今回は、「財務・会計 ~H23-21 デリバティブ取引(金利スワップ取引)(1)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成23年度一次試験問題一覧~
平成23年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
デリバティブ取引(一次試験) -リンク-
本ブログにて「デリバティブ取引(一次試験)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R5-23 デリバティブ取引(為替予約)(2)
- R3-23 デリバティブ取引(オプション取引)(8)
- R2-15 デリバティブ取引(オプション取引)(7)
- R1-14 デリバティブ取引(オプション取引)(6)
- H30-14 デリバティブ取引(4)
- H30-15 デリバティブ取引(オプション取引)(5)
- H30-19 デリバティブ取引(為替予約)(1)
- H29-21 デリバティブ取引(先渡取引と先物取引)(1)
- H29-25-1 デリバティブ取引(1)
- H29-25-2 デリバティブ取引(オプション取引)(1)
- H26-22 デリバティブ取引(オプション取引)(2)
- H25-22 デリバティブ取引(2)
- H25-23 デリバティブ取引(オプション取引)(3)
- H24-21 デリバティブ取引(オプション取引)(4)
- H24-22 デリバティブ取引(先渡取引と先物取引)(2)
- H22-18 デリバティブ取引(3)
デリバティブ取引(二次試験) -リンク-
本ブログにて「デリバティブ取引(二次試験)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
デリバティブ取引の目的
材料や商品や製品の輸入や輸出を行う企業においては、為替レートの変動に伴う「為替変動リスク」の対策として「デリバティブ取引」を活用します。
「デリバティブ取引」は、為替レートの変動による損失(為替変動リスク)を回避(ヘッジ)するための手段であり、代表的な方法として「為替予約」と「オプション取引」と「スワップ取引」があります。
輸入を行う企業は業績に悪い影響を与える「円安」になった時に備えて、輸出を行う企業は業績に悪い影響を与える「円高」になった時に備えて、「デリバティブ取引」でリスクヘッジを行います。
なお、中小企業診断士試験で出題される「デリバティブ取引」は、あくまで「為替変動リスク」による損失を回避するための手段であり、為替レートの変動により利益を得ることが目的ではありません。
金利スワップ取引
「金利スワップ取引」は、同一通貨間で異なる種類の金利を交換する取引であり、金利変動リスクをヘッジするための手段として活用されます。
代表的な「金利スワップ取引」として、固定金利と変動金利を交換する取引が挙げられます。
「金利スワップ取引」には、他にも異なる種類の変動金利同士を交換する取引(※)などもありますが、固定金利の場合は将来のキャッシュフローが確定しているため、固定金利同士を交換するという金利スワップ取引はありません。
金利スワップ取引は、取引所を通さずに当事者間で直接契約を行う相対取引であり、取引の当事者間で取引内容を自由に決めることができます。
また、元本を取引の当事者間で移動させない「想定元本」で取引を行います。
(※)変動金利同士を交換する取引の例
- 同じ種類の変動金利で期間が異なるものを交換
3ヶ月円LIBORと6ヶ月円LIBORの交換 - 異なる種類の変動金利を交換する取引
円LIBORと円TIBORの交換
通貨スワップ取引
同一通貨間で取引する場合は「金利スワップ取引」といいますが、異種通貨間で取引する場合は「通貨スワップ取引」といいます。
「通貨スワップ取引」は「金利」だけでなく「元本」も交換する取引です。
また、異なる通貨の変動金利同士を交換することが一般的です。
金利スワップ取引によるリスクヘッジ
金融機関等から「変動金利」で借り入れを行っている企業は、金利が上昇した場合に金融機関に支払う利息が高くなる金利変動リスクをヘッジするために、「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を契約します。
- 借入金の金利として「変動金利」で利息を支払う。
- 金利スワップ取引により「変動金利」で利息を受け取る。
- 金利スワップ取引により「固定金利」で利息を支払う。
つまり、「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を契約することによって、支払う利息を固定金額にすることができ、金利変動リスクをヘッジすることができるという仕組みです。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成23年度 第21問】
