今回は、「財務・会計 ~H30-5 ソフトウェアの会計処理(1)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
ソフトウェアの会計処理
ソフトウェアの会計処理は、「研究開発費等に係る会計基準」によって定められており、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」によって、企業が実務に適用する際の具体的な手順等が定められています。
ソフトウェアの制作費は、その目的によって収益との対応関係が異なるため、制作目的に応じて異なる会計処理を行います。
ソフトウェアの概念・範囲
「ソフトウェア」とは「コンピュータ・ソフトウェア」のことをいい、その範囲には、プログラムだけではなく、関連文書も含まれます。
- コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム
- システム仕様書、フローチャート等の関連文書
ソフトウェアの区分
ソフトウェアの会計処理は、ソフトウェアの制作目的などの要素によって適用される処理方法が異なります。
書籍等で紹介される場合は、ソフトウェアの会計処理は、制作目的によって「受注制作のソフトウェア」「販売目的のソフトウェア」と「自社利用のソフトウェア」の3つに区分されると説明されていますが、実際にはさらに細かく区分され、それぞれの会計処理が異なります。
ソフトウェアの区分体系
- 販売目的のソフトウェア
- 受注制作のソフトウェア
- 市場販売目的のソフトウェア
- 製品マスター完成までの費用
- 製品マスター完成後の費用
- 自社利用のソフトウェア
- 顧客にサービス提供するために自社で利用するソフトウェア
- 社内の管理目的のために自社で利用するためのソフトウェア
- 完成したソフトウェアを購入した場合
- 自社制作または委託によりソフトウェアを制作した場合
販売目的のソフトウェア
「販売目的のソフトウェア」は、以下の2種類に区分されます。
「市場販売目的のソフトウェア」については、発生した費用の作業目的によって会計処理がさらに細かく定められています。
ソフトウェアの種類 | 説明 |
受注制作 | ユーザーから受託して特定の仕様で制作したソフトウェア |
市場販売目的 | ソフトウェアの製品マスターを複製して不特定多数のユーザーにパッケージとして販売するソフトウェア |
受注制作のソフトウェア
「受注制作のソフトウェア」は、販売先のユーザーから受託して、ユーザーから要望された特定の仕様で制作するソフトウェアのことをいいます。
「受注制作のソフトウェア」の制作費用は、請負工事の会計処理に準じて処理します。
また、「受注制作のソフトウェア」については、ソフトウェアが完成していない段階でも、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」により収益の認識を行うことが認められています。
市場販売目的のソフトウェア
「市場販売目的のソフトウェア」は、ソフトウェアの製品マスターを制作した後、それを複製して不特定多数のユーザーに販売するパッケージなどのことをいいます。
「市場販売目的のソフトウェア」ついては、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち「最初に製品化された製品マスター」が完成するまでの費用と完成した後の費用で、その会計処理が異なります。
「最初に製品化された製品マスター」が完成した時点とは、具体的に以下の2点によって判断します。
- 製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成していること
- プロトタイプを制作しない場合は、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消していること
製品マスター完成までの費用
「研究開発」とは、新しい知識を具体化するまでの過程であり、ソフトウェアの制作過程においては、「最初に製品化された製品マスター」を完成させるまでの制作活動が「研究開発」として位置づけられています。
「市場販売目的のソフトウェア」の「最初に製品化された製品マスター」が完成するまでに要した制作費用は「研究開発費」として費用処理します。
内容 | 会計処理 |
製品マスターが完成するまでに要した制作費用 | 費用処理 (研究開発費) |
製品マスター完成後の費用
「市場販売目的のソフトウェア」の「最初に製品化された製品マスター」が完成した後に発生した制作費用は、その内容によって会計処理が細かく異なります。
内容 | 会計処理 | |
機能の改良・強化を行う制作費用 | 著しい改良 | 費用処理 (研究開発費) |
それ以外 | 無形固定資産 | |
バグ取り等、機能維持に要した費用 | 費用処理 (修繕費など) |
自社利用のソフトウェア
「自社利用のソフトウェア」は、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められるか否かによって、その会計処理が異なります。
将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は、将来の収益との対応等の観点から、その取得に要した費用を「無形固定資産」として計上して、その利用期間にわたり減価償却を行い、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
