平成22年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
昨日の記事「事例Ⅳ ~平成22年度 解答例(1)(経営分析)~」の続きです。
目次
事例Ⅳ ~平成22年度試験問題一覧~
平成22年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第1問 前回からの続き
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
効率性
財務指標一覧(効率性)
効率性の財務指標を以下に示します。
財務指標(効率性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
総資本回転率 | 1.31回 | 1.29回 | ○ |
売上債権回転率 | 7.80回 | 8.57回 | × |
棚卸資産回転率 | 10.64回 | 10.47回 | ○ |
固定資産回転率 | 2.84回 | 2.42回 | ○ |
有形固定資産回転率 | 3.73回 | 3.70回 | ○ |
考察
- 同業他社と比較した場合「売上債権回転率」の数値が悪い。
それ以外の指標は優れてはいるものの数値で見るとほぼ変わらない状況である。 - 「Step2」で予想した通り「売上債権回転率」と「有形固定資産回転率」のどちらかを選択したいが、現時点では一つに絞れないため、2つの財務指標を選択候補として残す。
- 「売上債権回転率」を選択する場合は、主要顧客への売上依存度が高く、売上債権の回収期間が長くなり、効率的に代金を回収できていないことが原因となる。
- 「有形固定資産回転率」を選択する場合は、遊休資産の売却等全社的に大規模なリストラクチャリングを断行したとの記述があるが、まだ生産能力には余裕があり、さらなるリストラクチャリングを実行することができるのではないか。との指摘ができる。
- 「安全性」とのバランスを見て、選択する指標を選択する。
検討結果
「売上債権回転率」と「有形固定資産回転率」を候補として残す。
安全性
財務諸表一覧(安全性)
安全性の財務指標を以下に示します。
財務指標(安全性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
流動比率 | 127.28% | 133.43% | × |
当座比率 | 89.66% | 91.34% | × |
固定比率 | 132.11% | 161.38% | ○ |
固定長期適合率 | 79.99% | 81.87% | ○ |
自己資本比率 | 34.93% | 32.89% | ○ |
負債比率 | 186.30% | 204.04% | ○ |
考察
- 同業他社と比較した場合「短期安全性」は劣っているが、「長期安全性」と「資本調達構造」は優れていることが分かる。
- 「短期安全性」が低いのは「短期借入金」と「その他流動負債」が多いことが原因であるが、「その他流動負債」は重要ではないのであまり考えないこととする。
「短期借入金」について検討しようとするが、設備投資は内部留保から資金を賄っているとの記述があり、「借入金」が多いことを示す記述が与件文には見当たらないため、「短期安全性」の財務諸表は選択候補から除外することとする。 - 同業他社と数値の違いが目立つのは「固定比率」である。
「効率性」の財務諸表では、「有形固定資産回転率」は大規模なリストラクチャリングを断行した割には、それほど優れていないと判断している。ということは「固定資産」の残高が少ないというよりも、「自己資本」が多いという判断となる。 - 「資本調達構造」の財務指標でも、「自己資本」が多く、「負債」が少ないことを説明できるが、「固定比率」を選択しても説明ができるため、「資本調達構造」の財務指標を選択するのではなく、リストラクチャリングによる有形固定資産の効率化が図られたことと、獲得した利益の内部留保により財務基盤がしっかりしていることを説明できる「固定比率」を選択候補とする。
検討結果
「固定比率」で決定
Step4.財務指標の確定
最後に、「収益性」「効率性」「安全性」のバランスを見て、問題の条件と一致しているか、指摘する内容や原因が重複していないか、論理的な矛盾がないか、などの確認を実施しながら、最終的に解答する財務指標を確定します。
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収益性
- 長所の根拠を的確に示す指標として「売上高経常利益率」を選択する。
- 本社との密接な連携と、顧客の要求に対する迅速な対応という強みと製品の小型化・高性能化と安定した品質を実現し、顧客である大手メーカーからの信頼を得てきたことにより受注は安定的で収益も高いことを中心に長所を記載する。
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効率性
- 「安全性」の指標において、リストラクチャリングによる有形固定資産の効率化が図られたことを説明するため「有形固定資産回転率」は選択せずに「売上債権回転率」を選択することとする。
- 主要顧客への売上依存度が高く、売上債権の回収期間が長くなり、効率的に代金を回収できていないことを中心に短所を記載する。
-
安全性
- 長所の根拠を的確に示す指標として「固定比率」を選択する。
- リストラクチャリングによる有形固定資産の効率化が図られたことと、獲得した利益の内部留保により財務基盤がしっかりしていることを中心に長所を記載する。
Step5.解答
確定した財務指標を解答します。
① | (a) | 売上高経常利益率 | (b) | 4.46% |
(c) | 製品の小型化・高性能化と安定した品質により顧客から信頼を得ており、受注が安定しているため、収益性が高いことが長所である。(60文字) |
② | (a) | 売上債権回転率 | (b) | 7.80回 |
(c) | 主要顧客への売上依存度が高く売上債権の回収期間が長くなるなど効率的な回収ができていないため、効率性が低いことが短所である。(60文字) |
③ | (a) | 固定比率 | (b) | 132.11% |
(c) | 遊休資産の売却等による固定資産の効率化と利益の内部留保による強固な財務基盤の確立により、安全性が高いことが長所である。(59文字) |
最終解答を記述しながらも、与件文の「現在の生産能力には余裕がある」という記述や、貸借対照表で「建物・機械装置」の残高が多いことが盛り込まれていないので、「やっぱり有形固定資産回転率かなあ。。。」と悩んでいます。
「長所と短所で重要と思われるもの」を選ぶのは難しいですね。。。
最近の事例Ⅳでは、あまりこのパターンは無さそうですが、是非「長所と短所」を選ぶパターンの試験問題も何度か経験しておいた方が良いと思います。(私は難しいと感じました。)
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