今回は、「財務・会計 ~H30-11 損益分岐点分析(CVP分析)(9)~ 」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
損益分岐点分析(一次試験) -リンク-
一次試験に向けて「損益分岐点分析(CVP分析)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-12-2 損益分岐点分析(CVP分析)(12)
- R3-12 損益分岐点分析(CVP分析)(11)
- R2-21 損益分岐点分析(CVP分析)(10)
- H28-8-1 損益分岐点分析(CVP分析)(1)
- H28-8-2 損益分岐点分析(CVP分析)(2)
- H27-10 損益分岐点分析(CVP分析)(3)
- H26-7 損益分岐点分析(CVP分析)(4)
- H25-8 損益分岐点分析(CVP分析)(5)
- H24-11 損益分岐点分析(CVP分析)(6)
- H23-11 損益分岐点分析(CVP分析)(7)
- H22-9 損益分岐点分析(CVP分析)(8)
損益分岐点分析(二次試験) -リンク-
二次試験(事例Ⅳ)に向けた「損益分岐点分析(CVP分析)」の記事は、以下のページに整理していますので、アクセスしてみてください。
損益分岐点分析(CVP分析)とは
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、総費用を変動費と固定費に区分して、目標利益を達成するために必要な売上高や製品の販売数量を分析するなど企業が利益計画を立てるために必要な数値を求めることができます。
「損益分岐点分析(CVP分析)」は、企業の費用構造に関する安全性を分析する手法です。
企業の費用構造上、総費用に占める固定費の割合が低くなると、世の中の不況などの外部環境の変化により売上高が低下しても利益を確保することができるなど、外部環境の変化に対する抵抗力が強くなります。
変動費と固定費
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、費用を「変動費」と「固定費」に区分して分析を行います。
変動費
「変動費」とは「製品の生産量」に比例して増減する費用であり、直接材料費、直接労務費などが該当します。
固定費
「固定費」とは「製品の生産量」に関わらず定額で発生する費用であり、設備の減価償却費や、管理部門の従業員に対する給与などが該当します。
変動費 + 固定費
「変動費」と「固定費」を合計した金額の直線を「総費用曲線」といいます。
「損益分岐点分析」では、以下のように変動費を下方に記述した方が理解しやすいので、以下の図で説明を進めていきます。
変動費率
「総費用曲線」において、「Y=費用」「X=売上高(生産量)」「a=変動費の傾き」「b=固定費」とすると、「総費用曲線」は「Y=aX+b」という式で表すことができます。
「a=変動費の傾き」のことを変動費率といい、売上高に対する変動費の割合を示しています。なお、分母が原価の総額ではなく、売上高であることに注意してください。
なお、実際の試験問題では、以下の公式を使うことの方が多いと思われます。
損益分岐点
「損益分岐点」とは「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる点のことをいいます。
「売上曲線」はゼロから始まり「生産量」に比例して右肩上がりの直線です。
以下に示すように「総費用曲線」に「売上曲線」を追記したときの交点(青い点)が「損益分岐点」です。
損益分岐点売上高
「損益分岐点」における「売上高」のこと、つまり「売上高」と「総費用」が等しくなり「利益」がゼロとなる「売上高」のことを「損益分岐点売上高」といいます。
「損益分岐点」よりも右側に行く(売上高が高くなる)と「利益」が発生しており、損益分岐点よりも左側に行く(売上高が低くなる)と「損失」が発生していることを示しています。
貢献利益率
上述の「損益分岐点図表」において登場した「貢献利益率」について説明します。
「貢献利益」は「売上高」から「変動費」を控除した金額であり、「売上高」に対する「貢献利益」の割合を示す「貢献利益率」は以下の計算式により算出されます。
損益分岐点売上高の公式
「損益分岐点売上高」は、以下の計算式により算出されます。
公式の算出過程
「損益分岐点分析(CVP分析)」では、様々な公式が出てきますが、公式だけ覚えておくと、応用問題に対応することができないので、算出過程から公式を算出できるように理解を深めておく必要があります。
「損益分岐点売上高」は「売上高」から「変動費」と「固定費」を控除したときに「利益」がゼロとなる「売上高」であり、「売上高 - 変動費 - 固定費 = 0」という式からスタートします。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 0
- 変動費 = 売上高 × 変動費率
この式を変形していくと。
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)- 固定費 = 0
- 売上高 ×(1 - 変動費率)= 固定費
- 売上高 = 固定費 ÷(1-変動費率)
「損益分岐点売上高」の公式は以下の通りです。
応用例1(目標利益〇〇万円を達成するための売上高)
応用例の1つ目として、目標利益を金額〇〇万円とする場合、目標を達成するための売上高をいくらに設定すればよいか。について公式を導いてみます。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)- 固定費 = 目標利益
- 売上高 ×(1-変動費率)= 固定費 + 目標利益
- 売上高=(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)
目標利益の金額〇〇万円を達成するための売上高を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
応用例2(売上高の〇〇%の利益目標を達成するための売上高)
続いて応用例の2つ目として、目標利益を「売上高の〇〇%」と設定する場合、目標を達成するための売上高をいくらに設定すればよいか。について公式を導いてみます。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 =売上高 × 〇〇%
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 -固定費 = 売上高 × 〇〇%
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 -売上高 × 〇〇% = 固定費
- 売上高 ×(1-変動費率- 〇〇%)= 固定費
