今回は、前回の続きとして「財務・会計 ~H28-6-2 製造原価の構造(3)原価計算基準~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
製造原価の構造 -リンク-
「製造原価の構造」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
- H29-10 製造原価の構造(1)
- H28-6-1 製造原価の構造(2)原価計算基準
- H27-6 製造原価の構造(4)原価計算基準
- H25-9 製造原価の構造(5)労務費
- H24-6 製造原価の構造(6)原価に算入される項目
- H22-7 製造原価の構造(7)原価計算制度
- R2-10 製造原価の構造(8)直接労務費
製造原価の構造
「製造原価」の基本的な考え方は「原価計算基準」に定義されています。
「原価計算基準」は、昭和37年(1962年)に大蔵省企業会計審議会から公表された会計基準であり「企業会計原則」の一環をなす原価計算の実践規範とされています。
原価計算基準
前回の記事には、こちらからアクセスしてください。
本ブログでは、文章の意味を分かりやすくするために、原文をかなり意訳しています。
原文がそのまま出題された場合には意味が分からない可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
4.原価の諸概念
原価計算制度において、原価概念にはその本質や目的によって以下のようなものがある。
実際原価と標準原価
原価は、その消費量や価格の算定基準の違いで、実際原価と標準原価とに区別される。
- 実際原価とは、資材や労働の実際消費量を使用して計算した原価である。実際消費量は、正常な状態で発生した消費量であり、異常な状態に起因した消費量は含めない。実際原価は、厳密には実際の取得価格で計算した原価であるが、予定価格等を使用した場合でも実際使用量を使用して計算する場合は、実際原価計算という。
なお、予定価格とは将来の一定期間における取得価格を予想して定める価格をいう。 - 標準原価とは、科学的、統計的調査に基づき利益を達成するように設定する原価であり、さらに予定価格または正常価格を加味して計算した原価をいう。標準原価計算制度で使用される標準原価は、現実的標準原価もしくは正常原価である。現実的標準原価とは、達成することが期待できる標準原価のことをいい、正常な状態で発生する程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、比較的短期間の予定操業度や予定価格に基づき決定され、これらの条件が変化すると、しばしば改定される標準原価である。正常原価とは、異常な状態は含めず、比較的長期間に渡る過去の実績を統計的に平準化し、これに将来の正常能率、正常操業度、正常価格を想定して決定される原価をいう。
正常原価は、経済状態が安定している場合に、原価管理のための標準として用いられる。標準原価は、実務上では予定原価を意味することがある。予定原価とは、資材と労働の予定消費量と予定価格に基づき計算された原価をいう。予定原価は予算の編成に適しているだけでなく、原価管理や仕掛品の価額算定にも利用される。原価管理のため、理想標準原価が用いられることもあるが、そのような標準原価は原価計算基準では標準原価とは言わない。理想標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度で最高の能率を実現した場合の原価(最安値)をいい、資材や労働の消費における減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を含めない理想的(現実的ではない)な標準原価である。
製品原価と期間原価
- 原価は、製品原価と期間原価に区別される。
- 製品原価とは、製品の製造に要した費用をいう。
- 期間原価とは、一定期間に発生した費用を、当期の収益に貢献したものとして、直接対応させる原価をいう。
- 製品や仕掛品の製造に要した費用は製造原価であり、販売費および一般管理費は期間原価である。
全部原価と部分原価
- 原価は、全部原価と部分原価に区別される。
- 全部原価とは、製造原価と販売費および一般管理費を合計したものである。
- 部分原価とは、その一部分のみを集計したものであるが、最も重要なのは、変動直接費と変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である。
5.非原価項目
「非原価項目」とは、原価計算制度で原価に参入しない項目をいい、次のようなものがある。
- 経営目的に関連しない価値の減少
- 異常な状態を原因とする価値の減少