金利スワップ取引に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 2つの企業が異なる市場で異なる評価を受けているとき、それぞれが比較優位にある市場で資金を調達するとともに、その債務をスワップすれば、互いに有利な資金調達ができる。
イ Z社は現在、変動金利で借入を行っており、金利上昇のリスクをヘッジするため固定金利受取・変動金利支払のスワップ契約を結んだ。
ウ 金利スワップでは、通常、金利交換だけでなく、元本の交換も行われる。
エ 金利スワップを締結した後、金利が下落すると、変動金利を受け取る側が有利になる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「デリバティブ取引(金利スワップ取引)」に関する出題です。
選択肢(ア)はかなり難しい内容です。実際に試験問題を解くにあたっては、選択肢(イ)(ウ)(エ)の内容が不適切なため、消去法により選択肢(ア)を選ぶ。という流れになると思います。
(ア) 適切です。
これは難しいです。
経済学で「比較優位の原則」を勉強してからでないと意味が分からないかと。
「長期固定金利資金調達市場」と「短期変動金利資金調達市場」という2つの市場では、資金を調達しようとする「企業の規模、収益力といった信用力」によって、調達コストの格差に大きな違いが発生します。
経済学で出てくる国際貿易論の「比較優位の原則」を金融市場に当てはめて、信用力の高い「企業A」と信用力の高くない「企業B」が資金調達を行うことを考えた場合、信用力の高い企業A(変動金利調達を希望)は「企業B」と比較して優位な「長期固定金利資金調達市場」で資金を調達しますが、信用力の高くない企業B(固定金利調達を希望)は「企業A」と比較して優位な「短期変動金利資金調達市場」で資金を調達するというように、それぞれの企業が、希望する金利支払形態に関係なく、比較優位を有する「資金調達市場」で資金を調達します。
「企業A」と「企業B」が、それぞれにとって比較優位な「資金調達市場」で資金を調達した後、両社で「金利スワップ取引」を契約すれば、両社ともに当初の希望通りの金利支払形態での資金を、実質的により低利で調達することが可能となります。
(参考文献)スワップ取引の経済学的分析(日本銀行金融研究所)
したがって、選択肢(ア)は適切な記述です。
(イ) 不適切です。
変動金利で借入を行っている場合、金利上昇のリスクをヘッジするためには「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を契約する必要があるため、選択肢(イ)は不適切な記述です。
リスクをヘッジするために、「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を契約した場合の「利息の受取/支払」は以下の通りとなります。
- 借入金の金利として「変動金利」で利息を支払う。
- 金利スワップ取引により「変動金利」で利息を受け取る。
- 金利スワップ取引により「固定金利」で利息を支払う。
つまり、変動金利の場合は、金利が上昇した場合に支払う利息が高くなるリスクがありますが、「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を契約することによって、金利が上昇したとしても支払う利息をあらかじめ取り決めた金額に固定することができ、金利変動リスクをヘッジすることができるという仕組みです。
(ウ) 不適切です。
金利スワップ取引は、同一通貨間で異なる種類の金利を交換対象とする取引であり、元本を取引の当事者間で移動させない取引のため、選択肢(ウ)は不適切な記述です。
(エ) 不適切です。
「変動金利受取、固定金利支払」という金利スワップ取引を締結する企業としては、「変動金利」が上昇するリスクに備えて、金利スワップ取引を締結します。
結果として、「変動金利」が上昇した場合は、金利スワップ取引を締結していたおかげでリスクをヘッジできた(得をした)ということになりますが、「変動金利」が下落した場合は、金利スワップ取引を締結しなかった方が、支払う金利が少なくて済んだ(損をした)ということになるため、「変動金利」が下落した場合は不利となります。
逆に「固定金利受取、変動金利支払」という金利スワップ取引を締結した企業としては、「変動金利」が下落した場合は、「固定金利受取-変動金利支払」という利益を享受することができる(得をした)ため、有利となります。
したがって、選択肢(エ)は不適切な記述です。
答えは(ア)です。
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