平成28年度 第17問を説明するために「貨幣の時間価値」「投資の意思決定(NPV/IRR)」と順を追って説明してきました。
今回は、「財務・会計 ~H28-17-6 設備投資の経済性計算(7)IRR~」について説明します。
「内部収益率法(IRR)」とは、正味現在価値が「0」となる割引率(内部収益率)を算出した結果が「資本コスト率」よりも高ければ、投資を実行するという意思決定方法です。
資本コストとは、企業が存続する限り最低限発生するコストであり、企業としては資本コストよりも収益性の低いプロジェクトに投資すべきではありません。
「資本コスト率」について確認したい方は「加重平均資本コスト(WACC)」を参照してください。
目次
財務・会計 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
設備投資の経済性計算(一次試験) -リンク-
本ブログにて「設備投資の経済性計算(一次試験)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R5-17 設備投資の経済性計算(19)IRR
- R3-18 設備投資の経済性計算(17)年間の税引後CF
- R3-19 設備投資の経済性計算(18)NPV・PI
- R2-23 設備投資の経済性計算(16)各期の税引後CF
- R1-23 設備投資の経済性計算(15)意思決定モデル
- H30-22 設備投資の経済性計算(14)NPV・IRR
- H29-15 設備投資の経済性計算(1)各期の税引後CF
- H28-17-1 設備投資の経済性計算(2)意思決定モデル
- H28-17-2 設備投資の経済性計算(3)投資により得られるCF
- H28-17-3 設備投資の経済性計算(4)例題(法人税を考慮しない場合)
- H28-17-4 設備投資の経済性計算(5)例題(法人税を考慮する場合)
- H28-17-5 設備投資の経済性計算(6)例題(NPV・PI)
- H27-16 設備投資の経済性計算(8)NPV
- H26-16 設備投資の経済性計算(9)NPV・IRR
- H25-17 設備投資の経済性計算(11)意思決定モデル
- H25-18 設備投資の経済性計算(10)回収期間法
- H24-18 設備投資の経済性計算(12)投資案の採否
- H22-15 設備投資の経済性計算(13)
設備投資の経済性計算(二次試験) -リンク-
本ブログにて「設備投資の経済性計算(二次試験)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
内部収益率法(IRR)
内部収益率による投資実行の判断基準は以下の通りです。
内部収益率が高いほど、より良い投資案ということになります。
内部収益率を実際に計算する問題は出題頻度が低いため、説明を省略します。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成28年度 第17問】
現在、3つのプロジェクト(プロジェクト①〜プロジェクト③)の採否について検討している。各プロジェクトの初期投資額、第1期末から第3期末に生じるキャッシュフロー、および内部収益率(IRR)は以下の表のとおり予測されている。いずれのプロジェクトも、経済命数は3年である。初期投資は第1期首に行われる。なお、法人税は存在しないと仮定する。(金額の単位は百万円)
キャッシュフロー IRR 初期投資 第1期 第2期 第3期 プロジェクト① -500 120 200 280 8.5% プロジェクト② -500 200 200 200 ( )% プロジェクト③ -500 300 200 60 7.6%
内部収益率法を用いた場合のプロジェクトの順位づけとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。たとえば、プロジェクト① >プロジェクト②は、プロジェクト①の優先順位が高いことを示す。なお、内部収益率の計算にあたっては、以下の表を用いること。
経済命数が3年の場合の複利現価係数および年金現価係数
6% 7% 8% 9% 10% 11% 複利現価係数 0.840 0.816 0.794 0.772 0.751 0.731 年金現価係数 2.673 2.624 2.577 2.531 2.487 2.444
[解答群]
ア プロジェクト① > プロジェクト② > プロジェクト③
イ プロジェクト① > プロジェクト③ > プロジェクト②
ウ プロジェクト② > プロジェクト① > プロジェクト③
エ プロジェクト② > プロジェクト③ > プロジェクト①
オ プロジェクト③ > プロジェクト① > プロジェクト②
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
今回の試験問題を解くにあたって必要な知識は以下の3つです。
- 内部収益率とは、プロジェクトの正味現在価値(NPV)が「0」となる割引率である。
- 正味現在価値(NPV)は「各期末に生じるキャッシュフローの割引現在価値-初期投資額」で計算することができる。
- 内部収益率が高いほど、より良い投資案である。
プロジェクト②は、第1期末から第3期末にわたって毎年200百万円という一定額のキャッシュフローを見込んでいるため、各期末に生じるキャッシュフローの割引現在価値は「年金現価係数」を用いて算出します。
「割引現在価値」について確認したい方は「割引現在価値」を参照してください。
各割引率における正味現在価値(NPV)は以下の通りです。
割引率 | NPVの計算式 | NPV |
6% | 200 × 2.673 - 500 | 34.60 |
7% | 200 × 2.624 - 500 | 24.80 |
8% | 200 × 2.577 - 500 | 15.40 |
9% | 200 × 2.531 - 500 | 6.20 |
10% | 200 × 2.487 - 500 | -2.60 |
11% | 200 × 2.444 - 500 | -11.20 |
割引率が9%の場合はNPVがプラスであり、割引率が10%の場合はNPVがマイナスとなっているため、プロジェクト②のNPVが「0」となる内部収益率は9%~10%であることが分かります。
内部収益率が高いほど、より良い投資案と判断されるため、プロジェクトの順位づけは以下の通りです。
プロジェクト②(9%~10%)>プロジェクト①(8.5%)>プロジェクト③(7.6%)
答えは(ウ)です。
コメント
いつも順を追った丁寧な解説をしていただきありがとうございます。
この問題は解き方のテクニックは分かりましたが、感覚的に腑に落ちない点があるので質問します。
それは、
・割引率をIRRとすること
・それが高いほどよい投資案だと判断すること
です。
この問題で言えば、プロジェクト③は減価幅が小さい時期ほどキャッシュインが多く、早期回収ができる良い投資案に見えます。が、結論としては3案中で最低評価を受けることになります。
また、この問題の解答の鍵になる年金現価係数も、割引率が小さいほど高い値になり、現在価値の向上につながると感覚的には思ってしまいます。
私は何を誤解しているのでしょうか?
もしプロジェクト③の3年目のCFが60ではなく100で、3案ともCF総額が600で揃っていたら、順位の逆転もあるんでしょうか?