今回は、「財務・会計 ~H23-2 引当金(1)引当金への繰入れ~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成23年度一次試験問題一覧~
平成23年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
引当金 -リンク-
本ブログにて「引当金」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 引当金のまとめ
- R5-7 剰余金の配当と処分(6)剰余金の配当
- R3-5 引当金(3)債務性引当金・非債務性引当金
- R2-2 引当金(2)貸倒引当金
- R1-7 企業会計原則(2)負債の会計処理と開示
- H26-2 売上割引・売上控除(2)売上割戻・売上割戻引当金
引当金の目的
「引当金」とは、債権者や株主等の利害関係者が企業の状況に関する判断を誤らないように「適正な期間損益計算」や「保守主義の原則」に則った会計処理を行って必要な会計事実を明瞭に表示するため、貸借対照表の負債の部(または資産の部から控除)に計上する将来の特定の費用または損失に備える準備金のことをいいます。
当期以前の活動に起因して次期以降に費用または損失が発生する可能性が高い場合「引当金」にその金額を繰り入れます。「引当金繰入額」は当期の損益計算書に計上して「引当金」は貸借対処表の負債の部(または資産の部から控除)に計上します。
また、次期以降に費用または損失が実際に発生した場合は「引当金」を切り崩して、その金額を支払います。
「引当金」の中でも有名な「貸倒引当金」では、当期以前の売上に関する「売上債権(売掛金・受取手形)」を、次期以降に回収できない可能性が高い場合に、その金額を「貸倒引当金」として当期以前の売上に関する「売上債権(売掛金・受取手形)」から控除する形で「貸借対照表」に表示します。
適正な期間損益計算への対応
「貸倒引当金」を例にすると、取引先の業績悪化などの理由により、当期に販売した商品や製品の「売上債権(売掛金・受取手形)」を次期以降に回収できなかった場合、「売上債権(売掛金・受取手形)」を回収できなかったという事実は次期以降に発生したとしても、その「売上債権(売掛金・受取手形)」は商品や製品を当期に販売したという事実に起因するため、回収できない可能性が高い金額は「費用収益対応の原則」や「発生主義の原則」に則り、当期の費用として計上します。
保守主義の原則への対応
「保守主義の原則」では、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行うことを要請しています。
「貸倒引当金」を例にすると、次期以降に「売上債権(売掛金・受取手形)」を回収できない可能性が高く(予測される将来の危険に備えて)、その金額を合理的に見積もることができる場合は、将来の費用または損失を先延ばしすることなく当期の損益計算に含める(慎重な判断に基づく会計処理を行う)必要があります。
引当金の定義
引当金は、「企業会計原則」の「企業会計原則注解(注18)」に定義されています。
企業会計原則注解(注18) ~引当金について~
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。
発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。
引当金の計上条件
「引当金」を計上するために満たすべき4つの条件を以下に示します。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その費用又は損失が当期以前の事象に起因していること
- その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
- その金額を合理的に見積もることができること
なお、発生の可能性が低い「偶発事象」に関する費用または損失を「引当金」に計上することはできません。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成23年度 第2問】
引当金への繰入れについての記述として、最も適切なものはどれか。
ア 偶発事象に係る費用または損失については、引当金を計上することはできない。
イ 将来の特定の損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生が確実に起こると予想され、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の損失として引当金に繰入れる。
ウ 将来の特定の費用であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用として引当金に繰入れる。
エ 将来の特定の費用または損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用または損失として引当金に繰入れる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
引当金の計上条件に関する知識を問う問題です。
「引当金」とは、債権者や株主等の利害関係者が企業の状況に関する判断を誤らないように「適正な期間損益計算」や「保守主義の原則」に則った会計処理を行って必要な会計事実を明瞭に表示するため、貸借対照表の負債の部(または資産の部から控除)に計上する将来の特定の費用または損失に備える準備金のことをいいます。
当期以前の活動に起因して次期以降に費用または損失が発生する可能性が高い場合「引当金」にその金額を繰り入れます。「引当金繰入額」は当期の損益計算書に計上して「引当金」は貸借対処表の負債の部(または資産の部から控除)に計上します。
また、次期以降に費用または損失が実際に発生した場合は「引当金」を切り崩して、その金額を支払います。
(ア) 不適切です。
「引当金」を計上するために満たすべき4つの条件を以下に示します。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その費用又は損失が当期以前の事象に起因していること
- その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
- その金額を合理的に見積もることができること
なお、発生の可能性が低い「偶発事象」に関する費用または損失を「引当金」に計上することはできません。
したがって、偶発事象の中でも発生の可能性が高いものについては引当金を計上することができるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
選択肢に記述されている内容を引当金の計上要件と比較します。
- ×:将来の特定の損失であって、
- ○:その発生が当期以前の事象に起因し、
- ×:発生が確実に起こると予想され、
- ○:その金額を合理的に見積ることができる
したがって、選択肢に記述されている内容は引当金の計上要件に合致しない箇所があるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
選択肢に記述されている内容を引当金の計上要件と比較します。
- ×:将来の特定の費用であって、
- ○:その発生が当期以前の事象に起因し、
- ○:発生の可能性が高く、
- ○:その金額を合理的に見積ることができる
したがって、選択肢に記述されている内容は引当金の計上要件に合致しない箇所があるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
選択肢に記述されている内容を引当金の計上要件と比較します。
- ○:将来の特定の費用または損失であって、
- ○:その発生が当期以前の事象に起因し、
- ○:発生の可能性が高く、
- ○:その金額を合理的に見積ることができる
したがって、選択肢に記述されている内容は引当金の計上要件に合致しているため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
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