今回は、「財務・会計 ~R1-6 棚卸資産の評価(2)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
棚卸資産の評価 -リンク-
「棚卸資産の評価」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
棚卸資産の会計処理
棚卸資産の会計処理は「棚卸資産の評価に関する会計基準」によって定められており、棚卸資産における評価方法、評価基準および開示手順が記載されています。
棚卸資産とは、決算ごとにその数量やその価値等の棚卸を行う資産であり、流動資産に区分されます。具体的には、以下の資産が対象となります。
- 販売するために仕入れた商品
- 自社で生産した製品
- 生産途中にある半製品や仕掛品
- 短期間のうちに生産に使用される原材料や貯蔵品
- 販売活動や管理活動で短期間のうちに消費される事務用消耗品
- 市場価格の変動により利益を得ることを目的として保有するトレーディング資産
今回の記事で説明する内容は「1~5」までの範囲とします。
棚卸資産の評価方法
「棚卸資産の評価方法」は、以下に示す方法の中から選択して適用します。
なお、「棚卸資産の評価方法」は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択するとともに、継続して適用しなければなりません。
個別法
取得原価の異なる「商品(棚卸資産)」を区別して記録し、その個々の実際原価によって「期末商品(棚卸資産)」の価額を算定する方法
個別法は、個別性が強い「商品(棚卸資産)」の評価に適した方法である。
先入先出法
最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、「期末商品(棚卸資産)」は最も新しく取得されたものからなるとみなして「期末商品(棚卸資産)」の価額を算定する方法
平均原価法
取得した「商品(棚卸資産)」の平均原価を算出し、この平均原価によって「期末商品(棚卸資産)」の価額を算定する方法
なお、平均原価は、総平均法又は移動平均法によって算出する。
売価還元法
値入率等の類似性に基づく「商品(棚卸資産)」のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を「期末商品(棚卸資産)」の価額とする方法
売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における「商品(棚卸資産)」の評価に適用される。
「後入先出法」は認められていません。
上記の評価方法以外に、原価計算基準には「後入先出法」という方法が示されています。
「後入先出法」とは、最も新しく取得されたものから棚卸資産の払出しが行われ、期末棚卸資産は最も古く取得されたものからなるとみなして、棚卸資産の価額を算定する方法ですが、「棚卸資産の評価に関する会計基準」では「後入先出法」は、棚卸資産の実際の流れを忠実に表現しているとはいえないとし、棚卸資産の評価方法として認めていません。
棚卸資産の評価基準
棚卸資産の「取得原価」は、原則として購入代価または製造原価に引取費用等の付随費用を加算して算出します。
棚卸資産は、取得原価で貸借対照表に記載しますが、期末の棚卸によって「正味売却価額」が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額を貸借対照表に記載するとされており、この評価基準を「低価法」といいます。
この場合、取得原価と当該正味売却価額との差額(簿価切下額)は、当期の費用(商品評価損)として処理します。
なお、製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、正味売却価格ではなく、再調達原価により評価することができます。
前期に計上した簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかの方法を棚卸資産の種類ごとに選択することができます。
品質低下商品・陳腐化商品の評価損
「棚卸資産の評価基準」では、棚卸資産の良品に関する簿価切下だけではなく、「品質低下」や「陳腐化」といった売り物にならないような棚卸資産に関する会計処理方法ついても記載されています。
両者の発生原因は異なりますが、正味売却価額が下落することにより収益性が低下しているという観点からみれば、会計処理上、それぞれの区分に相違を設ける意義は乏しいと考えられることから、いずれの場合も商品評価損として取り扱うとされています。
項目 | 品質低下評価損 | 陳腐化評価損 | 低価法評価損 |
①発生原因 | 物質的な劣化 | 経済的な劣化(商品ライフサイクルの変化) | 市場の需要変化 |
②棚卸資産の状態 | 欠陥 | 正常 | |
③売価の回復可能性 | なし | あり |
棚卸減耗費と商品評価損
「棚卸資産の評価基準」では「商品評価損」について記載されていますが、期末に棚卸資産を評価する際には「棚卸減耗費」と「商品評価損」という2つの勘定科目が使用されます。
- 棚卸減耗費
「棚卸減耗費」は、数量不一致を表しており、帳簿上の商品の数量(帳簿数量)と実際の商品の数量(実地数量)の差分で求められます。 - 商品評価損
「商品評価損」は、商品の価値低下を表しており、実際に存在する商品の貸借対照表価額(簿価切下前)と正味売却価額の差分で求められます。
棚卸減耗費と商品評価損のイメージ図
「棚卸減耗費」と「商品評価損」については、以下の図を覚えておくことをお薦めします。
全体の大きな四角が、「貸借対照表価額(簿価切下前)」を示しており、「棚卸資産減耗費(赤色四角)」と「商品評価損(緑色四角)」で評価した結果が、「貸借対照表価額(切り下げ後)(青色四角)」となります。
棚卸減耗費と商品評価損の表示区分
損益計算書における「棚卸減耗費」と「商品評価損」の表示区分を以下に示します。
