今回は、「財務・会計 ~H22-14-1 企業価値(5)株主資本収益率~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業価値 -リンク-
本ブログにて「企業価値」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-22 企業価値(6)企業価値の評価方法
- H26-20-1 企業価値(1)企業価値の評価方法
- H26-20-3 企業価値(2)DCF法
- H24-20-1 企業価値(3)企業価値の評価方法
- H23-20-1 企業価値(4)企業価値の評価方法
配当割引モデル -リンク-
本ブログにて「配当割引モデル」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-21 配当割引モデル(4)
- H29-18/H28-16 配当割引モデル(1)
- H26-19 配当割引モデル(2)
- H26-20-3 企業価値(2)DCF法
- H24-16 加重平均資本コスト(WACC)(5)
- H23-20-2 配当割引モデル(3)
FCFを資本コストで除して企業価値を求める方法
ゼロ成長モデル
FCFと資本構成が永続的に変化しないという前提の場合、以下の公式により企業価値を求めることができます。
配当割引モデル
「配当割引モデル」とは、将来支払われる配当の現在価値の合計が株式の本質的価値であるとして、「配当」と「株主の期待収益率」から「理論株価」を算出する方法のことをいいます。
「配当割引モデル」には、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた「定率成長配当割引モデル」と、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」があります。
定率成長配当割引モデル
「定率成長配当割引モデル」とは、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定率成長配当割引モデル」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」とは、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成22年度 第14問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
B社は全額株主資本で事業活動を行っており、営業利益の確率分布は下表のとおりで今後毎期一定である。なお、営業利益は税・利益支払前利益(EBIT)に等しいものとする。
(単位:万円) 好況(確率:0.5) 不況(確率:0.5) 営業利益(EBIT) 1,200 800
(設問1)
B社の企業価値は、完全市場の仮定のもとで1億円と評価される。
このとき、B社の事業活動のリスクに対して、市場が要求する株主資本収益率として最も適切なものはどれか。
ア 8%
イ 10%
ウ 12%
エ 20%
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
「市場が要求する株主資本収益率」とは
この問題で求められている「市場が要求する株主資本収益率」とは「株主資本コスト(自己資本コスト)」のことを示しています。
株主資本コスト(自己資本コスト)
株主資本とは資本金などの純資産です。
企業が資本金を調達するために株式を発行している場合、株主に対して「配当金」を支払わなくてはなりません。これが株主資本コストです。
一方で、投資家は企業の株式を購入することで配当金によるリターン(収益)を期待しています。これを「株主の期待収益率」といいます。
株主資本コストは、このように立場の違いによっていろいろな呼び方があります。投資家から見ると「証券の期待収益率」や「株主の期待収益率」と呼ばれ、企業から見ると「株主資本コスト」や「自己資本コスト」という呼び方に変化します。
FCFを資本コストで除して企業価値を求める方法
FCFと資本構成が永続的に変化しないという前提の場合、以下の公式により企業価値を求めることができます。
上記の公式では、「フリーキャッシュフロー」を「加重平均資本コスト(WACC)」で除した金額が「企業価値」となっていますが、今回の問題で出題されているB社の資本構成は、負債がなく株主資本だけで構成されているため、分母は「株主資本コスト(市場が要求する株主資本収益率)」に置き換えて考えることができます。
「加重平均資本コスト(WACC)」については、以下の補足説明を参考としてください。
加重平均資本コスト(WACC)
加重平均資本コスト(WACC)の公式は以下の通りです。
加重平均資本コスト(WACC)を求める問題のポイントは、以下の2点です。
- 加重平均資本コストの計算には「株主資本コスト」と「他人資本コスト(負債)」の「時価」を使用します。
- 加重平均資本コストの計算には「税引後負債コスト」を使用します。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」の算出
「フリーキャッシュフロー」とは、企業が資金提供者(金融機関、社債権者、株主など)に対して自由に分配できるキャッシュです。
つまり、企業が営業活動により手に入れたキャッシュから、企業の営業活動に必要な設備投資などで支出したキャッシュを差し引いた残りのキャッシュであり、資金提供者である金融機関への利息の支払いや借入金の返済、社債を保有している人への利息の支払いや返済、株主への配当に充てることができるキャッシュのことを意味しています。
今回の問題では、「営業利益」は「税・利益支払前利益(EBIT)」に等しいとされているため、「フリーキャッシュフロー(FCF)」も「営業利益(EBIT)」に等しいということを示しています。
問題において、好況の場合と不況の場合における「予想営業利益(EBIT)」が与えられているため以下の式により「フリーキャッシュフロー(FCF)」の期待値を求めることができます。
- FCFの期待値 = 1,200万円 × 0.5 + 800万円 × 0.5 = 1,000万円
「市場が要求する株主資本収益率」の算出
問題において、B社の企業価値は「1億円」と与えられているため「FCFを資本コストで除して企業価値を求める方法」の公式を変形して「市場が要求する株主資本収益率」を求めます。
- 市場が要求する株主資本収益率
FCFの期待値 ÷ 企業価値 = 1,000万円 ÷ 1億円 × 100% = 10%
答えは(イ)です。
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