・火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失 - 税法上とくに認められている損失算入項目
- その他の利益剰余金に課する項目
6.原価計算の一般的基準
財務諸表の作成に役立つために
- 原価計算では、原価と製品を関連付けて集計して、製品原価や期間原価を計算する。すなわち、原価計算は原則として
(1)すべての製造原価要素を集計して、「損益計算書」では「販売された製品の売上高とそれに対応する製品の製造原価」を記載し、「貸借対照表」では「棚卸資産」として「仕掛品、半製品、製品等の製造原価」を記載できるようにする。
(2)また、期間原価として「販売費および一般管理費」を損益計算書に記載できるようにする。 - 原価の数値は、財務会計の原始記録や信頼性の高い統計資料等によって、その信憑性を確保しなければならない。
このため原価計算は、原則として実際原価で計算するが、実際原価は必ずしも取得価格で計算するのではなく、予定価格等で計算することもできる。
また、必要な場合には、製品原価を標準原価で計算して財務諸表に記載することもできる。 - 予定価格等または標準原価を使用して原価を算出する場合は、実際に発生した原価との差異を、財務会計において適正に処理しなければならない。
- 原価計算は、財務会計機構(財務諸表作成の仕組み)と有機的に結合して行うために、勘定組織には、原価に関する細分記録を統括する諸勘定を設ける。
原価管理に役立つために
- 原価計算では、各部門を管理責任の単位として管理の権限と責任を委譲して、各部門で原価を集計することで、各管理部門における原価発生の責任を明確にする。
- 原価計算では、原価要素を「機能別」「直接費と間接費」「固定費と変動費」「管理可能費と管理不能費」の区分に分類する。
- 原価計算は、原価標準の設定、原価の報告に至るまでのすべての計算過程を通じて、原価を測定表示することに重点をおく。
- 原価標準は、原価発生の責任を明確にするとともに、原価能率を判定する尺度として設定する。原価標準は、過去の実際原価に基づき設定することもできるが、理想的には標準原価として設定する。
- 原価計算は、原価標準と実績を比較できるように記録する。
- 原価計算は、原価標準と実績との差異を分析して報告する。
- 重点的、経済的に、かつ迅速に原価計算を行う必要がある。
予算とくに費用予算の編成ならびに予算統制に役立つために
- 原価計算は、設定した目標を達成するために予定原価または標準原価を設定し、予算編成に必要な資料を提供するとともに、予算と実績を比較できるように計算して、予算統制に必要な資料を提供する。
試験問題
それでは、実際の問題を解いてみます。
【平成28年度 第6問】
原価計算基準上の原価に関する記述として最も適切なものはどれか。
ア 原価には盗難による損失も含められる。
イ 財務諸表の表示上、全部原価のみが認められている。
ウ 実際原価は実際に発生した原価であって、予定価格が使われることはない。
エ 総原価とは製造原価の合計額のことをいう。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
ア 不適切です。
「第1章 5. 非原価項目」に以下の記載があります。
「非原価項目」とは、原価計算制度で原価に参入しない項目をいい、次のようなものがある。
- 異常な状態を原因とする価値の減少
・火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失
イ 適切です。
原価は全部原価と部分原価に区分されます。
「部分原価」では変動直接費と変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)が最も重要ですが、財務諸表の表示には「全部原価」のみが認められています。
ウ 不適切です。
「第1章 4. 原価の諸概念」に以下の記載があります。
- 実際原価は、厳密には実際の取得価格で計算した原価であるが、予定価格等を使用した場合でも実際使用量を使用して計算する場合は、実際原価計算という。
「第1章 6. 原価計算の一般的基準」に以下の記載があります。
- このため原価計算は、原則として実際原価で計算するが、実際原価は必ずしも取得価格で計算するのではなく、予定価格等で計算することもできる。
エ 不適切です。
「第1章 4. 原価の諸概念」に以下の記載があります。
- 全部原価とは、製造原価と販売費および一般管理費を合計したものである。
全部原価(総原価)は、「製造原価」と「販売費および一般管理費」で構成されています。
参考ですが、製造原価を構成する要素は「H29-10 製造原価の構造(1)」で説明しています。
答えは(イ)です。
コメント