今回は、「運営管理 ~H28-12 資材調達(5)内外製区分~」について説明します。
目次
運営管理 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
内外製区分
「内外製区分」とは、業務を自社で実施(内作/内製)するか、外部業者に委託(外注/外作/外製)するかを決定する活動のことをいいます。
「内外製区分」は、QCDを中心とした観点に基づきその決定を行いますが、QCD以外に「設備」「技術」「稼働率」といった観点に基づく検討も重要であるため、以下に説明していきます。
また、QCDによる評価は「内外製区分」や「外注先選定」のタイミングだけに限らず、外部業者に委託した後も、自社主導で「外注管理」を継続することが非常に重要です。
内外製区分の観点(設備/技術/稼働率)
「内外製区分」において、重要な観点である「設備」「技術」「稼働率」について、以下に説明していきます。
設備
工場の生産能力を超える需要の増加に「内作」で対応するためには、投資により生産設備を増強する必要がありますが、企業による設備投資の意思決定には、投資額を上回る収益を得られるだけの充分な需要と販売計画が見込まれることが前提条件となります。
そのため、「設備」という観点に着目した場合、工場の生産能力を超える需要の増加が一時的なものなのか、それとも継続的なもので設備投資に見合うだけの充分な収益が得られるのかに基づき判断します。
上述の内容を整理すると以下の通りです。
内外製 | 条件 |
外注 | 一時的な需要増加であり設備投資額を回収できるだけの販売計画が見込めない場合 |
内作 | 継続的な需要増加が見込まれ、設備投資額を回収できるだけの販売計画が見込まれる場合 |
技術
「技術」に着目した場合、その技術が企業にとって既存技術なのか新規技術なのかによっても、その判断が異なってきます。
既存技術の場合
「既存技術」で一番重要なのは、その技術が自社の事業にとって中核をなすコア技術であるかということです。
例えば、A社(製造業)にとっては、製品を生産する技術ノウハウが事業を継続するために重要な技術であり、生産した製品の配送業務に関するノウハウはあまり重要でないかもしれませんが、B社(運輸業)にとっては、効率的な配送業務の技術ノウハウが事業を継続するために重要な技術であると考えられます。
このように、何が重要な技術であるかはそれぞれの企業で異なりますが、自社の事業にとって中核をなす技術であり、他社との差別化を図ることができるような特殊な技術を有している場合は「内作」で対応します。
このような技術を「内作」で対応する理由(=外注とした場合のリスク)を以下に示します。
- 自社が有する高度な技術ノウハウなどの機密情報が流出する恐れがある。
- 当該技術のノウハウを蓄積することができなくなり、技術力が低下する。
上述の内容を整理すると以下の通りです。
内外製 | 条件 |
外注 | その企業にとって中核をなす技術ではなく、外部業者に委託しても自社の高度なコア技術のノウハウ流出にはつながらない場合 |
内作 | その企業にとって中核をなす専門技術であり、内作を続けることにより技術ノウハウを蓄積でき、技術力をさらに高めることができる場合 |
新規技術の場合
自社が有していない新たな技術が必要となった場合は、その技術を有している企業に「外注」することによって、自社で技術を一から開発するよりも、短期間で安価に対応することができます。
将来を見据え、自社の事業にとって中核をなすコア技術に成長させるということであれば「内作」という判断も考えられますが、顧客から受けた要望に対して迅速に対応する必要がある場合は「外注」という判断を行います。
上述の内容を整理すると以下の通りです。
内外製 | 条件 |
外注 | 顧客から自社が有していない技術を必要とする要望を受け、迅速に対応する必要がある場合 |
内作 | 自社の将来を見据え、中核をなすコア技術に成長させたい場合(ただし、中小企業で考えた場合、その技術を有する機関と連携して開発を進めるというケースの方が多いと考えられます。) |
稼働率
「稼働率」とは、自社の生産能力の利用比率を示しています。
「稼働率」が高く、自社の生産能力に余裕がなく対応できない場合は「外注」によって、なんとかその場を乗り切ることができます。また、「稼働率」が低く、自社の生産能力に余裕がある場合は「内作」により対応するという判断をすることもできます。
内外製 | 条件 |
外注 | 自社の生産能力に余裕がない場合 |
内作 | 自社の生産能力に余裕がある場合 |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成28年度 第12問】
内外作区分に関連する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア 一過性の需要に対応するためには、生産設備を増強して、内作で対応することが好ましい。
イ 自社が特殊な技術を持っており、その優位性を維持するためには、該当する部品を継続的に内作することが好ましい。
ウ 特許技術のような特に優れた技術を他社が持っている場合には、外作することが好ましい。
エ 秘密性や重要性が低い部品で、自社において稼働率が低く、コストが引き合わないときには外作することが好ましい。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「内外製区分」に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
工場の生産能力を超える需要の増加に「内作」で対応するためには、投資により生産設備を増強する必要がありますが、企業による設備投資の意思決定には、投資額を上回る収益を得られるだけの充分な需要と販売計画が見込まれることが前提条件となるため、「内作」で対応するためには「継続的な需要」が必要です。
したがって、「一過性の需要」に対しては「外注」で対応することが好ましく、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
自社の事業にとって中核をなす技術であり、他社との差別化を図ることができるような特殊な技術を有している場合は「内作」で対応します。
このような技術を「内作」で対応する理由(=外注とした場合のリスク)を以下に示します。
- 自社が有する高度な技術ノウハウなどの機密情報が流出する恐れがある。
- 当該技術のノウハウを蓄積することができなくなり、技術力が低下する。
したがって、自社が特殊な技術を持っており、その優位性を維持するためには、該当する部品を継続的に「内作」することが好ましく、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 適切です。
自社が有していない新たな技術が必要となった場合は、その技術を有している企業に「外注」することによって、自社で技術を一から開発するよりも、短期間で安価に対応することができます。
したがって、特許技術のような特に優れた技術を他社が持っている場合には「外注」することが好ましく、選択肢の内容は適切です。
(エ) 適切です。
この選択肢は、複数の条件が混在しているため判断が難しいところです。
まず「秘密性や重要性が低い部品」とありますが、これは「技術」の観点から、その技術が自社の事業にとって中核をなすコア技術ではないため「外注」にしても構わないということを示しています。
続いて「自社において稼働率が低く」とありますが、これは「稼働率」の観点から、自社の生産能力に余裕があるため「内作」にしても構わないということを示しています。
最後の「コストが引き合わない」という記述については、そもそも「コストが引き合わない」のであれば、顧客にお断りするという選択肢も一つですが、「内作」で対応しても採算が合わないのであれば「外注」してコストの低減を図ることが最善策と考えられます。
したがって、秘密性や重要性が低い部品で、自社において稼働率が低くても、コストが引き合わないのであれば「外作」とすることが好ましく、選択肢の内容は適切です。
答えは(ア)です。
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