- 売上高 = 固定費 ÷(1- 変動費率 - 〇〇%)
目標利益を売上高の〇〇%とする場合、目標を達成するための売上高を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
応用例3(損益分岐点を達成する製品販売数量)
続いて応用例の3つ目として、損益分岐点を達成するための販売数量を求める公式を導いてみます。
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1- 変動費率)
- 損益分岐点売上高 ÷ 製品販売単価 = 固定費 ÷(1- 変動費率)÷ 製品販売単価
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ (製品販売単価 - 製品販売単価 × 変動費率)
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ (製品販売単価 - 製品単位の変動費)
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ 製品単位の貢献利益
損益分岐点を達成する製品販売数量を求める公式は以下の通りです。
ただし、公式を覚える必要はありません。
公式を覚えるのではなく、公式の算出過程を理解しておくことで応用問題にも対応することができるようになります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第11問】
当社の当期の損益計算書は、以下のとおりであった。下記の設問に答えよ。
損益計算書 売上高 240,000千円 (販売価格200円 × 販売数量1,200千個) 変動費 96,000千円 (1個当たり変動費80円 × 販売数量1,200千個) 貢献利益 144,000千円 固定費 104,000千円 営業利益 40,000千円
(設問1)
当社では、次期の目標営業利益を55,000千円に設定した。他の条件を一定とすると、目標営業利益を達成するために必要な売上高として、最も適切なものはどれか。
ア 255,000千円
イ 265,000千円
ウ 280,000千円
エ 330,000千円
(設問2)
次期の利益計画において、固定費を2,000千円削減するとともに、販売価格を190円に引き下げる案が検討されている。また、この案が実施されると、販売数量は1,400千個に増加することが予想される。次期の予想営業利益として、最も適切なものはどれか。なお、他の条件は一定であるものとする。
ア 52,000千円
イ 57,600千円
ウ 68,000千円
エ 72,800千円
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
「損益分岐点分析(CVP分析)」に関する知識を問う問題です。
「損益分岐点分析(CVP分析)」では公式を覚えるのではなく、「売上高 - 変動費 - 固定費 = 利益」という式をうまく変形できるようにしておくことが一番重要です。
解答例1
「応用例1(目標利益〇〇万円を達成するための売上高)」で説明した「目標営業利益を達成するための売上高」の公式を使って算出します。
- 変動費率:96,000千円 ÷ 240,000千円 × 100% = 40%
- 目標売上高 =( 104,000千円 + 55,000千円 )÷( 1 - 40% )= 265,000千円
解答例2(推奨)
公式ではなく、公式の算出過程でも説明した「売上高 - 変動費 - 固定費 = 利益(営業利益)」という式を変形していくことによって「目標営業利益を達成するための売上高」を算出します。
- 売上高 - 変動費 - 固定費 = 営業利益
- 売上高 - 売上高 × 変動費率 - 固定費 = 営業利益
- 売上高 ×( 1 - 変動費率 )= 固定費 + 営業利益
「目標営業利益を達成するために必要な売上高」を「S」とすると
- S ×( 1 - 60% )= 104,000千円 + 55,000千円
- S = 265,000千円
答えは(イ)です。
考え方と解答(設問2)
次期の利益計画において、「販売単価の値下げ」「販売数量の増加」「固定費の削減」が予定されているため、変更後の予定金額を「売上高 - 変動費 - 固定費 = 利益(営業利益)」という式に当てはめていくことによって、次期の予想営業利益を算出します。
- 190円 × 1,400千個 - 80円 × 1,400千個 -( 104,000千円 - 2,000千円 )= 52,000千円
次期の利益計画の内容に基づき、損益計算書を作成すると以下の通りとなります。
損益計算書 | ||
売上高 | 266,000千円 | (販売価格190円 × 販売数量1,400千個) |
変動費 | 112,000千円 | (1個当たり変動費80円 × 販売数量1,400千個) |
貢献利益 | 154,000千円 | |
固定費 | 102,000千円 | 固定費を2,000千円削減 |
営業利益 | 52,000千円 |
答えは(ア)です。
コメント
設問2の変動費の出し方ですが、設問1と同様に変動費率40%×売上高266,000千円=106,400千円としないのはなぜでしょうか。この計算で回答すると選択肢イが回答となりますが、なぜ間違っている点でしょうか。
コメントをいただきましてありがとうございます。
今回、コメントをいただいた内容は事例Ⅳでも理解しておくべき重要な論点なので、他の類似問題もいろいろ解いてみることをお薦めします。
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問題文において、販売価格と固定費以外の条件は一定であると記載されているため、変動費は「1個当たり変動費80円のまま」ということになります。
つまり、変動費の条件を変えずに販売価格を値下げするため、変動費率は上昇することになります。
もし、変動費率を使って次期の変動費を算出するのであれば、値下げした販売価格を使って以下の計算式で算出することができます。
売上高:190円 × 1,400千個 = 266,000千円
変動費率:80円 ÷ 190円 ≒ 0421052・・・
変動費:266,000千円 × 0421052・・・ = 112,000千円
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今回の問題では、変動費の条件を変えずに販売価格を値下げした場合に変動費率が変わることを理解しているかが出題者のチェックしたいポイントです。
なお、別のタイプの問題で、販売数量が増減したときに利益がどのように変化するかを問う問題が出題された場合は、変動費率は変えずに計算していくこととなります。
コメントの解答になっていますでしょうか。
今後とも、引き続きよろしくお願いいたします。