若干の言葉の定義は異なりますが、「棚卸減耗費」と「商品評価損」共に、毎期発生するような一般的な理由によるか、突発的に発生するような臨時的な理由によるかで、表示区分が異なってきます。
項目 | 条件 | 損益計算書の 表示区分 |
棚卸減耗費 | 原価性あり (毎期発生するような正常な範囲) |
売上原価 販売費 |
原価性なし (臨時の事象により発生した異常な範囲) |
営業外費用 特別損失 |
|
商品評価損 | 原則 | 売上原価 |
臨時の事象に起因し、かつ多額な場合 (重要な事業部門の廃止、災害損失の発生) (簿価切下額の戻入れは不可) |
特別損失 |
棚卸減耗費と商品評価損の仕訳
「棚卸減耗費」と「商品評価損」を計上する場合の仕訳を以下に示します。
貸方の「棚卸資産」には、貸借対照表価額を「正味売却価額」に変更する勘定科目が入ります。
借方 | 貸方 | ||
棚卸減耗費 商品評価損 |
10,000 20,000 |
棚卸資産(商品、製品、仕掛品など) | 30,000 |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第6問】
棚卸資産の評価に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 棚卸資産の期末評価において、帳簿価額と比較すべき時価は再調達原価である。
イ 棚卸資産の評価方法として認められている方法のうちに個別法は含まれない。
ウ 棚卸資産の評価方法のうち売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種において適用される方法である。
エ 簿価切り下げによる評価損は、原則として営業外費用または特別損失に計上する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「棚卸資産の評価」に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
棚卸資産は、原則として購入代価または製造原価に引取費用等の付随費用を加算して算出した「取得原価」で貸借対照表に記載しますが、棚卸資産の期末評価によって「正味売却価額」が「取得原価」よりも下落している場合には、当該正味売却価額を貸借対照表に記載するとされています。
したがって、棚卸資産の期末評価において、帳簿価額と比較すべき時価は「再調達原価」でなく「正味売却価額」であるため、選択肢の内容は不適切です。
通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理する。(棚卸資産の評価に関する会計基準 第7項)
(イ) 不適切です。
「棚卸資産の評価方法」は、以下に示す方法の中から選択して適用します。
- 個別法
- 先入先出法
- 平均原価法
- 売価還元法
棚卸資産の評価方法として「個別法」も認められているため、選択肢の内容は不適切です。
「後入先出法」は認められていません。
上記の評価方法以外に、原価計算基準には「後入先出法」という方法が示されています。
「後入先出法」とは、最も新しく取得されたものから棚卸資産の払出しが行われ、期末棚卸資産は最も古く取得されたものからなるとみなして、棚卸資産の価額を算定する方法ですが、「棚卸資産の評価に関する会計基準」では「後入先出法」は、棚卸資産の実際の流れを忠実に表現しているとはいえないとし、棚卸資産の評価方法として認めていません。
(ウ) 適切です。
「売価還元法」とは、値入率等の類似性に基づく「商品(棚卸資産)」のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を「期末商品(棚卸資産)」の価額とする方法のことをいいます。
「売価還元法」は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における「商品(棚卸資産)」の評価に適用される方法であるため、選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
「棚卸資産の評価」において「簿価切り下げによる評価損」という表現がされた場合は「商品評価損」のことだけを示していることに注意してください。(棚卸減耗費のことは示していません。)
損益計算書における「商品評価損」の表示区分を以下に示します。
項目 | 条件 | 損益計算書の 表示区分 |
商品評価損 | 原則 | 売上原価 |
臨時の事象に起因し、かつ多額な場合 (重要な事業部門の廃止、災害損失の発生) (簿価切下額の戻入れは不可) |
特別損失 |
したがって、簿価切り下げによる評価損は、原則として営業外費用または特別損失に計上するのではなく、原則として売上原価に計上することとし、簿価切り下げ額が、重要な事業部門の廃止や災害損失の発生といった臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上するとなっているため、選択肢の内容は不適切です。
通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性の低下による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は売上原価とするが、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理する。また、収益性の低下に基づく簿価切下額が、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する。臨時の事象とは、例えば次のような事象をいう。なお、この場合には、洗替え法を適用していても(第14項参照)、当該簿価切下額の戻入れを行ってはならない。
- 重要な事業部門の廃止
- 災害損失の発生
(棚卸資産の評価に関する会計基準 第17項)
答えは(ウ)です。
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