジネーター」と呼ばれます。
したがって、資産の証券化は資金調達の一つの手段であるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
「利益の内部留保」や「減価償却費」による資金調達を「内部金融」というため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
コメント