「自社利用のソフトウェア」は、「顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア」と「社内の業務遂行を効率的に行うなど、社内の管理目的のために自社で利用するソフトウェア」に区分されます。
顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア
「顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア」については、将来の収益獲得が確実であると認められるため「無形固定資産」に計上します。
内容 | 会計処理 |
顧客に有償でサービスを提供するために自社で利用するソフトウェア | 無形固定資産 |
社内の管理目的のために自社で利用するソフトウェア
「社内の業務遂行を効率的に行うなど、社内の管理目的等で自社で利用するソフトウェア」については、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は「無形固定資産」として計上し、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
内容 | 会計処理 | |
完成したソフトウェアを購入した場合 | 無形固定資産 | |
独自仕様のソフトウェアを制作した場合 | 収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合 | 無形固定資産 |
収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合 | 費用処理 |
完成したソフトウェアを購入した場合
「社内利用のソフトウェア」として完成品を購入した場合、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められるため「無形固定資産」に計上します。
なお、機械装置等に組み込まれているソフトウェアを購入した場合は、当該機械装置等に含めて「有形固定資産」として計上します。
自社制作または委託によりソフトウェアを制作した場合
独自仕様の社内利用ソフトウェアを自社で制作する場合または外部委託により制作する場合、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合は「無形固定資産」として計上し、将来の収益獲得または費用削減が不確実な場合は「費用」として計上します。
ソフトウェアの減価償却
「無形固定資産」として計上したソフトウェアは、有形固定資産と同様に、減価償却を行うことにより費用配分を行います。
減価償却は、ソフトウェアの用途に応じて設定された耐用年数で「定額法」により行います。
なお、貸借対照表に「無形固定資産」を表示する場合は、取得原価から減価償却累計額を控除した価額で記載(直接法)します。
ソフトウェアの用途 | 耐用年数 |
販売目的の原本となるソフトウェア | 3年 |
研究開発用のソフトウェア | 3年 |
それ以外のソフトウェア | 5年 |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第5問】
ソフトウェアの会計処理および開示に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 自社利用目的のソフトウェアのうち、将来の収益獲得または費用削減が確実であるものについては、機械装置等に組み込まれたものを除き、その取得に要した費用を無形固定資産として計上する。
イ 市場販売を目的とするソフトウェアの製品マスターが完成するまでに要した制作費は、最初に製品化されたときに無形固定資産として計上する。
ウ 受注制作のソフトウェアは、その制作に要した費用を無形固定資産として計上する。
エ 無形固定資産として計上したソフトウェアは規則的な償却を行わず、価値の低下時に減損処理する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「ソフトウェアの会計処理および開示」に関する知識を問う問題です。
(ア) 適切です。
自社利用目的のソフトウェアのうち、将来の収益獲得または費用削減が確実であるものについては、機械装置等に組み込まれたものを除き、その取得に要した費用を無形固定資産として計上するため、選択肢の内容は適切です。
言い回しが難しくなっていますが、「機械装置等に組み込まれたものを除き」という部分は、「機械装置等に組み込まれているソフトウェア」については、当該機械装置等に含めて「有形固定資産」として会計処理を行うということを示しています。
(イ) 不適切です。
「市場販売を目的とするソフトウェア」において製品マスターが完成するまでに要した制作費は、最初に製品化されたときに、無形固定資産として計上するのではなく、研究開発費として処理を行うため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「受注制作のソフトウェア」は、その制作に要した費用を無形固定資産として計上するのではなく、請負工事の会計処理に準じて処理するため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「無形固定資産」として計上したソフトウェアは、ソフトウェアの用途に応じて設定された耐用年数で「定額法」によって減価償却を行うため、選択肢の内容は不適切です。
ソフトウェアの用途 | 耐用年数 |
販売目的の原本となるソフトウェア | 3年 |
研究開発用のソフトウェア | 3年 |
それ以外のソフトウェア | 5年 |
答えは(ア)です。
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