今回は、「限界利益と貢献利益による分析(6)(事業部門の廃止)」について説明します。
目次
限界利益と貢献利益による分析
「限界利益と貢献利益による分析」に関連する記事は、以下のページに整理しています。
事業部門の廃止
企業は、継続的に利益を出していくことが絶対的な命題であるため、業績が芳しくない事業についてはその採算性を見極めて「事業部門」を廃止する必要があります。
業績が芳しくない「事業部門」を廃止すべきかどうかについては、「製品」の生産中止と同様に「貢献利益」により判断します。
貢献利益
「貢献利益」は「売上高」から「変動費」と「個別固定費」を控除して算出します。
「貢献利益」は「共通固定費を回収して全社の利益獲得に貢献する度合いを示す利益」を表しており、製品ラインナップや事業部門の採算性を見極め、企業全体の利益に貢献していない製品の生産を中止したり、事業部門を廃止する判断をするために活用されます。
- 「貢献利益」がマイナスとなっている製品は製造を中止した方がよい。
- 「貢献利益」がマイナスとなっている店舗は閉店した方がよい。
- 「貢献利益」がマイナスとなっている事業部門は廃止した方がよい。
貢献利益の意味について(事業部門運営)
企業は、継続的に利益を出していくことが絶対的な命題であるため、ある事業を運営する以上は、少なくともその事業を推進する部門を運営するための費用(「変動費」「個別固定費」)を回収して利益を上げることができなければ、その事業を運営すること自体に意味がありません。(運営しない方がまだましです。)
また、企業は事業を推進する部門を運営するための費用以外に、会社を運営するための管理機能を持っています。例えば、社長の給与や本社ビルの建物経費や総務・財務部門といった管理部門のスタッフの給与などがそれに該当しており、これらの会社運営を維持するために発生する「共通固定費」も事業の運営により回収しなければ、企業全体として利益を上げることができません。
つまり、ある事業の運営により「共通固定費」の回収にどの程度貢献できているかを金額で表しているのが「貢献利益」です。
「貢献利益」がプラスであれば「共通固定費」の回収に貢献できているため事業の運営を継続すべきであることを示し、「貢献利益」がマイナスであれば、その事業を推進する部門を運営するための費用すら回収できていないので閉鎖した方がよいことを意味しています。
管理可能利益
「貢献利益」を算出するには「固定費」を「個別固定費」「共通固定費」に区分して算出しますが、一次試験の「平成24年度 第9問」で「管理可能利益」について出題されたことがありますので、以下に補足しておきます。
「管理可能利益」とは、事業部門(セグメント)の責任者が自らの裁量で管理することができる利益であり、「売上高-変動費-管理可能固定費」で算出されます。
売上高 | |
変動費 | |
限界利益 | |
個別固定費 | 管理可能固定費 |
管理可能利益 | |
管理不能固定費(個別) | |
貢献利益 | |
共通固定費 | 管理不能固定費(共通) |
営業利益 |
固定費の区分
「固定費」には、事業部門(セグメント)で発生する費用と本社から配賦される費用に区分する観点とは別に、事業部門(セグメント)の責任者が自らの裁量で管理することができる「管理可能固定費」とコントロールできない「管理不可能固定費」に区分することもできます。
「管理不能固定費」には「事業部門(セグメント)で個別に発生する固定費」と「本社から配賦される共通固定費」があり、事業部門(セグメント)の責任者がコントロールすることができない固定費を表しています。
例えば、前任の責任者が意思決定した投資による減価償却費や固定資産税などの費用が、「事業部門(セグメント)で個別に発生する固定費」に該当します。
【例題】貢献利益分析による事業部門の廃止
「貢献利益」について理解を深めるため、事業部門の廃止に関する考え方を例題で説明しますが、根本的な考え方は昨日説明した「製品の生産中止に関する考え方」と全く同じです。
営業利益がマイナスの事業部の廃止
D社の組織は「事業部A」「事業部B」「事業部C」で構成されているが、「事業部B」の営業利益がマイナスとなっている。「事業部B」を廃止すべきか求めよ。
前提条件
- D社の組織は「事業部A」「事業部B」「事業部C」で構成されている。
- 共通固定費は「480万円」であり、売上高の比率によって各事業部に按分される。
事業部門別収支状況一覧
事業部A | 事業部B | 事業部C | 合計 | |
売上高 | 1,500 | 1,600 | 1,700 | 4,800 |
変動費 | 600 | 800 | 1,020 | 2,420 |
限界利益 | 900 | 800 | 680 | 2,380 |
個別固定費 | 600 | 900 | 400 | 1,900 |
貢献利益 | 300 | ▲100 | 280 | 480 |
共通固定費 | 150 | 160 | 170 | 480 |
営業利益 | 150 | ▲260 | 110 | 0 |
事業部Bを廃止した場合
「事業部B」を廃止した場合の営業利益を以下に示します。
事業部A | 事業部B | 事業部C | 合計 | |
売上高 | 1,500 | - | 1,700 | 3,200 |
変動費 | 600 | - | 1020 | 1,620 |
限界利益 | 900 | - | 680 | 1,580 |
個別固定費 | 600 | - | 400 | 1,000 |
貢献利益 | 300 | - | 280 | 580 |
共通固定費 | 225 | - | 255 | 480 |
営業利益 | 75 | - | 25 | 100 |
「事業部B」を廃止すると、D社の営業利益は現状より増加して「100万円」となることが分かります。
それでは、「事業部B」を廃止した場合、D社の営業利益がなぜ「100万円」増加するのでしょうか。
それは「事業部B」の「貢献利益」がマイナスだからです。
事業部門の廃止に伴う営業利益の変動について
今回の問題のように、「共通固定費」が増減しない条件の下では、貢献利益がマイナスの事業部門を廃止すると、会社全体の営業利益が廃止する事業部門の貢献利益分(マイナス分)だけ増加します。
解答
営業利益が現状より「100万円」増加するため「事業部B」を廃止すべきである。
覚えておきたいポイント
ここで、覚えておきたいポイントは
貢献利益がマイナスとなっている事業部門は廃止すべきであり、当該の事業部門を廃止すると営業利益は増加する。
ということです。
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